テラーノベル
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双子の桃太郎との戦いを終え、同期3人は次なる行動へと移っていく。
所長を倒すため屋上へと向かう一ノ瀬。
その彼を、矢颪が新たな血蝕解放であるバイクで送り届けることになった。
鳴海はと言えば、ケガ人が増え続ける現状を考え、治療班としての動きを最優先することに。
つまり彼とはここで一旦お別れだ。
「鳴海、本当に1人で平気?」
「俺のバイクで行けば下まですぐだぞ?」
「2人ともありがとう!でももう建物内に桃はほぼいないと思うから大丈夫。本当は一緒に行けたら良いんだけど、 いつ建物が崩壊するか分かんないし、四季ちゃんには少しでも早くあのマッドサイエンティストを止めて欲しい!」
「分かった!」
「ヤバそうだったらすぐ行くから連絡入れろよ?」
「了解!2人も気をつけてね」
そうして笑顔を向け合い、3人は行動を開始した。
2人と別れた鳴海は桃太郎の気配に注意しながら、頭に入れた地図を元に下へと向かう。
外へ出れば誰かしらいるだろうし、治療するのに十分なスペースもあると考えたのだ。
そうしてまた1つ階段を降り進んでいた時、突然背後から自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「鳴海!」
「無人くん…!」
振り返った先にいたのは、鬼の救助に当たっていた頼れる旦那・無陀野であった。
彼の存在に安心し涙目になるのを隠しながら、鳴海は急いで駆け寄る。
最後に見た時の無陀野は、大勢の桃太郎に1人で対峙している状態だった。
その強さは十分知っているものの、やはりケガの有無は一番の心配事である。
「ケガはしてない!?どっか痛いとか、そういうのは!?」
「大丈夫だ。傷一つない」
「え、あの人数相手に?」
「あぁ」
「相手は可哀想だね!でも、無事で安心した」
「ありがとう。鳴海は…」
「ん?」
「…してるな、ここ」
「そ、そんな「嘘つくな。バレバレだ」
「いだだだだだッッッ!!?」
パッと見ただけで、鳴海のケガを見抜く無陀野。
しらばくれる鳴海の患部を抓ると、あまりの痛さに鳴海は思わず声が出る。
「処置は?」
「大丈夫ちゃんとやったから!!」
「鳴海」
「あぅ…ご、ゴメンナサイ…」
「お前は他より回復が遅いんだから誰よりも気を付けろと散々言ってるだろう」
「はい、ご最もです、はい…再発防止に努めます…」
「分かればいい。…命があって良かった」
不意にそう言って、無陀野は少し目元を和らげる。
彼の心から安心したような声に、鳴海は表情を改めてから口を開いた。
「ごめん。相談もなしに、勝手に動いて…」
「”矢颪を任せる”っていう俺との約束を守ってくれたんだろ。何も謝る必要ない」
「でも、心配かけた…」
「…そうだな、心配はした。でも信じてもいた…お前ならきっと上手くやってると」
「!」
「よく頑張った」
穏やかな声の無陀野に頭を撫でられれば、隠そうとしていたものが再び目に溢れてくる。
突然涙を流した鳴海に驚いた無陀野は、どうしたのかと声をかける。
「傷が痛むのか?」
「痛い…お腹も頭も腕も痛いぃぃぃっ!!!もぉやだァァァァ!お家帰るぅぅぅぅ!!」
「そうか。よく頑張ったな。偉いぞ」
「もっと褒めて!!!💢」
「よしよし…夕飯はお前の好きな物にしような。朝も俺が作るよ。」
「ふゔぅぅぅ!!」
ギャン泣きする鳴海の頭に手を置いていた無陀野は、落ち着かせるようにコツンとおでこをくっつけた。
整った顔の急接近に鳴海は一瞬泣きやみ、対照的に無陀野の声音は落ち着いていた。
「大丈夫だ鳴海。ちゃんと出来てる。誰も死んでない」
「うぅ…」
「何だからもう少し頑張れるか?お前を待ってる奴が大勢いる」
「頑張る…」
「ありがとう鳴海」
ようやっと泣き止んだ鳴海に、無陀野も表情を緩める。
“行くぞ”と告げた無陀野の後ろを、力強い足取りで追いかけるのだった。
歩き始めてすぐ、鳴海は足元が揺れているのを感じる。
あちこちで爆発が起こり、建物はいつ崩れてもおかしくない程に崩壊が進んでいた。
「何かグラグラする…」
「早めに外に出た方がいいな。…鳴海、そこの窓から出るぞ」
「え、飛び降りる?」
「そんな危ないことはさせない」
無陀野はそう言うと、指に傷をつけて血を解放する。
次の瞬間、建物を支えるように無数の弓矢が地面に突き刺さった。
橋のように地上と繋がったその矢を、傘をさした無陀野に続き鳴海も降りて行く。
再び姿を見せた最強の鬼に、外にいた桃太郎たちは一気に騒ぎ出した。
