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下半身を中心に広がる痛みも継続的なものになると痛みに感じないのか、押し広げられて中で蠢くものが与えるそれを認識出来なくなる。
腰の上で拘束されていた手は解かれて肩の痛みはなくなったが、代わりに首輪と両手首を鎖で繋いで固定されているために自由に動かすことはほぼ出来なかった。
口に噛まされた玩具は何度か外されたものの、その度にウーヴェが反抗するように声を上げたため、まだまだ吼え癖が治らないと噛まされ罰として鞭で背中を叩かれていた。
鞭で何度も叩かれた背中にはみみず腫れが走り、血が流れ落ちては固まった跡がいくつもあったが、最も酷いのはウーヴェの右腰辺りにある4本の縦線とその上から横一直線に引かれたようなナイフの跡だった。
それはジルベルトが男に命じウーヴェをレイプする中で射精した回数を数えろと伝え、男がナイフでウーヴェの腰にカウントした跡だった。
同じような縦に走る傷が他にも三本その近くにあり、それは今ウーヴェの躾を引き受けている男ではなくフランクフルトから運転手としてルクレツィオに従っている屈強な男-名前はトーニオ-が同じくウーヴェの中に射精した回数を表していた。
リビングのテレビで地下室の様子を見て楽しんでいたルクレツィオ達だったが、男が疲れた様子を見せればトーニオに命じて白い肌だけではなく身体の奥にも傷を残すように犯させていたのだ。
犯された回数を自らの身体に刻まれその度に短く悲鳴を上げるウーヴェだったが、苦痛にターコイズの双眸を曇らせながらも決してお前達の言いなりにはならないと睨み返していた。
その度に傷が増える為男などはいい加減諦めて現状を受け入れろと囁くのだが、諦めることはしない、生きてあいつの所に戻るまで絶対に諦めないとの思いを新たにし、背中や尻を鞭で叩かれる痛みに耐えていた。
諦めさえしなければ、きっとリオンが迎えに来てくれるはず。
その思いだけがウーヴェを支えているようなもので、代わる代わる二人の男に犯されながらもリオンの元に戻ることだけを考えていた。
ウーヴェの肌に傷を刻んだ男がいわゆるドッグスタイルをさせるために上げさせていた尻を高い音をさせて叩いた後、中に埋め込んだものを引き出す輪に指を引っかけて一つずつ抜けていくのが分かるように引っ張っていき、大きさの違うボールが中から出てくるたび喉の奥に籠もった声が聞こえ、試しに一気に引き抜いてみると腰がびくびくと痙攣する。
「……随分と物好きだな」
こんな玩具でもケツを振ることが出来るなんて根っからの好き者なんだろうといつの間にか降りてきていたルクレツィオがケージの外から楽しげに笑いかけると男が淫靡な笑みを浮かべ、あと一つで総てが抜け出しそうなボールが連なったそれを時間をかけて押し込んでいくが、口に噛まされた玩具を噛み締めることでウーヴェは堪えていた。
そんな様を見下ろしていたルクレツィオがウーヴェの両手首と首を繋ぐ鎖を一纏めに掴んで引き上げると、首と下半身から芽生える苦痛にウーヴェが眉を寄せ、口の端から唾液を垂らしながら呻き声を零す。
「……良い顔だな」
この顔を録画して客に送りたいからこちらを向けさせろと男に命じ、ウーヴェの顔が映る場所にまで引き摺らせると、ウーヴェが小さな抵抗を示す様に身を捩る。
それが癪に障ったのかケージのドアを勢いよく開けたルクレツィオは、驚く男を尻目にウーヴェを力任せにケージから引きずり出して脇腹を蹴ると、苦痛に呻くウーヴェの肩を踏みつけながらお前のものを突っ込めと男に命じる。
その威圧的な態度に当然男が逆らえるはずもなく、ボールが連なるそれを勢いよく抜き取って広がったそこに男はドラッグのせいで勃ちっぱなしの己のペニスを突っ込みウーヴェの頭を仰け反らせる。
そんな男に良い子だと褒め言葉を伝えたルクレツィオは、愛用のバタフライナイフを地下室の明かりに光らせた後、鞭の跡がみみず腫れになっている背中に切っ先を驚くほどの鄭重さで滑らせていく。
「ァアアッ……グ……ゥ……!!」
