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今日は晴れているから屋上へ。真夏みたいに暑い日だった。僕ら以外誰もいない。みんな半袖の夏服を着ているのに、彼女はまだ長袖のブラウスを着ている。それはもちろん手首にある無数のリストカット跡を隠すためだ。
「すまなかった」
意外なことに彼女から謝ってきた。
「これは返す」
白い封筒を差し出してきて、中身を見ると一万円札が十枚。意味が分からない。
「これは?」
「夏梅が壊した私のメガネ代と迷惑料ということで、夏梅の父親が私の父親に渡したお金だ」
僕の知らないあいだに親同士でそんな話になっていたなんて……
「壊したのは君自身なんだから、お金を返すのは当然だよね。それより僕の名誉も回復してもらいたいんだけど」
「メガネを壊したのは私だと親には伝えてるんだが、全然信じてくれないんだ」
あの状況では仕方ないか。でもそれでは僕が困る。せめて薬の服用はなくしたい。
「夏梅が誤解されたままなのは私も望まない。実は父が夏梅を家に連れてこいと言ってるんだ。私の両親は夏梅と会ったことがない。実際に会ってみれば誤解も解けると思うんだ」
一理ある。一理あるが、そんなに簡単な話だろうか。嫌な予感しかしないのだけど、僕が悲観的なだけだろうか?
「私はうちではいい子で通ってるんだ。夏梅はそこにいるだけでいい。あとは私に任せて大船に乗ったつもりでいてくれ」
大船でなく笹舟や泥舟に乗って嵐の中で翻弄される自分の姿が脳裏に浮かんでいたけど、冤罪は証明しなければと彼女の提案に乗ることにした。