テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
sideフジ
ドタバタしたバレンタインもすぎ、気がつけば4月。冬の肌を刺すような冷たい空気は何処かへ行き、すっかり陽気あふれる暖かい空気に包まれた春になっていた。
俺たち実況者は、社会人でもあるまいし特に環境が変わるとか、新しいことを始めるなんてこともなくただ「いつも通りの日常」を過ごしていくだけだ。
去年の冬は、最俺クリスマスも全員でできなかったし、今年はできるといいよなぁ……今から何するか考えとかないと!なんて遠い先のことを呑気に考えているうちにも季節はすぎ、肌を刺すような強い日差しと肌をじっとりと濡らすような夏が今年もやってきた。
「あちぃ〜道民の俺らからするとまじでこっちの夏、気温おかしいって !笑」と最俺ハウスで隣に座っていたキヨが言う。
「ほんとだよなぁぁあーーーー。こんなに暑いなんて、俺たちを世界全体が殺そうとしてるとしか思えないくらい!笑 こんなんじゃ外になんて出れないよー。笑」と俺が言うと、すかさずキヨが「いや、俺たち職業ゲーム実況者(笑)なんだから外でねぇだろ。」と鋭いツッコミを入れる。
「そんな!笑 買い物とか普通に外でるし、案件とかの話し合いとか!ほら!色々俺らもあるじゃん!ゲーム実況者って素敵なお仕事だよ!!」と言うと「嫌だわぁ〜ゲーム実況を仕事っていうやつ〜」と笑いながらキヨが返す。
最近はキヨの元カノと接触することもなく、平穏な日々を過ごしていた。
というか!!!夏!!!夏だよ!?!?
恋人同士がきゃっきゃうふふするイベントが盛りだくさんじゃないか。…
俺はワクワクした気持ちを胸にキヨに言う。
「キヨキヨキヨ!今年の夏は俺たち2人で花火大会に行こうよ!」
するとキヨは「人混みだとなぁ〜俺ら一応有名人だしさぁ〜視聴者のやつらに絡まれたら面倒なことになるぞ〜?」と言ってきた。だけども、その声は嫌がっているようには聞こえない。
内心キヨだって行きたい癖に!!
「なぁ〜頼むよキヨ〜。」
念を押すように俺はそう懇願する。すると「それいじってくんのやめろ!笑 」と言った後に満更でもない表情を浮かべ「しょうがねぇなぁ。花火大会、2人で一緒に行くか!」と言ってくれた。
花火大会は8/× 。今から楽しみで仕方ない。キヨと屋台で美味しいものを買って食べて。射的をしたり、金魚すくいをしたり。そして手を繋いで、花火を眺めて……。
ぁあなんてロマンティックなんだろう?
俺はワクワクしっぱなしな気持ちで、花火大会の日を待ち続けた。
「はぁ~~明日はついに待ちに待った花火大会だ~~」俺は完全に浮かれ気分で最俺ハウスの編集部屋にて、そう呟いていた。
それを俺の正面の席で聞いていたヒラは「なになに~今年はフジ花火大会行くんだ?」と問いかけてきた。
俺はいつにも増してにこやかな顔で「そうだよーー!!しかもキヨと!キヨ、人混みだし身バレ嫌だとか言いつつも、行ってくれるんだってさ!笑」と返す。
それを聞くなり、一瞬だけヒラの顔が曇ったような気がした。
だけどその後すぐにいつも通り元気そうな笑みを向け 「きっと素敵な日になるね!!キヨと楽しんできてね〜!」とヒラが言ってくれたので、俺の気のせいだったかなと思った。
するとその言葉に被せて「んな事言ってんじゃねぇよ!花火大会!?お祭り!?SASUGANI!?俺らもフジたちと一緒に行きたいっしょ!笑」と最俺ハウスの編集部屋に来たばかりのこーすけが言い放った。
それを聞いたヒラは「こーすけ!、フジとキヨ初めての花火大会デートだよ!?俺らが一緒じゃダメだって!!」と小声でこーすけに伝えているが、俺のところまで丸聞こえだった。
ヒラの言葉を聞いたこーすけが「あー、そういえばそうだったよなぁ、ごめんフジ。俺、フジのこともキヨのことも好きだし、最俺で花火大会行けたら楽しいだろうなって純粋に思っただけなんだよ。2人を邪魔したかった訳じゃないからな、SASUGANIな!?笑 」と申し訳なさそうな表情で伝えてきた。
なんだよこーすけ……。そんなふうに思ってくれていたなんてさぁ……。
俺は最俺というチームの仲間からこんなことを言ってもらえて、心底嬉しかった。
だからキヨには少し悪いけど、……
「明日の花火大会、ヒラとこーすけも一緒に行こうよ!!俺も絶対全員で行った方が楽しいと思うし!!」と2人に伝える。
それを聞くなり2人は「いいのか……?」という表情を浮かべていたが、後押しするように「何遠慮してんのさ!俺がヒラともこーすけとも一緒に行きたいんだからいいんだよ!!キヨだってきっと喜んで歓迎する!!」と言うと、2人の顔がぱぁっと明るくなり、「それなら行かせてもらっちゃおっかなぁ~」とか「楽しみだな!」なんて各々意気込んでいた。