ナイフで切られる痛みにウーヴェの背中が撓むが、跳ねる頭を押さえつけて背中を丸めさせると、たった今出来たばかりの赤い道筋をなぞるように同じく丁重な手つきで、今度は切っ先を少し深めに差し込んで引いていく。
「ィ……ァアアァアア!!」
「……ッウ……ッ!」
頭を押さえつけられ傷口を文字通り抉られて身体が跳ねるがそれすらも抑え込まれたウーヴェの口から悲鳴が流れ、痛みに全身の筋肉が緊張したため、ウーヴェの中にペニスを突っ込んでいた男が締め付けられる苦痛に顔を顰める。
「気持ち良いだろう?」
そんな男にさも楽しそうに笑みを浮かべたルクレツィオは入って来たジルベルトに顔を向け、今のこの顔をカメラにはっきり映るようにしたいと笑い、頷いたジルベルトがウーヴェの顎を掴んで痛みに茫洋とする双眸を覗き込む。
「良い顔になってるじゃねぇか、ドク」
お前のことは前々から気に食わなかったがこんな良い顔も出来るのなら捨てたものでも無いなと笑い、ぐったりするウーヴェの身体をルクレツィオと二人で抱え上げると、まだまだ硬さを持った男のペニスに跨がるように座らせる。
「─ッ、アァア……」
ウーヴェの身体が跳ね口の端から流れ落ちる唾液が首筋をてらりと光らせる様が録画できているかを確かめるためにカメラの前に立ったジルベルトは、これをあの時のようにリオンに見せれば怒り狂って捜査の邪魔をするに違いないと思案するが、己の親友が-今もジルベルトはリオンの事をそう思っている-例え家族が絡んだ事件だとしてもいざとなれば己の感情を押し殺せる男である事も思い出す。
それ故にこの動画をリオンに送ったとしても目立った効果が出ない事に思い至ると、送り先をウーヴェ自身の友人知人にした方が良いと唇の端を持ち上げる。
幼馴染みのその笑みに何かを感じたルクレツィオはウーヴェの声も入れたいと男に告げて口に噛ませていた玩具を外すと、ウーヴェの口から低い苦痛の声が流れ出す。
「何か楽しいことを思いついたのか?」
自分たちの声が極力入らないように小声でジルベルトに呼びかけたルクレツィオは、ジルベルトがウーヴェの携帯で撮影を始めたことに気付き誰に送るんだと目で問いかける。
「こいつの知人に送れば面白いと思わないか?」
「恋人に送るんじゃないのか? 俺ならそうするぞ」
ジルベルトの真意を察することが出来ずに眉を寄せたルクレツィオだったが、リオンには別の動画を送りつけると笑われ、少し考え込むように天井を見上げるが面白い未来が見えたのかさも楽しそうにジルベルトの肩に腕を回す。
「二つも動画を送るのか?」
「リオンは動画だが友人には突っ込まれている所と、ああ、さっきの顔も送ってやろう」
「知人に送りつけて脅迫させる道具に使うのか?」
「いや。俺がやりたいのはこいつを生かしたままプライドを粉々にすることだ。こいつの知人がそれをネタに家族か誰かを脅迫することに興味はない」
だからこうして地下室に監禁しているが命を奪うことは絶対にしない、殺してくれと言われても生かし続け一生ゲス野郎のおもちゃになれば良いと笑うとルクレツィオが最高だとの思いを伝えるようにジルベルトの頬にキスをし、ウーヴェの声を聞かせろと男に命じると、男がウーヴェの腰を掴んで身体を上下させる。
「ゥ、ウゥウ……ンッ……ン……」
男が突き上げるたびに背中を切られた痛みと中を蹂躙される苦痛にウーヴェが呻き声を上げ、硬くならないウーヴェのペニスが揺さぶられる。
その光景を数枚の写真に納めたジルベルトは己の腕前に納得しつつアドレス帳を調べるが、見知った名前を発見し笑みを浮かべてたった今撮影したそれをメールに添付して送信する。
「……大丈夫なのか?」
「ん? ああ、大丈夫だ」
お前の思いつきは最高だがこちらの居場所を特定されないのかと問うルクレツィオに頷いたジルベルトは、客に送る動画には声がちゃんと入ったから少し休憩をしよう、それが終わったら上で酒でも飲もうと男の肩を一つ叩き、早くウーヴェの腰にもう一本縦の傷を増やせと促すのだった。
夜のかき入れ時のゲートルートは厨房もフロアも戦場のように忙しく、いくつもの注文をこなしながら他のスタッフに指示を飛ばしていたベルトランは、ポケットに入れたスマホが振動したことに気付くが、手が離せなかったために放置してしまう。
