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世界の最果て、雲よりも高い場所に位置する「星詠みの神殿」。
そこには、世界に光をもたらし、どんな願いも叶えるという『創世の楽譜』が眠っている。
幾多の険しい山を越え、魔物を退け、ついにその祭壇へとたどり着いた6人の旅の音楽師――シクスフォニア。彼らの目的は、乾ききった世界に豊かな五線譜の恵みを取り戻すことだった。
「やっと着いたね……!」
黄色い旅装束を纏ったみことが、瞳を輝かせて祭壇を見上げる。その隣で、緑の外套を羽織ったすちが、愛用の楽器を抱え直して静かに頷いた。
しかし、二人が楽譜に手を伸ばそうとしたその時、神殿の奥から冷徹な『守護者の声』が響き渡った。
『――拒みはせぬ。だが、楽譜を動かすには対価が必要だ。お前たちがこれまでの旅で築いた、最も大切な【6人の記憶】をここに捧げよ』
その言葉に、全員の息が止まる。
記憶を捧げる――それは、世界を救う代わりに、6人が共に出会い、笑い合い、歌い明かしたすべての思い出を失い、お互いを赤の他人だと思い込んでしまうことを意味していた。
「そんなの……あんまりだろ」
赤の戦士服を着た暇72が、悔しそうに拳を握りしめる。
「俺たちの歌は、この6人だから、みんなと一緒だから紡げたのに!」
ピンクのマントを揺らし、LANが叫ぶ。水色の魔導書を抱えたこさめも、紫の暗殺衣を纏ったいるまも、一様に俯き、悲痛な表情を浮かべた。
世界を救うか、自分たちの絆を守るか。残酷な二択を前に、沈黙が支配する。
その時、すちが静かに一歩前へと出た。
「……みこちゃん。俺と初めて会った日のことを覚えてる?」
「え……? うん、もちろん。僕の歌を、すちくんが『綺麗だ』って言ってくれた日。あの時から、俺の世界は始まったんだ」
みことは涙を浮かべながら応える。
「俺もだよ」
すちは優しく微笑んだ。
「あのひたむきな光に救われた。……ねえ、みんな。もし記憶が消えて、お互いの名前を忘れてもさ。俺たちの『声の重なり』は、魂が覚えていると思わない?」
すちの言葉に、メンバーたちがハッと顔を上げた。
「そうだよ!」みことが涙を拭い、力強く叫ぶ。
「僕たちの声が響き合えば、きっと何度だって惹かれ合う。またゼロから、この6人で始めればいいんだ!」
覚悟は決まった。
6人は互いに視線を交わし、不敵に、そして最高に愛おしそうに笑い合う。
「……上等じゃん。俺たちの絆、神様程度に消せると思うなよ」
いるまが不敵に笑う。
「俺たちの最強のハモり、特等席で聴かせてやる」
暇72が静かに、しかし熱く語りかける。
「みんな、声を合わせて!」
こさめとLANが声を張り上げた。
記憶を失う恐怖を、歌への、そして仲間への絶対的な信頼が塗り替えていく。
6人は手を取り合い、神殿の空へ向かって、これまでの旅のすべてを込めた最後の歌を響かせた。
すちの透明な美声が空を拓き、みことの眩しい歌声が光を灯す。いるまの熱いラップ、LANの圧倒的なハイトーン、こさめの愛らしい高音、そして暇72の包み込むような低音。
6つの色が混ざり合い、神殿全体が目も眩むような光に包まれていく。
大切な思い出が、光の粒子となって頭から抜けていく感覚。
(あぁ、みんなの顔が、名前が――)
それでも彼らは、意識が薄れる最後の瞬間まで、お互いの手を決して離さず、声を枯らして歌い続けた。
数刻後。
世界中に美しい緑と光が戻り、神殿には静寂が訪れていた。
祭壇の前で、ゆっくりと目を覚ます6人の若者たち。
「う、頭が……。ここは、どこだ……?」
いるまが顔をしかめながら立ち上がる。お互いを見合うが、誰もその名を知らない。記憶は確かに失われていた。
すちもまた、ぼんやりと自分の手を見つめていた。なぜか胸の奥が、ちくちくと切なく痛む。
その時、隣にいた黄色の服を着た少年――みことが、涙を流しながら彼を見つめていた。
「……あれ? なんで俺、泣いてるんだろう」
みことは困ったように笑い、それから、すちの抱える楽器を見て、引き寄せられるように口を開いた。
「ねえ……君、すごく、綺麗な声をしていそうだね」
すちは目を見開いた。記憶にはない。なのに、その言葉をかけられた瞬間、胸の奥の痛みが、爆発するような愛おしさに変わる。
「……君もね。君の歌、すごく眩しい音がしそうだ」
すちが答えると、周りにいた他の4人も、導かれるように彼らの元へと歩み寄ってきた。
「なーんか、他人の気がしねえんだけど」
「ねえ、いっそみんなで歌ってみない?」
名前も、過去も、何もわからない。
けれど彼らの魂は、最初から知っていた。
「うん、歌おう」
すちとみことが同時に頷き、再び6人の声が重なる。
記憶を失った最果ての地で、新世代の最強グループは、またここから新しく始まるのだった。