二人での花火大会のはずだったけど、最俺全員で行ける花火大会だって絶対に楽しいに決まってる。
尚更明日が楽しみなまま、その後家へと帰り眠りについた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
sideキヨ
今日は待ちに待った花火大会。
フジに花火大会に行かないか?と誘われたあの日から、俺はわくわくしっぱなしでろくにゲームも手付かずでいた。
それは嘘だ。全然ゲームしまくりの日々だったわ。
だけど、楽しみな気持ちでいっぱいだったのは紛れもない事実だった。
ただ花火大会に行くのならまだしも、「2人で」……なんてさぁ。
これで楽しみじゃねぇやつなんかいないだろ!笑
俺は起きてすぐに今日の待ち合わせ時間や場所をもう一度確認する。
「8月×日、花火大会の最寄り駅18:00集合……っと。よし。」
今の時刻は12:00。行く前に昨日の夜に撮った動画の編集でもするか~と俺は机に向かった。
編集に没頭しているうちに時間はあっという間にすぎ、俺は身支度をし家を出た。
駅に着いて当たりを見渡してみるとそこにはフジの姿があった。「おーいフジーー!」と俺は声をあげる。するとその声に気づいたフジが「キヨーーーー!!」と俺の名前を呼びながら、手を振ってこっちへ向かってきた。
はぁ……今日もフジがかわいい。普通だいの大人は手振りながら駆け寄ってきたりしねぇよたぶん!!笑
今すぐにでも2人だけの空間に連れて行ってフジを愛でたいという気持ちを抑えつつ、「合流出来たし、そろそろ祭りに向かうか!」と声をかけると、フジがハッとしたようすで空へ目を向けていた。
その不穏さに、「どうかした?」と聞くとフジが「ごめんキヨ、そういえば言い忘れてたなぁ……って」と言う。
そんなことを話してると、ヒラとこーすけがこっちに向かってくるのが見えた。
それを見るなり俺は「なんでおめぇらいんだよ!?笑 ちょうど俺ら2人も花火大会行く予定なんだよ~ ラーヒーとこーすけも二人で回るのか?」と問いかける。すると、「あれ?キヨ、フジから何も聞いてないんだ?」とラーヒーが俺に向かってきょとんとした様子で聞いてきた。
ヒラとこーすけの様子を見るに、フジがさっき「言い忘れていたこと」というのはこの件のことだろうと一瞬にして察した。
「キヨごめん。昨日の夜にやっぱり2人より最俺全員で行った方が祭りだし、楽しいよな~って話になって、キヨにそのこと伝えようと思ってたのに俺、楽しみいっぱいで忘れちゃってた……。」としゅんとした表情でフジが告げる。
「2人で」行くのを楽しみで浮かれていたのは俺だけだったという事実が、なんだか今日はすごく寂しく感じた。
こういう時に出てくる独占欲は、本当にろくなものじゃない。最俺全員で花火大会行ったら絶対楽しいに決まってんのにな。
こんなしょうもないこと考えてたって仕方ねぇよな!と思った俺はしっかりと気持ちを切り替え、「ぉおぃっ!笑 忘れんなよな~!笑 最俺全員で一緒に花火大会とか絶対誰かしら視聴者のやつらにバレそうじゃねぇかよ!笑」といつものテンションで返す。そして、「ほら!行くぞ!」とフジの手を引いた。
それにつられたラーヒーやこーすけも後に続き、ぞろぞろと移動しだした。
会場に着くやいなや、屋台の香ばしい香りが当たり一面に広がっていた。
それを見たフジとこーすけは「あれすげぇ美味そうじゃん!!買いに行こうぜ!?」と食べ物の話で盛り上がっていた。
ラーヒーは風景をみつつ、「あれ美味しそ~!」「これも美味しそ~!」と優柔不断な様子だった。かという俺も、どれを食べたいかまだ決まっていなかったから、「食いたいもん決まったなら先フジとこーすけ買ってきていいぞ~ 俺とラーヒーも適当になんか買っとくから、その後集合しような!」とふたりへ向かって言った。
すると2人は「おっけー!じゃまた後で!」と言い、「こーすけさっき美味しそうだったやつ買いに行こ!」と言い、フジがこーすけの手を引いて人混みへ消えて行った。
「手を繋ぐ」なんて友情の範囲でもいくらだってする行為なことくらい俺だってわかっている。だけどどうしてもモヤモヤした気持ちが生まれてしまう。
本当なら、今日はあの笑顔を、行動を、俺が独り占めできるはずだったのに。手を引かれて、一緒に何がいいか選んで。
そんな日になる予定だったのになぁ。
「キーヨ!ちょっと!キヨー?」
そんなことをぐるぐる考えていたらラーヒーが「大丈夫?」と顔を覗き込んできた。
「ったりめぇだろ!笑」と俺はいう。
だけどヒラは俺の真相を突くように「本当はさ、フジと2人が良かったんでしょ。」と少し寂しそうな表情で伝えてきた。
そんなことないよ。って咄嗟に言えたら良かった。
