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コムム
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数日後。
緑谷は保健室に通うようになっていた。
眠れていなかった。
夜になると、スマホの通知音が怖くなる。
廊下の笑い声だけで呼吸が乱れる。
リカバリーガールは優しく言った。
「少し休みな」
でも緑谷は首を振る。
「……休んだら、もっと皆に迷惑かけるので」
その言葉に、リカバリーガールは目を細めた。
この子は、自分が壊れそうでも“他人”を優先する。
それがどれほど危ういことか、大人たちは知っていた。
──教室。
以前みたいな騒がしさは戻らなかった。
モブ子は処分を受け、別室指導になった。
けれど空気は重いまま。
誰も緑谷にどう接すればいいかわからない。
“信じきれなかった”
その事実が、クラス全員の胸に刺さっていた。
昼休み。
緑谷はまた一人で屋上にいた。
風が冷たい。
フェンス越しに街を見下ろしながら、小さく呟く。
「……向いてなかったのかな」
ヒーローに。
その時。
後ろから足音がした。
「何がだ」
爆豪だった。
緑谷は振り返らない。
「人を助ける資格、とか……」
「は?」
爆豪は苛立った声を出す。
「お前、何言ってんだ」
「だって僕、自分一人も守れなかった」
震える声。
「怖いのに笑って、平気なフリして……結局、皆にも迷惑かけて……」
そこまで言った瞬間、
ドン!!
爆豪がフェンスを強く蹴った。
「うるせぇ!!」
緑谷が肩を震わせる。
爆豪は乱暴に髪をかき上げた。
「勝手に一人で終わってんじゃねぇよ」
「……」
「助け求めねぇお前も悪ぃ。気づけなかった俺らも悪ぃ。全部だ」
爆豪は悔しそうに歯を食いしばる。
「でもなァ」
その声は震えていた。
「お前が傷つけられてた事実は変わんねぇだろ」
緑谷の目が揺れる。
爆豪は昔から知っていた。
誰より泣き虫で、誰より自分を削る奴。
だからこそ、今の緑谷がどれだけ限界だったか分かってしまった。
「……もっと早く殴り込めばよかった」
小さく漏れたその言葉に、
緑谷の目から、ぽろりと涙が落ちた。
止まらなかった。
今まで全部飲み込んできた感情が、一気に崩れる。
「っ……ぅ、あ……」
息が上手くできない。
苦しい。
怖かった。
ずっと。
爆豪は黙って、泣き崩れる緑谷の隣に座った。
変に慰めることはしなかった。
ただ、逃げずに隣にいた。
しばらくして。
屋上のドアがそっと開く。
麗日、飯田、轟、切島。
皆、何も言えず立ち止まった。
緑谷の泣き声を聞いてしまったから。
麗日は唇を噛みしめる。
「……ごめん」
最初にそう言った。
「うちら、デクくんのこと見れてへんかった」
飯田も深く頭を下げる。
「友人失格だ……!」
切島は拳を握り、轟は静かに目を伏せる。
緑谷は涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、小さく首を振った。
でも、
「……苦しかった」
そう言った声は、今までで一番本音だった。
誰かに聞いてほしかった。
気づいてほしかった。
助けてほしかった。
その気持ちを、やっと口にできた。
夕焼けの空の下。
A組は初めて、“強いヒーロー”じゃなく、
“傷ついた一人の友達”
として緑谷を見ていた。
重く