「うるさい」
「無人くん、どんだけ暴れ回ったの…」
「大したことはしてないんだが」
「(絶対嘘だ…)ていうか、倒れてるのって帆稀ちゃん!?」
「血を使い過ぎたのかもしれない。頼むぞ」
「はい!」
そんな会話をしながら地上に降り立った2人の元に、これまで指揮をとっていた皇后崎が駆け寄って来る。
鳴海の方へ少し笑みを向けてから、彼は無陀野に経過を報告した。
「ロクロたちと鳴海の部下に人質を避難させた」
「そうか。いい判断だ、よくやった」
「! ……ん」
担任から真っ直ぐな褒め言葉をもらいながら頭を撫でられた皇后崎は、何とも照れくさそうな表情を見せる。
入学当初はあれだけ敵視していたのに…と、鳴海は生徒の良い変化を微笑ましく見守っていた。
それからすぐに表情を切り替えると、屏風ヶ浦の治療へとあたる。
「屏風ヶ浦も頑張ったな。…どうだ、鳴海?」
「血が極端に減ってる…無人くんの言う通り、使い過だね。でもこれなら輸血すれば回復できるよ」
「そうか。崩壊は俺が防ぐ。四季は屋上に向かってる認識でいいか?」
「うん。今、碇ちゃんが連れて行ってる」
「分かった」
鳴海が屏風ヶ浦に輸血をしている間に、皇后崎は一ノ瀬と連絡を取り合う。
人質を乗せていると思われる飛行船やそれとは別のロケットのようなものが離陸したため、間に合わないと焦りを見せていたのだが…
ようやく屋上に到着した一ノ瀬は、矢颪の力を借り何とかロケットに乗り込むことができた。
だがその直後、空が急激に暗さを増す。
そしてバチバチという嫌な音が聞こえたと思った次の瞬間、鳴海たちのいる場所に無数の雷が落ちてきたのだ。
「うわっ…!」
「鳴海、平気か!?」
「大丈夫!ビックリしただけ。でも、何で急に雷なんて…」
「おい、四季!この雷はなんだ?そっちはどうなってる!」
『所長の所にいるよ!そんでこのカスがこの雷発動させやがった!飛んでる飛行船も、下のお前らもあぶねぇぞ!』
「マジかよ…あの飛行船、間違いなく人質乗ってんだろ…」
「安全なとこに移動…は、難しいよね…」
治療を続けている鳴海のその呟きに、皇后崎は頭をフル回転させる。
このままでは全員雷の餌食になって終わりだ。
特に自動操縦のため、自分たちでどうにかできない飛行船が一番の悩みの種だった。
と、そこへ聞き覚えのある声が複数聞こえてくる。
「うぉお!」
「外だ!大将の手当て急げ!」
「!?」「この声…!」
皇后崎と鳴海が揃って視線を向けると、意識のない等々力と蛭沼の亡骸を背負った鬼國隊メンバーが建物から転がり出てくるところだった。
すぐに駆け寄った皇后崎に続き、屏風ヶ浦の治療を終えた鳴海もまたそちらへ向かう。
「お前らも脱出したか」
「その声!皇后崎君か!マズいんだ!大将が瀕死状態で…!」
「響太郎ちゃん!」
「鳴海!大将が…!」
「こりゃ酷い…出血がすごいし、脈も呼吸も弱い。…けど、心臓が動いてるなら大丈夫」
「本当…?」
「はい!蛭沼ちゃんの分まで、絶対助けるよ。ここからは俺が皆を守る番!」
優しくも自信に満ち溢れた鳴海の笑顔に、鬼國隊メンバーは憑きものがとれたようにホッと息を吐いた。
その中の何人かが自分に対して特別な感情を抱いているとは知らず、鳴海は真剣な表情で等々力に向かい合う。
上空から降り注ぐ雷は全面的に無陀野が引き受けることになり、各自が自分にできることをやり始めた。
中でも鳴海の役割は大きく、適宜周りに指示を出しながら大急ぎで等々力の治療を進めていた。
その様子を横目で見ながら、皇后崎は担任の元へ歩み寄る。
「なぁ、あの飛行船を安全な所に降ろしたいんだがどうすりゃいい?」
「…答えを出してやるのは簡単だが、それでいいのか?自分で答えを出すことにこだわれ。 たとえ誰かが周りにいても、自分の答えが採用される見込みがなくても、もう答えを持ってる奴がいても。 自分自身で考え、答えを出すことをおろそかにするようになったら、そこでお前の成長は止まる。 そして時には誰かに無理をさせることがあっても、それが最善なら迷うな」
「……だな…」
「俺たちの傍には優秀な援護部隊がいるだろ」
「!」
「今鳴海達が急ピッチで治療をしているのは、お前と同じ考えを持ってるからだ。
いつ指示が来てもいいように、その指示が来たとき、最低限の動きができる状態で送り出せるように、今あいつは動いてる。
鳴海がいれば、俺も含め全員多少の無理はきく。あとはお前が声をあげるだけだ」
担任からの言葉を噛みしめながら、皇后崎は鳴海や鬼國隊メンバーが集まる場所へやって来る。
顔を上げた彼の表情には、司令塔としての覚悟が見て取れた。