テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「はぐれないように、気をつけてくださいね」
背後から聞こえる低く落ち着いた声。人混みの熱気とは違う瑞樹の体温が、薄い甚平越しに直接伝わってきて心臓が跳ね上がった。
イカ焼きに焼きそば、たこ焼き。
両手いっぱいに買い込みながら屋台を巡る時間は、驚くほど純粋で、楽しさに満ちている。
かつて自分の過去に縛られていた頃には考えられないほど、今の自分は自由だ。ただの「朝倉柊吾」として、大好きな人の隣を歩いている――それだけで胸が熱くなった。
「あ、黒瀬さん! チョコバナナもありますよ! あっちにはいちご飴も! 色々あって目移りするなぁ」
「へぇ、チョコバナナですか……。いいですね。行きましょう」
色とりどりのチョコスプレーがまぶされたバナナを二本買い、子供のように目を輝かせる。
賑やかなメイン会場を少し離れ、二人は人影のまばらな古びた神社の境内へと足を踏み入れた。
大きな銀杏の木が夜風に揺れ、遠くの喧騒が波の音のように遠ざかっていく。
神社の石段に腰を下ろし、ようやく一息ついた。
「……美味しい……。外で食べるのってやっぱり美味しいですよね」
「……そうですね。でも、柊吾さん。口元にタレが付いていますよ」
イカ焼きを頬張る隣で、瑞樹がふっと目を細める。
「えっ? どこ……?」
慌てて拭おうとした手を、瑞樹が優しく制した。
そのまま長い指が頬に触れ、唇の端を親指でゆっくりとなぞられる。
「……っ」
指先から伝わる瑞樹の熱に、思考が完全に停止した。
瑞樹は柊吾を見つめたまま、自分の指に付いたタレを、ゆっくりと舌先で舐めとっていく。
眼鏡の奥の瞳が、暗がりの中で妖しく、深く光っていた。
あまりに無防備で、それでいて計算し尽くされたような妖しい色香に当てられ、心臓が口から飛び出しそうなほどの衝撃を受ける。
「……黒瀬、さん……」
震える声で名前を呼ぶのが精一杯だった。
唇の端に残る指の感触と、目の前で見せつけられた艶めかしい仕草。その熱にあてられ、柊吾はまばたきすら忘れて瑞樹の顔を見つめ返してしまう。
瑞樹はそんな柊吾の動揺を愛おしむようにじっと見つめ返していたが、やがて満足したように目を細めると、そっと指を離した。
「ふふ、確かに味はいいですね」
何事もなかったかのように微笑み、いつもの穏やかなトーンで呟く。
甘く痺れるような静寂を自ら破り、瑞樹が次に手を伸ばしたのは、たっぷりとチョコがコーティングされたジャンボチョコバナナだった。
ゆっくりと唇を割り、それを深々と口内へと含んでいく。
前歯でパリリと音を立ててチョコを砕く瑞樹の、艶っぽく濡れた唇の動きから目が離せない。
引き抜く際に先端を舌先でひとなぞりするその仕草は、どうしても「別の何か」を連想させた。熱を孕んだ瑞樹の喉が小さく動き、嚥下する生々しい音までが耳朶を打つ。
(な、なんだか……すごく、いやらしいものを見てる気がする……っ)
ソワソワと視線を泳がせる様子を、瑞樹は楽しげに、けれど欲望を隠そうともしない目で見つめていた。
「美味しいですよ。……柊吾さんも、食べますか?」
瑞樹が、自分が今しがた齧りかけたチョコバナナを口元へと運んでくる。
瑞樹の食べた跡が残る、甘い誘惑。
「あ、ええと……」
「ほら、口を開けて」
逆らえない威圧感と、とろけるような甘い声。
逃げ場を失ったまま見つめられ、ゆっくりと震える唇を開いた。
#BL
かんな
1,884
コメント
3件
幸せすぎるぅ!!! シレッと「あーん」するなんて〜♡ マジで尊い!!この空間に入りたい!!!あ、でもダメか。私いたら尊い空間が汚れちゃう!!続き待ってますー!!!!✨️✨️
わあ…かんなさん、このエピソードやばかったです🥀💕 瑞樹さんの仕草がもう…チョコバナナの食べ方とか、タレを指でぬぐって♡♡♡とことか、全部計算ずくの誘惑じゃないですか?柊吾くんが動揺してるの、すごく伝わってきてこっちまでドキドキしちゃいました…。夏祭りの雰囲気と、二人だけの甘くて危ない空気感の切り替えが本当にうまいなって思います。読んでて自然と息を止めてしまうような、そんな密度の高いシーンでした。続きが気になります…!