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ランスロットの剣技は、苛烈というよりも堅実。豪快というよりも繊細だ。
その禍々しい外観の装備とは異なり、騎士と名乗るだけのガードを主体とした、甲冑装備の防御力の高さを活かした動きは、さすがは少数精鋭主義を掲げる聖剣騎士団でも幹部を務めていただけの事はある。
アロンダイトのリーチはロングソードより長く、大剣カテゴリに近い。それを更に片手で振るのだから更に、やや長めに錯覚を覚える。
左手に弓矢、右手にゼーレシュナイダーという剣を持ち、キルげ・シュタインビルドとはランスロットと対照的に連続攻撃を仕掛け続ける。
ランスロットが装備する盾は中型の長方形の盾であり、ガード範囲は程々に良い。また、ガードは意外とスタミナを奪われる。たとえ防がれようとも、キルゲの攻撃を防ぎ続ける限りは先にスタミナを失うのはランスロットの方だ。
だが、ランスロットも負けていない。オレが踏み込みと同時に放ったゼーレシュナイダーの斬撃を軽やかに避け、逆にアロンダイトを突き出す。それを体を捩じって回避するが、突きから派生した横薙ぎを咄嗟に左手でガードさせられる。
皮膚が霊力で強化されているのでアロンダイトの一撃を防ぐ。攻防の開始から先に体力が減っていくのはランスロットたけだ。更にキルゲ・シュタインビルドは追い打ちをかけるべく神聖滅矢を放つ。
それはランスロットの兜のスリット、細長い覗き穴へと真っ直ぐに飛ぶが、ランスロットはそれを盾でガードして防ぐ。だが、それこそが狙いであり、キルゲ・シュタインビルドは霊力の炎の津波を発生させる。
爆発と爆炎により、ランスロットが微かに呻く。再び間合いが離れ、キルゲ・シュタインビルドとランスロットは睨み合う。だが、それも一瞬の事だ。二人は同時に踏み込んだ。
「ハッ!!」
「ふっ!」
小さく息を吐き、キルゲ・シュタインビルドはランスロットのアロンダイトによる袈裟斬りを腕で受け流す。刀身が皮膚の表面を削り、激しい火花を散らす。この程度で折れはしない。斬撃を受け流されて体勢を崩したところにキルゲ・シュタインビルドはランスロットの右肩から胸にかけてゼーレシュナイダーを潜り込ませる。だが、あと1歩の踏み込みがたらず、鎧の表面を削るに留まる。
ここでランスロットの足払いがキルゲを襲うも、跳躍して回避し、キルゲはダメージを恐れずに蹴りをランスロットのこめかみを狙って打ち込む。これにはさすがのランスロットも対応できずに直撃して倒される。しかしただの蹴りては流石にやられはしない。
だが、体勢を崩した瞬間、キルゲはゼーレシュナイダーを追撃で振り下ろす。寸前で盾で防ぐランスロットだが、片膝を着きながらでは十分に堪えられず、更に弾かれて転倒する。
「はぁッ、はぁッ」
「おやぁ? もう終わりですかな。ランスロット殿」
「フッ、まだやれる」
それを見ていたエーゼ・ロワンとアイリスディーナが言葉を交わす。
「流石、ハイレベルな戦いね」
「貴方、今の戦い見えてる?」
「微かにだけどね。速度が尋常ではないわ」
「あの二人強いわね。キルゲさんは遠距離型のイメージがあったけど近接戦闘もここまでできるなんて」
「ゼーレシュナイダーは切り口から霊子を抜き取るために斬りつけるための武器。それであそこまて戦っているキルゲさんのほうが強いわ」
「でも編よね。遠距離から弓矢を撃ち込めばよいのに」
「何か近接をしないといない理由があるのかしら?」
