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#婚約破棄
私に翌日は何事もなくやってきた。目が覚めると不安そうな表情のエリーが抱き締めてくれ、大丈夫よと逆に私が彼女をなだめた。
食堂で朝食をいただき、エリーに連れられて授業が行われる教室へと向かう。
……そういえば、今はいつなんだろう。この世界はゲームのとおりに進んでいるんだろうかと、ふと疑問に思った。
「……ねえ、エリー。そういえば、今日って何月何日? 私、それも忘れちゃって」
「そっか。聞かないから、それは覚えてるかと思ってた。今日は六月三日、木曜日よ」
「ありがとう。それなら授業は明日までで、土曜日と日曜日はお休み……と考えていいのかしら?」
「うん、そのとおり。土曜日に授業がある科目もあるにはあるけど、私とソフィーは取ってないから安心して」
半歩先を行くエリーが、微笑みを口元に携えてそう付け加えてくれる。
うんうん、これもゲームと同じね。今のところゲームと違うものはないし、まるっきりゲームと同じと考えて良いのかも……。
仲睦まじい男女とすれ違う。別に名前を持っているキャラクターではなかったけれど、私はそれを見て肝心なことに気が付いた。
「それとエリー……変なことを聞くかもしれないんだけど。あなた今、仲の良い殿方はいるの?」
「変なことではないけど……突然ね」
「ご、ごめんなさい。ここでは、誰もがあまり身分にこだわらず振る舞えるから、学生のうちから恋愛を楽しむ生徒も多いと……クラウス殿下から聞いて」
最後の言葉は嘘。これはゲームから得た知識だ。ここアイレンツィアは四国の領土が交わる場所にあり、各国の若者の交流の場として設けられた側面がある(完全にゲーム側の都合に感じるけれど)。
当然、各国の王侯貴族など、有力者の血筋も多く通っているが、王族や貴族にも婚約者がいない者も多く、ここで将来の伴侶を探すような一面もある。国際結婚をすることで、両国の更なる発展も見込める――と、どこかの地の文に書いてあったっけ。
当然、エリーも伯爵家出身だけれど、入学時点で婚約者はいない。そういえば、エリーはヒロインのはずなのに、いまだに攻略対象に会ってないな。昨日からほとんど一緒にいるけど、誰一人として現れない。
今は六月。ゲームの進行に置き換えると、四、五、六月の行動の結果、七月からは攻略対象のルートに入ることになる。四、五月である程度好感度を稼いでいれば、ルートに入りそうな対象との接点は増えるはずだ。
今が六月と分かった時点で、エリーが誰のルートに入りそうなのか。私は確かめたかった。どのルートでも、私にはある程度の役割があるだろうし。
そして悲しいかな。私は自分の考えをすぐに反芻した。そう、そうなのだ。私の推しで大大大好きなクラウス殿下は大変残念なことに?(私から見ての話に限るけど)、このゲームの攻略対象ではないのだ。
殿下はかろうじて立ち絵はあるものの、表情差分も、ボイスすらない、ほとんどモブに近いキャラクターなのだった(登場シーンの多い私は、流石に表情差分もボイスも実装されていた)。
私はその悲しい事実に、胸の中でだけ泣く。いいもん。ここでは本物の、生きているクラウス殿下に、いつでも会えるんだから!
それにエリーには大変申し訳ないけど、攻略対象でないクラウス殿下がエリーとくっつくということも絶対にないので、その点は非常に安心できる(もしエリーが攻略するのだとしたら、攻略対象であるクラウス様の弟、セルウス殿下になるだろう)。
エリーの返事を待ってそんなふうに考えていたけれど、私の考えが落ち着くまで、エリーが返事をすることはなかった。彼女が待っていてくれたわけじゃない。彼女がずっと黙りこくっていたから、そうなったのだ。
「今のソフィーにこんなこと言うのは、申し訳ないんだけど……実はね、私、記憶を失う前のあなたに、いろいろと手伝ってもらっていたの。男性と親しくなるために……」
「……そうだったの(知ってたわ)」
「あなたのおかげで、いろんな人と出会って、その人たちのことを色々と知っていったんだけど……」
目を伏せ、エリーは足下を見ながら続ける。少し寂しそうな、悩んでいるようにも見えた。
「……私には、まだ少し恋愛は早いんじゃないかなって」
「それはつまり……仲良くなりたい殿方は、今はいないってこと?」
私を見上げながら、エリーは頷いた。上目遣いにはにかむ仕草が、本当に可愛らしい。私のほうが少しだけ背が高いことに、今気付いた。……あれ? でも待って。それって、マズくない……?
私は平静を装いながら、「そう」とだけ返す。目的の教室へ入り、席に座る(この教室では特定の席をあてがわれているわけではないらしい)。授業に備えて教科書と筆記用具を鞄から出すけれど、私の頭の中は全然それどころではなかった。
(エリーには悪いけど……マズい。非常にマズいわッ!)
彼女の言葉を誤解なく解釈するなら、今エリーはルートに入りそうな攻略対象がいないことになる。でも、それはマジでマズい。私は最初にゲームをプレイしたときの記憶を思い起こしていた。
そのとき、私は複数の攻略対象とイベントを消化し、どのキャラも好感度がほとんど同じになってしまっていた。つまり、誰かしらのルートに入るだけの好感度を稼いでいなかった。その結果、どうなったか。
なんとゲームでは誰かのルートに入ることなく、そこで物語は終わり、そして地の文ではこのように説明をされた。
「エリザベスはそれから平凡な学生生活を送り、何事もなく学園を卒業。その後、各国は様々な事情の元で戦端を開く決断をする。当然、戦火は学園都市アイレンツィアも襲った。そうして、エリザベスはその先、平穏とはほど遠い生涯を過ごすことになるのだった――」
いわゆる、戦争エンドである。
(これはマズいッ!!!)