いくつか料理を仕上げて手が空いたのはスマホが振動してから30分以上も経った頃で、ようやく落ち着けた安堵と喉の渇きを覚えてビールを一口飲んだベルトランはスマホを取りだし、メールの着信を知らせるアイコンをタップして誰からのものかを確かめるが、ウーヴェからのメールである事に気付き珍しいと苦笑する。
生後間もなくの頃からの付き合いであるウーヴェには急遽ゲートルートで食事をする事になっても大丈夫なようにベルトランが専用のテーブルを用意しているのだ。
だから店の混み具合に関係なくいつ来ても大丈夫だったため、店の混雑具合をメールで問い合わせることなどほとんどなかった。
それに他の用事-例えば仕事終わりに飲みに行こうなどと言ったお誘いも、店の電話に連絡をしてくるため本当にメールなど珍しいと思いつつ画面を開いたベルトランは、文面も何もない、サイズが比較的大きな添付ファイルがいくつかついているだけのメールに首を傾げ、同じく人心地ついたチーフがどうしたんですかと問いかけてきたためウーヴェからメールが来たと返すと珍しいと笑われる。
「だよな。あいつからメールなんて今まで貰ったことないぞ」
しかも添付ファイルだけだなんてと苦笑するが、とにかく添付ファイルの内容を確かめなければとの思いから画面をタップする。
「添付ファイルだけ? それってウイルスメールじゃないんですか?」
「オーナー、開けない方が良いですよー。ウーヴェのアカウントが乗っ取られてるかも知れませんし」
最近テレビで良く聞くSNSの乗っ取り事件、それかも知れないと皆が笑ってベルトランに忠告するが返事がないことを訝ってベルトランを見ると、未だかつて見たことがないような形相で己のスマホを睨み付けていて、チーフが恐る恐る声を掛けるまで微動だにしなかった。
「オーナー……?」
「……チーフ、悪いが後を頼む」
「え?」
チーフの呼びかけに悪いが行くところが出来たとだけ返したベルトランは、どこに行くんだとチーフが慌てて手を掴むが珍しく乱暴に腕を振り払い、キングの所に行ってくると怒鳴ったため、ベルトランが怒鳴る姿など見たことがないスタッフも驚いてしまう。
「オーナー?」
『……今入ったニュースです』
厨房内になんとも言えない空気が流れた時、小さく付けている店内のテレビが事件の一報を伝えようとしている事に気付き、皆がそちらに顔を向ける。
『本日、市内の駅近くにあるクリニックで事務員の女性が何者かに刺される事件が発生しました。女性は今も病院で治療中ですが、クリニックのドクターが行方不明になっている模様で、警察では彼女の殺人未遂事件として事情を知っているであろうドクターから話を聞くため、捜査本部を設置してドクターの行方を捜査することにしました』
なお、事件の詳細についてはこの後警察本部で記者会見を行うようです。
淡々としたキャスターの声が告げた事件について店内では命が助かれば良いのにだの、行方不明になった医者が彼女を刺した後失踪したのではないかという憶測が飛び交うが、その声に思わずベルトランが拳を握る様子から誰のことを指しているのかをスタッフ一同が察し、皆一斉に顔を青ざめさせてベルトランを見つめる。
「チーフ、後は頼む。……警察に行ってくる」
「は、はい。分かりました。……オーナー、リオンに……」
「ああ。会って確かめてくる。後は頼んだ」
ベルトランがスマホをポケットに戻し、チーフだけではなく皆の顔を見回した後、とにかく事情を知りたいから警察に行ってくる、入れ違いに誰かが警察から来たら署に行ったと伝えてくれと残し店を飛び出していく。
ベルトランの背中を見送ったスタッフ達は聞きたくても聞き出せなかった一言をチーフに告げ、無言で頷かれてショックのあまり血の気を失ってしまうのだった。
記者会見の為に集まったマスコミが作る人波をかき分けて警察署に入ったベルトランは、制服警官から呼び止められるものの俺の幼馴染みが行方不明になったが、それに関するものを警部に見せたいから通してくれと叫び、驚く警官を押しのけて階段を駆け上がる。
