テラーノベル
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モールのベンチ。 角名倫太郎は、赤ちゃん用のブランケットを丁寧に整えてから、🌼を腕に収めた。
「……よし」
声は低くて淡々。
けれど、指先の動きはやけに慎重だ。
「ママ、ちょっと長そうだね」
返事はない。
🌼は角名の服をぎゅっと掴んで、ぼんやり瞬きをしている。
「……その握力、結構好き」
小さく言って、誰にも聞こえないように笑う。
少しして——
「ふぇ」
「来た」
角名は即座に立ち上がる。
「大丈夫。
泣く前で止める」
🌼の背中をゆっくり撫で、
胸に引き寄せる。
「……ママいないと、不安だよね」
言葉は少ないけれど、声は柔らかい。
「でもさ、
今はパパがいる」
トントン、という一定のリズム。
🌼の顔が、角名の肩にぴったりくっつく。
「……そう。
そこが落ち着く?」
泣き声は、途中で消えた。
「よし。
天才かもしれない」
真顔で言うのが、角名。
そのまま、ゆっくり歩き出す。
🌼が寝落ちしかけるのを感じて、足取りがさらに静かになる。
「……重くなってきた」
でも、腕は緩めない。
「…可愛い」
🌼の小さな手が、角名の指を掴む。
「……は」
角名は一瞬だけ固まって、
次の瞬間、完全に表情が緩む。
「……今の反則」
誰にも見せない顔。
その時。
「撮ってるでしょ?」
戻ってきた🌸が、くすっと笑う。
「撮ってない」
「え、ほんと?」
「……今は、無理」
「無理?」
「可愛すぎて、手放したくない」
🌸は一瞬驚いて、
それから静かに笑った。
「りんちゃんがそんなこと言うの、珍しい」
「言うよ。
この子の前では」
🌼が小さく身じろぎして、
また角名の胸に顔を埋める。
「……選ばれた」
角名は小さく息を吐く。
「今日一日、
俺が抱っこ担当でいい?」
「いいよ笑」
「……ありがと」
ほとんど聞こえない声で。
周りから見たら、
静かで目立たない親子。
でも角名は——
腕の中の温もりに、
全部持っていかれていた。
「……可愛いな」
何度も、噛みしめるように。
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