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第3話 「冒険者の街」
前回のあらすじ
女神に孤族の幼女に転生させられた後、レブロンとマーシャと共に王都に向かうことになった。
「ちょ…ちょっと待って欲しい……」
くたびれた様子の奏が、ぜえぜえと息を吐きながら死にそうな声でレブロンとマーシャの足を止めた。
「なんだ嬢ちゃん、もうへばったのか?w」
「無理しないで、休みたい時は言ってくださいね?」
レブロンの嫌味ったらしい声とは真逆で、マーシャは奏のことを気遣ってくれた。その様子は、転生させてくれた女神よりも女神のように見えた。
「ふ、2人は、だいぶ余裕そう、ですね……」
「冒険者はこんぐらいじゃへばんねぇーよっw」
「冒険者…ですか?」
「なんだ嬢ちゃん、冒険者も知らないのか?」
冒険者、オタクでなくとも聞いたことがあるであろう言葉。武器を片手にモンスターと戦ったり、困った人たちのために体を張る職業。男なら一度は夢見る存在だ。
「あまり詳しくは知らないです……」
「冒険者って言うのはね……」
それからマーシャは、冒険者について熱弁した。長すぎて途中からあまり聞いていなかったが、簡単に要約するとこうだ。
冒険者はS、A、B、C、D、Eの6つの階級に分けられている。
EからSになるにつれ、実力や評価、そして受けられる依頼の難易度が変わるらしい。
Eは、ちょっとしたボランティア活動のようなもので、薬草採取や迷子の子猫探しの依頼がほとんどらしい。だが、Sにもなると天と地ほどの差がある。Sランクの冒険者は、ドラゴンとやらを単独で討伐し、迷宮というモンスターだらけの巣穴を攻略できるほどの実力者が集まるらしい。といっても、現在冒険者協会、冒険者を管理する施設で確認されているSランク冒険者は3人だけらしい。冒険者はかなり稼げる職業らしく、道を数歩歩くだけですれ違うほどに人気なそうだ。ただ…
「冒険者は、みんながみんな善人という訳では無いんです。闇に隠れ、酷いことをする人がたくさんいます。時には強姦、人を殺す人だって…」
そんな奴がいるのか…まぁ、自分がそんな目に会うことはないだろうと、他人事のように話を聞き流す。
「俺らに出会えて良かったな!ついてるぞ?嬢ちゃん。」
レブロンの言う通りだ。もしレブロンたちでなく、その悪人どもだったら…
そう考えると、背筋が凍るようだった。特に、強姦野郎には会いたくないものだ。と、 典型的なフラグを立てたことに気付かずに、視界の端々に生えた木々がやっと開けたのを感じた。
ざわわと風が吹き、森の中とは比べ物にならないほどの太陽の視線が、奏たちを見つめていた。そんな、森から出た記念すべき第一声を飾ったのはレブロンであった。
「ようやく森を抜けたな、あと少しでアストヘルドだ。踏ん張れよ〜嬢ちゃん。」
「アストヘルドって?」
「あぁすまねぇ。アストヘルドのことを話してなかったな。冒険者の街アストヘルド、名前の通り冒険者が生まれ、集う街だ。」
冒険者…この世界に来たからにはなってみてもいいかもしれない!
これからの異世界生活に目を輝かせ、口からは期待の言葉が溢れ出ていた。
「私、冒険者になりたい…」
「お!そうかそうか!嬢ちゃんも俺みたいになりたいんだな?w」
「そうじゃないでしょ…」
奏が自分に憧れているとでも思ったのか、誇らしげに笑っているレブロンに唖然とした様子のマーシャ。だが、やはり夫婦なのか、目を閉じて呆れながらも微笑んでいた。冒険者になったら何をしよう、そんなことを考えている間に、整えられた道にたどり着いた。車が2台ほど通れそうな大きい道には、ガソリンで動く自動車ではなく、馬が引く馬車が通っていた。まさに異世界…流石である。
「あの、すみません…」
「はい? 」
マーシャが馬車に乗った男に話しかけていた。どうやら、乗せてくれと頼んでいるらしい。
馬車の男は行商人らしい。ちょうど王都へ商売に行くらしく、門まで乗せてくれることになった。
馬車の車輪がごとごと音を鳴らし、時々石に引っかかり少し跳ね上がる。
「親子で旅ですかな?」
行商人は奏たちのことを親子だと思っているらしい。行商人にとっては散髪の時に世間話をするアレの感覚なんだろうが、レブロンたちは恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
やっぱ夫婦だったのか…
結婚してまだ日が浅いんだろう。レブロンは満更でもなさそうだが、マーシャはそうでも無いようだ。しばらくその状態が続き、馬車だからからすぐに目的地に着いた。
「つきましたよ。私は仕事がありますので、失礼致しますね。」
行商人に一礼し、改めて目の前の建物を見上げる。
でっけぇ……
初めて博物館に行った幼い子供のように、王都を眺める。まぁ実際幼女な訳だが……
数十メートルにも及ぶ石造りの城壁。巨人でも入れそうなほど大きな門からは、行商人の馬車に、冒険者らしい格好をした戦士たちを乗せた馬車が出入りしている。
「こっちです!カナデちゃん!」
一足先に王都へ入ったマーシャたちが、大きく手を振って奏を呼んでいる。その様子は、子供を見守るお母さんのようだった。
そろそろ正体を明かした方がいいのだろうか…
そんなことを考えながら、マーシャたちの元へてくてく歩いて行った。巨大な門を越えると、外の自然の香りとは違った、街らしい匂いがした。といっても、元の世界の腐った臭いではなく、ほんのり鼻を刺す酒の匂いやこんがり焼けた茶色い肉の匂いだ。
「わぁ…! 」
辺りをキョロキョロ見渡しながら人にぶつかりそうになりながら歩く奏。それに比べマーシャ達は、随分と歩き慣れているようだった。
マーシャは、近くの建物を指差している。
「アソコが宿屋。1泊銀貨1枚で、食事付きとお風呂は追加で銅貨5枚です。あっちの建物は…」
銀貨やら銅貨やら言われても、自分の世界ではそんなもの無かったから分からないし、そもそも持っていない。
「それであの建物が、冒険者教会です。冒険者になりたいなら、2日後に登録するのがオススメです。」
「何か違うの?」
「新規登録歓迎キャンペーンがあるんです。」
「……」
やはりマーシャは母親に向いていると思う。
「では、私たちはこれで。それと、」
なにやらポケットをがさがさ漁っている。
「これ、どうぞ。足しにはなると思いますので、持っていてください。」
取り出したのは、布袋に入った硬貨だった。
「じゃあな嬢ちゃん!また会おうぜ!」
マーシャ達に手を振って、その背中を見ていた。
……宿に行くか…
奏は、マーシャから貰ったお金を大事そうに懐にしまい、クタクタな足取りで宿へ向かっ た…
第3話、これにて終了です。マーシャママとレブロンパパとは、しばらくお別れになるかもしれません……2500字越えが当たり前になってしまいましたが、これからもよろしくお願いします。
次回第4話、「奏の初めて、そして出会い」