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幼い頃の記憶。
自分が昔住んでた家には大きな鏡があった。
倒れるだとか割れただとか、理由は曖昧だけれど引越しの時に捨てられてしまった。
その鏡は両親が共働きだった幼い自分にとって、いい暇つぶしの道具だった。
ジャンケンしたり、でんぐり返しをしながら横目で見たり。
だだっ広い家の中でずっと鏡のそばに居た。
朝日の眩しさで目を覚ました。
ぼんやりしていると目覚まし時計がけたたましく鳴った。
少し乱暴に止めて伸びをすると勝手にあくびが出てくる。
寝巻きのままリビングに行くと、ラップがかかっている朝ごはんが目に入った。
きっと夜遅く帰ってきて作ってくれたのだろう。
軽く手を合わせてから箸を持つ。
成長期の子供が食べるご飯にしては少ない。
最近…というか数ヶ月、中々タイミングが合わなくて一切会っていないからかもしれない。
髪を程よくセットして制服を着ればもう出発時間になる。
玄関に乱雑に靴が1足置かれているのを履いて家を出た。
初めて見かけたのはいつだっただろうか。
3年の始業式?いや、それよりもずっと後。確か家に帰る頃。
進路だとかの話が耳に入るようになった頃、バス停で見かけた。
そっくりの髪にそっくりの瞳。
まるで双子だな、と思った。
世界には自分を含めて3人似た人がいる、とどこかで聞いたことがあった。
特に心当たりのない子だったし目を逸らした。
逸らす一瞬。
目が合った。
元々大きめであろう瞳が見開かれるのを見た。
まるでスローモーションだった。
何か言いたげで、でも言わない雰囲気のある目だった。
僕は疲れていた。
進路の書類を沢山配られ、いつ帰ってくるか分からない親を、眠い目をこすりながら待っていた。
途中で寝落ちたり、そもそも親が帰ってこなかったりして数日間まともに寝れていなかった。
苦いものは嫌いだが、コーヒーを砂糖も入れずに飲んで前を向いていた。
正直、限界だった。
フラフラとバスから降り、空いているベンチを見て、もうここで寝てしまおうかと思った。
ぼんやり考え続け、まあいいかとベンチに近づく。
思い切り乱暴に座り、項垂れるようにして目を閉じようとした。
気配。
うっすら横目で見ると、あの時いたそっくりさんが座っていた。
今更立つにしても気まずいし、しばらく言葉を探った。
いや待てよ、この子はバスに乗らないと行けないんじゃないか?
バスがもう行ってしまうだろうし教えないと、と顔を上げた。
無い。いつの間にかバスは出発してしまったみたいだ。
勢いよく顔を上げたもんだから、視線を感じた。
こういう時に言える言い訳なんてないので思ったことをそのまま口に出した。
その子は人見知りなのか、中々答えられないようで心做しか目がぐるぐるしているように見えた。
思わず大丈夫?と聞くと小さな声で、大丈夫ですなんて聞こえ、尚更心配になった。
しばらく無言の時間が続いた。
僕はそんなに気まずいわけではないが、あの子はどうなんだろう。
何か話題はないだろうか。
「不思議だね、君の隣は何故か懐かしい」
えっ?
用意されていたセリフみたいに勝手に口が動いた気がした。
彼女も驚いたような顔でこちらを見ていた。
彼女の顔と、その瞳の中の僕の顔があまりにも唖然としていて面白くて、吹き出してしまった。
ひとしきり二人で笑ったら、彼女の緊張もほぐれたのかお互いの連絡先を交換することができた。
彼女の名前はリン。
自分と1文字違いの名前。
案外明るかった彼女の声のような名前だった。
忘れないように小さく呟いた。
それから1ヶ月、経つか経たないか。
彼女の通っている学校がニュースで流れた時、酷く胸騒ぎがした。
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