宇宙空間、地球周回軌道から見える中国大陸はまばゆく輝き、13億の人民の繁栄を示す。
中国大陸の上空を日本の情報収集衛星が飛び去り、電波の受信に努めようとする。
スパイ衛星は衛星電波を傍受すると同時に、北京の街を超望遠で撮影した。
北京の街に官公庁が並び、その奥に国家主席の執務室がある。
今宵、オンラインで通話を繋げるのは周陣兵中国国家主席と反米テロ組織アバンギャルド中央執行委員長フロム・シュターデンだ。
『やあお待たせした。シュターデン委員長』
周が迫力がありつつも柔和な笑みを浮かべる。
『国家主席閣下、ご多忙のところ恐縮です』
シュターデンは眼鏡をかけ理知的な風貌だ。
『なんのなんの、今を時めく秘密結社アバンギャルドの首魁と話ができるのを楽しみにしていたぞ』
シュターデンはCIAの秘密を暴露した元スパイで、今はロシア国籍を得ている。
『我々は悪の組織ですから大っぴらに会談できません』
『わかっている。盗聴される前に要件を済まそう。まずこちらからは二つ。日本のイージス艦きりしま副長へのハニートラップが成功した。それともう一つ。手製銃はゲームセンターの景品に偽造して日本国内に流通させた』
何やら物騒なやりとりだ。
『感謝いたします。主席閣下。こちらからは例の自衛隊映画撮影企画のプロモーションに成功しました。タイトルはシーマンシップです』
『では決行日は任せる。党と軍がバックアップする。頼んだぞ』
通信は終わった。
中国とアバンギャルドは手を結ぼうとしていた。
* *
東京都千代田区霞ヶ関──警察庁庁舎。
照明が落とされた部屋でプロジェクターの前で警察庁警備局警備企画課課長補佐の前田武が解説する。
「高度に暗号化されたデータですが、中国国家主席とテロ組織アバンギャルド委員長がオンラインでやりとりしている模様です」
「内容は?」
キャリア警察官で同じく警備局警備企画課企画第一係長の桜祐警部が身を乗り出して聞く。
警部といっても、彼はまだ20代も半ばだった。
「まあ待て桜警部。それを探り、テロを未然に防ぐのも君らの任務だ」
前田が紙の資料を手渡す。
そこには、SPS:公安特別捜査隊専従班なる題名があった。
SPSとはセキュリティポリススクワッドの略だろうか。
「君たちの任務は、公安特別捜査隊の専従班に加わり、アバンギャルドが企むテロを捜査することだ」
「その資料にはよく目を通しておくように。秋葉原に公安特別捜査隊のオフィスもある。君の婚約者も一緒だぞ。案内役を明朝自宅に送り案内させる」
* *
都内のマンションにて、桜祐警部は千代田春警部と同棲していた。
風呂から上がった千代田春が寝室のベッドに腰掛ける。
髪をまとめており、シャンプーの匂いが鼻を満たす。
「公安特別捜査隊専従班、志願しようかな」
桜祐はつぶやいた。
「え、決めるのが遅いよ。私はもう決めたよ?」
「早いですね」
「明日に備えて寝ないと。支度は明日しよう」
……やがて陽射しがベッドを包み、ふたりは目覚めた。
桜祐がキャリーケースに支度をしていると、チャイムが鳴らされた。
見れば、大河内和夫だった。
彼は自衛隊別班として2年前の公安捜査で共闘した戦友だ。
「案内役って、大河内さんだったんですね」
「他の特捜専対メンバーは顔バレしているからな」
特捜専対。懐かしい響きだ。2年前の公安警察秘密捜査チームの名だ。
支度もそこそこに大河内は出発を促す。
「さあ、行くぞ」
桜祐は扉を開け、新たな公安捜査へと決意を帯びて乗り出した。