全員に一抹の緊張感が溢れる中、ラスは一歩前に出る。
「リムル=リスティアーナを倒すのは、お前たちだ」
普段であれば、実子であるヒノトを奮い立たせるような言葉を、この場所にいる生徒たち全員に放った。
周囲の謎の花のモンスターたちは、セノたちの登場で一瞬にして全てが消滅していた。
「魔族軍の指揮官を……僕たちが……?」
「今、和国民は、兵士も含め、風の使徒 エル=クラウンの能力により、魔族化寸前だ。今、リムルと戦闘しているルギア・スティア、統領 徳川勝利も、魔力が尽き掛けている。ここまで時間を稼げたのも、この二人だったからだ」
「で、では…………ルギアさんも徳川さんも、最初から勝てないことを見込んで戦っていたのですか……?」
「そうだ」
容赦ない回答に、全員が汗を滴らせた。
「あの二人でさえ手に負えない相手を……僕たちが……束になったところで…………」
弱腰の声が聞こえる中、それを制して言葉を返す。
「あの二人がリムルに勝てない理由は二つ。『闇シールドの破壊ができないこと』と『手数』だ」
確かに、ルギアも徳川も、一撃が強力な戦い方で、手数が必要な場面では不利に感じられた。
「そして、肝心の “闇シールド” の破壊だが、これは四属性を確実にぶつけなければ、破壊できない。それも、何度もぶつけ、削っていく必要がある。だから、お前たちであり、手数、人数が必要なんだ」
そこで、全員は何かを悟った表情に変わる。
「今回の…………編成…………」
シルフは、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「気付いたようだね。その通りだ。今回の倭国遠征、前衛を集めた意味、君たちを選んだ理由。それは、君たちでリムル=リスティアーナを倒して欲しかったからだ」
そして、鋭い目付きでシルフは全員に告げた。
「君たちから見れば、僕は裏切り者だろう。これからもその認識で構わない。しかし、今はリムルが共通の敵で、唯一の生きて帰る方法だよ」
最初から選ばれなければよかった。
と、そう思う者はいなかった。
何故なら、唯一、リムル=リスティアーナを倒せる希望が自分たちだとしたら、自分たちが退くことは、倭国滅亡を意味しているからだ。
でもだからこそ、エルフ王国に向かった生徒たちとは違い、任意参加な理由も頷けた。
「君たちには今から、即席で3パーティを作ってもらう。能力を見定め、僕が指定する」
そうして、名前が告げられる。
Aパーティ
キラ・ドラゴレオ(雷)
リゲル・スコーン(炎)
アイク・ランド(水)
凪 クロリエ(風)
Bパーティ
キース・グランデ(氷)
ユス・アクス(水)
ヒノト・グレイマン(現在 炎)
ロス・アドミネ(風)
Cパーティ
リムル・サトゥヌシア(闇)
グラム・ディオール(岩)
ラス・グレイマン(氷)
シルフ・レイス(水)
「あの……この振り分けの意味って…………」
「先程も話したが、闇シールドの破壊の条件は、四属性を確実にぶつける必要がある。その為、最初の三人で各属性の下地をしっかり付け、最後に “風属性の拡散” が必須条件となる」
そして、行きと同様、リムルは不安な顔で訊ねた。
「あ、あの……私たちのパーティは…………?」
「僕とラス殿が入る君たちの特殊なCパーティの意味は、 “リムルの撹乱、及び仲間の保護” が役割だ。リムルはかなり腕が立つ。僕たちで撹乱をしなければ、一人の技をぶつけることすら難しいだろう」
その言葉に、リムルとグラムはハッと顔を見合わせた。
「だから、ルギアさんからのあの特訓だったのね……!」
二人とロスしか知らない、ルギア直々に行われた “過酷” と呼ばれた特訓。
あれの本質が、ここに来て明らかとなった。
「私たちがしたことは……複数人の仲間に魔法支援をしても崩れない “魔力増強の特訓” だった……。ルギアさんも今回の作戦を見越していたってことね……」
