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_預かり屋_
一章
第一話 . 宝物
「はいはい、これを一週間お預かりですね」
時刻は十七時を回っていた。
山奥にある少し古くてボロいここは“預かり屋”。名の通り色んな奴が預かってほしい物を持ってくる。小学生ぐらいのガキから老人まで性別問わずやって来る。時に育児もやる。
基本的に高額商品やネックレス、誰かの形見が多いが偶によく分からん物を持ってくる奴もいる。点数の低いテスト用紙やら壊した物、アダルト雑誌に何かすらわからない、もしくは原型をとどめていない物。レアなケースだと死体に拳銃なども持って来る。そんな物全てを預かり管理するのが俺、預かり屋の仕事。
「にしても珍しいこんな時間に女性が来るとは」
今回の客は高校制服を着た女。預かる物はわずかに動いているペンダントウォッチ、婆さんからの形見らしい。塗装も剥がれ錆び今にも止まりそうなそれを小さな袋から取り出し両手で大事に握っている。
「今度友達と山に行くんです。お婆ちゃんも一緒に連れて行きたいなって思ったんですけど、無くしたら嫌だなって考えてる間に時間が過ぎちゃって」
「あぁ、なるほど」
「これは私の“宝物”なんです」
…。
「…そうですか。ではこちらに」
俺はカウンター横にあるカルトンを客の前に持ってきその“宝物”を預かった。
「お支払いは前払いとなっています。今回のお預かり物、形見の時計、一週間。お値段2800円になります」
「お安いですね、ではよろしくお願いします」
「お気をつけてお帰りください」
そういうと客は薄暗い森の夜道を帰っていった。ドアが閉まりドアベルだけが鳴り響く中、ここにいるのは俺だけ。そしてあるのは客が払った二千八百円と預かったペンダントウォッチ。俺はその預かり物を手袋を付けた手で持ち上げこう言う。
「“宝物”だってさ」
分からない。今回も俺には分からなかった。
なぜこんな物が宝物なのか。ただの“貰って壊れかけたペンダントウォッチ”とは何が違うんだ?
俺がこの“預かり屋”を譲り受けてからも色んな奴がやって来て色んな物を預けてる。そして宝物だと言うたび“なぜこんな物が宝物なんだ”と思う。別に馬鹿にしてる訳でもその物に嫉妬してる訳でもない。本当に単なる疑問。俺にはどうしてもわからない。
いいや、分かれなかった。