その途中で顔見知りのコニーとすれ違い、あんたでも良い、こんなものが送られてきたから見てくれとその腕を掴むと、さすがのコニーも日頃の穏やかなベルトランの様子が一変している事実に危機感を抱いて会議室に連れ込み、ここで待っていてくれと言い残して戻ってきた時には険しい顔のヒンケルとリオンと見たことのない刑事と一緒だった。
「ベルトラン! 何が送られてきたんだ!?」
「キング! どういうことだ!!」
さっきテレビでやっていた事件の速報について事情を話せと迫るベルトランの肩にブライデマンが手を置き、事情を詳しく話す時間がないから送られてきたものとやらを見せてくれと促すと、ブライデマンと面識のないベルトランの顔に不信感が浮かぶが、BKAの刑事だとヒンケルが紹介したためひとまずは頷きヒンケルやリオンが見守る前で震える手でスマホを取りだして添付されていた写真を見せる。
見せられた写真は光量が不足していたがそれでも鮮明なもので、地下室のケージの前で首輪を巻かれ、両手首を拘束されたウーヴェが苦痛に歪めている顔や、白い背中に幾筋ものみみず腫れやたった今付けられたと思われる傷が血を流す様など何をされているのかが一目瞭然の写真が写されていて、男に犯されているウーヴェが上げる苦痛の声まで聞こえてきそうなほどだった。
「……!!」
ベルトランが顔を背けて拳を握る中で突然壁を殴る音が響き渡り、皆が一斉に音のした方へと顔を向け、さっきとは違った意味で言葉をなくす。
そこには固く握りしめた拳を壁に打ち付けながらも歯ぎしりをして何とか感情の暴発を堪えようとしているリオンがいたのだ。
「あの時と同じか……!!」
お前のやり方は何年経っても変わらないんだなと歯ぎしりの奥から叫んだリオンの言葉の意味をベルトラン以外は理解出来たため、リオンに掛ける言葉を失ってしまう。
今回の事件の発端とも言える二年前のあの事件、その最中にもジルベルトは男を使ってゾフィーを陵辱し、その動画をわざわざリオンに送りつけていたのだ。
今回もまたそれと同じだと分かっているが、ゾフィーの時にはあまり感じられなかった腹の底からの怒りが今リオンを襲っていて、それを堪えるための握り拳であり歯ぎしりであると察したコニーが険しい表情でベルトランに向き直る。
「これを受け取ったのはいつですか?」
「さっきだ。届いたのは30分ほど前だったと思う」
料理が立て込んでいたために手が離せずようやく時間が出来たからメールをチェックしたらこれだったと、幼馴染みの苦痛の姿が納められたスマホへと目を向ける。
「……ニュースでやっていた事件、クリニックで事務員が刺されてドクターが行方不明って……あれはリアとウーヴェの事だな?」
「フラウ・オルガが刺された時と前後してドクが誘拐された。誘拐事件として捜査することはこれからの記者会見で報告するつもりだった」
ベルトランの言葉にヒンケルが重苦しい声で告げ、誰に誘拐されたんだと呆然と呟く彼に一瞬皆の顔を見回すが、黙っていても仕方がないと腹を括ってベルトランを見つめる。
「二年前の事件を覚えているか?」
「ん? 確か、刑事が人身売買の組織の一員だったって……その時の刑事なのか!?」
「ああ。間違いねぇ」
ヒンケルに詰め寄るベルトランに素っ気なく思える態度で頷いたリオンは、あいつがこんな目に遭っているのにどうしてそんなに落ち着いていられるんだと怒鳴られてしまい、握った拳を軽く開いて己の爪をぼんやりと見つめる。
「慌てて飛び出してもオーヴェがどこにいるのかが分からなきゃ何もできねぇ」
「そうかも知れないが……!」
リオンの言葉にベルトランが理解出来るが納得できないと拳を握ると、再度リオンが拳を握って壁を殴りつける。
「下手すりゃゾフィーみたいにオーヴェが殺されるんだよ! だったら無理矢理でも落ち着いてやるしかねぇだろうが!」
ウーヴェが誘拐されてしまいリアも負傷し病院で治療を受けている今、見せることはないが最も不安と焦燥に駆られているのは他の誰でもないリオンだった。
