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いちご@低浮上中。。。
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「あと5分だけ」
もう帰ろうとしていた時、そう言ったのはなつだった。
時刻は23時55分。
俺らはなつの家で宅飲みをしていた。
時計の針がもうすこしでてっぺんを指すころだった。
いるまは首を傾げる。
「何が」
「あと5分」
「だから何が」
「いいから」
なつはそう言って笑った。
理由は教えてくれない。
いつものことだ。
いるまは呆れながらも隣に立ったままでいた。
「もう日付変わるぞ」
「いいの」
「なんで」
「秘密~!」
答えになっていない。
いるまはため息をついた。
それでも帰ろうとは思わなかった。
なつがあと5分と言うなら、それでいいかと思った。
沈黙が続く。
不思議と嫌ではない。
二人でいる時の沈黙は昔からそうだった。
無理に会話を探さなくても平気だった。
やがて、なつがぽつりと呟く。
「俺さ」
「ん」
「明日誕生日なんだ」
いるまは目を瞬いた。
「……は?」
「だから誕生日」
「なんで今言うんだよ」
「忘れてたから」
「忘れるなよ自分の誕生日を」
思わず笑う。
なつも笑った。
その笑顔を見ながら、いるまはスマホを取り出す。
2月8日12時57分。
あと数分で日付が変わる。
「だから5分?」
なつは小さく頷いた。
「うん」
声が少しだけ照れくさそうだった。
「あのさ」
「ん?」
「もしかして」
いるまは言葉を探す。
でも結局、そのまま聞いた。
「最初に祝ってほしかったの?俺に」
なつの肩がぴくりと揺れた。
沈黙。
数秒。
十秒。
そして。
「……そうだけど」
小さな声。
赤い顔。
いるまは思わず吹き出した。
「何笑ってるの!」
「いや」
だめだ。
嬉しい。
思った以上に。
「別にいいだろ」
なつはむすっとしながらそっぽを向く。
でも耳まで真っ赤だった。
「お前可愛いとこあんじゃん」
時計を見る。
残り二分。
一分。
三十秒。
二人で数字を数えるわけでもなく、ただ並んで立っていた。
そして。
日付が変わる。
いるまは笑って言った。
「おめでとう」
誰よりも先に。
なつが聞きたかった言葉を。
なつは少しだけ目を見開いて、それからふわりと笑った。
「ありがと」
その笑顔が綺麗で。
いるまは一瞬だけ息を止める。
帰らなきゃいけない。
もう理由はなくなった。
でも。
「…なぁ」
「ん?」
いるまは空を見上げる。
そして少しだけ笑った。
「あと5分だけ」
今度は自分がそう言った。
なつは驚いた顔をして、それから嬉しそうに笑う。
二人の距離は変わらない。
たった5分
けれどその5分は、
きっと今までのどの5分より特別だった。
コメント
1件
おお、これすごく良かったです。「あと5分だけ」というタイトルの意味が最後に逆転して返ってくる構成、綺麗でしたね。特に「嬉しい。思った以上に」といういるまの心の声と、なつの耳まで赤くなるところが、甘酸っぱくて。二人の間にある空気感が自然で、特別な瞬間を覗き見しているような気持ちになりました。最後の「じゃあ今度は俺が言う番」で終わらず、なつのリアクションまで描かれていたのが余韻としても優しかったです。