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「……いるまだけには知られたくなかった。」
その言葉が零れた瞬間、空気が止まった気がした。
放課後の教室。
窓の外では夕焼けが校舎を赤く染めている。
教室に残っているのは、いるまとなつだけだった。
本当は隠し通すつもりだった。
誰にも知られないまま終わらせるつもりだった。
なのに。
「なんで黙ってたんだよ。」
いるまの声が静かに響く。
なつは視線を落とした。
机の端を握る指に力が入る。
◇◇◇
数日前から学校ではある噂が広がっていた。
『なつが転校するらしい』
最初はただの噂だった。
でもそれは事実だった。
家庭の事情。
どうしようもない理由。
決まったのはずっと前なのに、なつは誰にも言わなかった。
言えなかった。
特にいるまには。
「言えばよかっただろ。」
「言えなかった。」
即答だった。
いるまが息を呑む気配がする。
なつは小さく笑った。
「だって絶対困った顔するじゃん。」
「しねぇよ。」
「する」
「しない」
子どもみたいな言い合い。
それなのに、どちらも笑えなかった。
沈黙が落ちる。
夕焼けが少しずつ色を失っていく。
「……なんで俺だけ?」
いるまがぽつりと聞いた。
その問いに、なつはすぐ答えられなかった。
どうしてだろう。
友達にも言えなかった。
先生にも。
クラスメイトにも。
でも。
いるまだけは違った。
言ってしまったら。
本当に離れることが現実になりそうで。
言葉にした瞬間、終わってしまいそうで。
だから黙っていた。
ずっと。
「いるまだけには知られたくなかった。」
もう一度呟く。
今度は少しだけ震えた声で。
いるまは何も言わない。
なつは俯いたまま続ける。
「だって」
喉が痛い。
声が上手く出ない。
それでも言葉は止まってくれなかった。
「離れるのがいやになるじゃん。」
その瞬間だった。
椅子が引かれる音。
顔を上げる。
いるまが立っていた。
そして。
今にも泣きそうな顔をしていた。
初めて見た。
そんな表情。
いるまが何か言いかけて、結局何も言わなかった。
代わりに、目を伏せたまま一歩踏み出してなつの腕を掴んだ。
なつの腕を掴む手は、少しだけ震えていた。
そのまま引き寄せられるように距離が消えていく。
次の瞬間、言葉より先に唇が重なった。
不思議と嫌だとは思わなかった。
むしろ嬉しかった。
「……おせぇよ」
掠れた声。
「今さらそんなこと言うなよ」
いるまは笑おうとして失敗したみたいな顔をしていた。
なつの胸が締め付けられる。
本当は言いたくなかった。
知られたくなかった。
気付いてほしくなかった。
でも。
もう遅かった。
夕焼けの教室で、
二人はただ黙って立ち尽くしていた。
迫る別れを前に。
どうしようもないほど、お互いが大切だったことを知ってしまったから。
コメント
2件
休日はワンライが捗る!!
あらら…めっちゃ切ない回だわこれ。最後のキスシーン、全然甘くなくて「迫る別れ」の重さで胸がぎゅってなった。いるまの「おせぇよ」と震える手、なつの「離れるのがいやになる」って本音…どっちの気持ちも痛いほど伝わってくる。夕焼けの描写も相まって、二人の終わりが近づいてる感じが泣ける。続き、どう転んでも辛そうで怖いけど読みたい…!
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いちご@低浮上中。。。
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