返事が上手くできていない俺を見て「やっぱそうだよね」とヒラが言い「ラーヒーにはやっぱ隠せねぇか~、」と俺は返した。続けて
「最俺全員で行くお祭りも絶対に楽しいって本気で思ってるのは嘘じゃないんだけどさ。やっぱりフジと2人だったら、フジのこと独り占め出来たんじゃないかなって、なんかわかんねぇけど今日は勝手に悲しくなって、勝手に嫉妬して。そんなことばっかなんだよな 笑」と話す。
それを聞いたヒラはどこか苦しそうな表情で、「嫉妬する気持ちはよくわかるな~、俺にも未だに諦められないけど、諦めなきゃいけない人へ、そういう気持ちを抱くことがよくあるんだ。」と告げる。ラーヒーにもそういう感情を抱く相手がいたというのは初耳だった。
俺とフジのことを結んだのはヒラと言っても過言ではないほどに俺はヒラに助けられてばかりだ。
だから次は俺がラーヒーの恋のキヨーピッドになりたい!!と思った俺は「なんか俺にできることあったら言ってな!俺、ラーヒーの気持ち応援するからよ!」と伝える。
相変わらずヒラは複雑で苦しそうな顔をしていたが「ありがとうね。キヨ」と伝えてきた。
もしかすると、相当手の届かない存在へ想いを抱えているのか?なんてその時の俺は考えていた。
ようやく各々屋台で食べ物を調達し、花火が見える海岸で合流した。
「海なんて俺ひっさびさにきたわ~」と俺が声を上げると「はしゃぎすぎだよキヨ!笑 今日の目当ては海じゃなくて花火だし!」とフジがツッコミを入れた。
いくつになっても海やアミューズメント施設を前にすればわくわくが止まらなくなるのが「男」というもの。わくわくしちゃってんの俺だけじゃねぇくせに!みんなしてしけた感じ醸し出してなんなんだよ!笑 なんて思ったが、俺も大人なので「時間まで話でもして待とうぜー。」と提案し、各々最近のことを話していた。
そんな中でヒラから聞かれた話だった。「最近、2人はどうなの?」と。改めてどうなのかって言われるとどう答えたらいいのか分からないけど、仲良く……はしてるよな?と思い「なんも変わんないよ。ずーっと仲良いし。」とヒラに向けて返答する。
すると続けて「フジの件の女とかさ、何かまたされてない?」と問いかけてきた。それにはフジが「うん。大丈夫。最近は俺もキヨも会うことないから!」と返答した。
フジの返答を聞くなりヒラは「よかった……」とすごく安心している様子だった。
やっぱりメンバーが刺された……なんてことがあったらそりゃ心配になるよな。
俺もあの時は心配で死ぬかと思った。大袈裟じゃなく、本気で。
「またなにかあったら俺たちにも相談してよ〜。絶対もうフジを危険な目に合わせたりしないからね。」と言ったヒラの表情は、いつもに増して真剣なように感じた。
俺も、この先もフジを守っていけるよう、幸せにできるように頑張って行かなきゃな!なんて俺の心の中にも改めて強い決意が生まれた。
そんなことを話している間に、「花火大会開始まで、あと30分です。」というアナウンスが会場全体に鳴り響いた。
「花火が始まる前に、俺トイレ行ってくるね〜」とヒラが言い出すと、「ラーヒーまって!俺も行っておきたい!」とフジも便乗し、2人はトイレへ向かった。
「気をつけて行ってこいよー。人混みだし迷子になるなよー。」と俺が一言告げると、「子供じゃないし!大丈夫だから!笑」と返事をしたフジは少しむすっとした様子だったが、不意にやっぱりフジは可愛いな なんて思った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
sideヒラ
「…」
時は遡ること数分前。
トイレに行くと言って場を後にした俺とフジは完全に迷子になってしまった。
会場は海辺ということもあり、目印などなく、「どの屋台の近く」という目印も、同じようなものを売っている屋台が沢山あるためにこーすけたちと元いた場所に戻れないまま20分が経過していた。
「どうしようラーヒー!!泣 キヨたちと合流するのなかなか無理そうじゃない!?泣」とフジが問いかけてくる。その目は迷子になった子供そのもので、少し可哀想になってくる。
あいにく、スマホや財布は「トイレに行くだけ」のつもりだったからこーすけたちの元に全て置いてきてしまった。
だから、連絡手段なし…っと。
だけど俺はこの状況を正直嬉しいと思ってしまった。
今まではずっと2人 でゆっくり話すって時間があったけれど、フジがキヨと付き合ってからは、そういう時間があまり取れていなかったからだ。
だからこそ、このチャンスを手離したくないと思った。フジと2人っきりで居たいと思ってしまった。
「ねぇフジ。もうあと5分で花火始まっちゃうしさぁ、俺と2人で花火見ようよ〜!」
そう俺はフジに告げ、にっこりとした笑みを向けた。
コメント
2件
やばい!続きが気になる!ラーヒー?!?!どうした??まさかの展開?