フラフラと立ち上がるリゲルに、シルフは駆け寄る。
「調子はどうだい……?」
「ヒノトが吸収してくれたお陰で……戦えます……!」
その言葉に、ふんわり笑みを浮かべた。
「炎魔の小僧。直に倭国民の魔族化も解かれる。エルはハナから、僕たちの味方だからね」
ニタリと、セノはリゲルへと告げた。
しかし同時に、咲良は膝から崩れ落ちた。
「なら……僕のしてきたことって……一体…………?」
そんな咲良に、ラスは目を向けた。
「君がしてきたことは、敵に塩を送るようなことでもあったが、確かに、今の今まで、魔族化した倭国民たちを、安全に守ってきたことも事実だ」
「守ってきた…………? 僕が…………?」
「今、キルロンドも倭国も、セノ=リュークの掌で踊らされているのが現状だ。しかし、それがなければ、リムルの手で滅ぼされていたことも事実だろう」
咲良は、スッと握り拳を胸に当てる。
その姿を、ラスはニヤッと見遣った。
「さあ、行くぞ!! 未来を掴むんだ!!」
ラスの合図の後、全員は即座に散らばる。
何かを察知し、上空に飛び上がったリムル。
それを見上げるように、リリム、グラム、シルフの三人は崩壊した岩の陰に隠れた。
「シルフさん……信用してもいいのよね……?」
「ああ。今だけは、信用して欲しい……」
「なら、私に何が出来るのか教えて…………!」
次の瞬間、キラは巨大な斧にバチバチと雷を纏わせ、リムルに突撃した。
「彼に “闇魔法・幻花” を掛けるんだ!」
“闇魔法・幻花”
全く臨戦態勢になく、キラの攻撃を避けられそうになかったはずのリムルは、身体から腕を生やし、咄嗟にキラへと、氷結の塊を放った。
「マジかよッ…………!」
ガッ!!
キラは避けることが出来ず、青褪めた顔を浮かべたが、リリムの幻花により、攻撃を避けられていた。
「うああああああ!!!」
キラが被弾する最中、リゲルが炎の剣を振い上げる。
“炎虎剣・火断”
ザン!
「貴様…………!!」
リムルがリゲルを襲おうとした瞬間、
“岩防御魔法・岩陰”
ガン!!
「これは……グラムの防御魔法……!!」
一撃で砕かれてしまったが、咄嗟の防御魔法で、グラムはリゲルを守った。
「小蝿共が…………!!」
リムルの形相は明らかに変わっていた。
バチバチ!!
“雷狼・放電”
武器の先端から雷を放出するという、シンプルな技ではあるが、今までのロングソードでは出来なかった魔法を、武器を通し、キラは発現させていた。
「ガッハッハッハ!! 元雷帝、狼が大暴れする時ゃ、余所見厳禁だぜ、指揮官!!」
リゲルの炎、キラの雷による “過負荷” により、ボン!! と、爆発を見せるリムル。
その爆炎に乗じ、二人の影が煙の中に飛び込む。
「行くよ…………凪くん!!」
「ああ、アイク!!」
「煙の中だろうと、気配で分かるんだよ!! 無駄な悪足掻きよ!! 小蝿共!!」
怒りを露わに、リムルは二人に殺気をぶつける。
「見えないんじゃ、二人を守れない…………!」
焦るリリムの下に、ラスが駆け降りる。
「ラスさん…………!」
「あの二人なら…………大丈夫だ」
ゴォ!!
再び、巨大な腕が、リムルの腹から突き出し、二人に向かって襲い掛かる。
“水魔法・氾濫”
薄らと煙が晴れると、アイクは倭国製の巨大な盾を両手で掲げ、リムルからの攻撃を防いでいた。
「でも、あれじゃ水の攻撃は出来ないんじゃ……?」
その瞬間、
ゴォッ!!
盾からは跳ね返るように濁流がリムルを襲った。
「この新魔法は、盾で防いだ攻撃を、その威力のまま水魔法に変えて跳ね返す!!」
「小癪な…………!!」
スッ…………
静かな影が瞬時に過ぎると、シルフは笑う。
「本当に……強くなった…………!」
“夕凪・椛・居合い”
「異邦剣術だけなら……俺が一番強い……」
キン…………
凪がリムルを通り過ぎ、剣を鞘に収めた瞬間、全ての属性が “風魔力の拡散” により、虹色の爆発を見せ、リムルを地面へと大きな音を立て、落下させた。