日頃の騒々しさとは一線を画す大声に皆が沈黙し、その中に三度壁を殴りつける音が響き渡る。
「ジルのくそったれ……! ぶっ殺す」
「リオン!!」
壁に拳を押しつけて刑事としてはあるまじき言葉を吐くリオンを窘めるようにヒンケルが怒鳴りコニーも無言で頭を左右に振るが、ブライデマンがそんなリオンの代弁者のようにベルトランの肩に手を置き、あなたの気持ちも分かるが無闇矢鱈と動いて彼に命の危機が訪れる事だけは避けたいのだ、分かってくれと諭すように伝えるとベルトランが悔しそうに顔を背けて拳を握る。
「……あんた達の立場も考えずに興奮して悪かった」
ブライデマンの毅然とした声に説得されたベルトランは、捜査の邪魔になってあいつの救出が遅れることになれば本末転倒だから大人しく帰るが許して貰えるのなら情報が欲しいと力なく呟き顔を伏せるリオンと正対すると、その肩に手を載せて同じく俯き加減で口を開く。
「怒鳴って悪かった。……リオン、あいつを頼む」
「ベルトラン……」
己の態度が真摯に事件に向き合おうとしてくれている人達の足枷になりかけたことを素直に詫びたベルトランは、リオンにあいつを頼むと再度告げると頭を下げて会議室を出て行こうとする。
「ベルトラン!」
「何だ?」
その彼を追いかけるように出てきたリオンは、さっきの写真をメールごと自分の携帯に転送しすぐさま削除してくれと告げると、ベルトランの肩に両手を乗せて項垂れるように頭を下げる。
「……頼むベルトラン。見たものを……忘れてやってくれ……っ!」
あんな姿きっとウーヴェは誰にも、例えあんたにも見られたくないはずだと感情に震える声で告げられてリオンの肩を撫でて顔を上げさせると、その場でメールを転送し送られてきたメールを動画ごとゴミ箱に移動させる。
そしてもう一度頭を下げた後気分を切り替えるように頬を一つ叩くと、リオンの頭をレオポルドと同じようにくしゃくしゃにし、一日一回必ず店に顔を出せ、その時には好きな料理を食わせてやると泣き笑いの顔で告げる。
「人間、何をするにも食わなきゃ動けないからな」
「……ダンケ、ベルトラン」
「俺はメシを作ることしか出来ない。だからお前はしっかり食って早くあいつを見つけ出してくれ」
「約束する」
「ああ」
リオンの約束がウーヴェと同等の確固たるものである事を知っているベルトランが安堵に胸をなで下ろし、無理をするな、お前に倒れられたらあいつは助け出せないんだからなと念を押して警察署を出て行く。
立ち去るベルトランを見送ったリオンは会議室に戻ると同時に皆が溜息を吐いた事から先ほどの言葉が実行される恐怖を感じさせていた事に気付き、三人の前で軽く頭を下げる。
「さっきは言い過ぎました。……ぶっ殺したいとは思いますが絶対にやりません」
「当たり前だ、ばか者」
「……さっきの写真、鑑識に回して何か情報が得られないか調べて貰おうと思う。良いか、リオン」
事件に関することを調べるのに許可を取る必要などないはずだったがそれをしてくれる同僚や上司の優しさに頭の下がる思いだったリオンは、メールをベルトランに転送し削除して貰ったと伝えると、位置情報を割り出すのは難しいかも知れないがとにかく写真の中から情報を得て貰おうとコニーが頷き、リオンの携帯に転送された写真を鑑識のフリッツに見せに行くために出て行く。
二人を見送ったヒンケルとブライデマンは、記者会見の時間だとマクシミリアンに呼ばれたため、部長が待っている別の会議室に出向くのだった。
その後開かれた記者会見で、病院に搬送されたリアは一命は取り留め回復を待って事情を聴取すること、行方不明になっているドクターが彼女を刺したのではなく別の人物に刺されたことを彼女が警官に伝え、ドクターは誰かに連れ去られたことも情報として得たため、事務員に対する殺人未遂とドクターの誘拐事件として捜査に当たる事が報告されるが、その中で犯人の目星はついているのかという疑問に部長が重苦しい声で二年前の事件から逃走しているジルベルトが犯人だと答えて記者達を一瞬沈黙させてしまうが、次の瞬間、矢継ぎ早に質問が飛びだし、会見場はちょっとした騒動の現場になってしまうのだった。