攻勢に出たのはキルゲだった。それに対し、ランスロットは盾を構えながら横走りをして回り込もうとする。広めとはいえ、小さな柱が乱立する壁の無い木造建築の空間では下手に暴れ回れば落下死も免れない。ましてや、足下には人肉、天井にもロープでぶら下げられた人肉、そして黒い液体を湛える壺も決して少なくない数ある。
ランスロットの足取りに迷いは無く、キルゲ達は周囲に気を配らねばならない。この地を知り尽くしているランスロットとキルゲ達とではアドバンテージに大きな差がある。
「もう少し欲しいですね」
キルゲは右足の踵で数度床を叩く。鳴らされた心地良い木の軋む音がリズムを変える。
姿勢を低くし、キルゲはランスロットへと突撃する。それはカウンターを誘う直進である。予想通りランスロットはこの勝負に受けて立ち、盾を構えて1歩大きく踏み込む。
足下から浮かび上がるようなキルゲのゼーレシュナイダーの斬り上げ。それはパリィの餌食となり、キルゲの手元からゼーレシュナイダーが奪われ、宙を浮く。その隙にアロンダイトを振るうランスロットだが、その一閃を左手で受け止める。
火花を散らし、皮膚と棘を纏った刃が激突する。
宙を舞うゼーレシュナイダーが足下に落下する瞬間、キルゲは右足の甲でゼーレシュナイダーの柄頭を蹴り上げる。飛び上がったゼーレシュナイダーはランスロットの胸を浅く裂き、赤黒い光が散る。
半ば反射的に後ろに退いたランスロットに、キルゲはゼーレシュナイダーを逆手で掴み、振るう。僅かに前進しながら、逆手持ちのゼーレシュナイダーで発揮される赤い光を纏った高速斬撃はランスロットの腹を半ばまで断つ。
いかに騎士鎧とはいえゼーレシュナイダーは魂を切り裂き、それを霧散させる剣だ。騎士鎧の魂……霊力が溢れる。
ランスロットは呻くようにつぶやく。
「やはり、噂は噂に過ぎなかったわけか」
「なんです?」
「キルゲ・シュタインビルドとは言えば、指揮と遠距離攻撃が優れると聞いたが……近接戦をここまでやるとは」
ランスロットの声に焦りは無い。むしろランスロットに感心すら払う余裕もある。
「だが、私の祈りは貴様如きに折れなどしない」
途端にランスロットの口から紫色をした煙が吹き出される。【毒の霧】だ。ランスロットは脇目もふらずに背を向けて闇の中を駆け、軽やかに跳躍する。床の終わりの先、そこには数メートル下に木造建築の屋根があった。
不利と見るや否や逃走か。騎士という割には柔軟な対応だ。キルゲはランスロットの危険度を引き上げる。ここで仕留めねば、いつ襲われるか分からない奇襲によって身動きが取れなくなる。
ランスロットを追ってキルゲも跳躍するも、即座に反転したランスロットはキルゲに向かって黒火炎壺を投げつける。直撃する前にそれを神聖滅矢で迎撃し、キルゲとランスロットの間で強烈な爆発が引き起こされる。
爆炎に紛れてランスロットがキルゲに躍りかかる。やや傾斜した屋根の上をものともせず攻撃するキルゲの一撃をランスロットはギリギリで躱す。そしてランスロットはまたしても屋根から屋根へと飛び移る。
「ふむ、鬼ごっこともう終わりにしましょう」
キルゲ・シュタインビルドは懐から銀色の筒を取り出す。そして追いついてきたアイリスディーナとエーゼにバリアを張ると銀筒を投げ捨てる。
「神聖滅術・第九十・聖櫃」
光の柱が上がった。
炎だ。
神聖なる炎の柱。
不浄なものは全て焼き尽くされる。
「ランスロット……貴方の敗因は私と敵対したこと。それのみです」
病み村と呼ばれる場所はランスロットの傷口から漏れ出した霊力を元に炎の強さを増していき、やがてすべてが焼き払われた。
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