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川野さん: 「やっぱり駄目だったね。」
さっちゃん: 「一緒の部活なら話もできたり、もっと一緒にいられるのに。 勉強のほうが大事なのかな?」
小石さん: 「そんなことないと思うよ。」
川野さん: 「そうよ。 さっちゃんのほうが大切だと思っているに決まっている。」
さっちゃん: 「Kにとっては私は友達程度なのかな?」
小石さん: 「そんなこと、絶対ないって。 だってさっちゃんのこと、好きだって聞いたもん。」
さっちゃん: 「心変わりしちゃったとか?」
川野さん: 「そう? 私には変わらないように見えるけど。 いつもさっちゃんの方を見てるじゃん。」
小石さん: 「Kならそんなに勉強しなくても総選、平気じゃないの?」
さっちゃん: 「それが…、南高に行くみたい。」
小石さん: 「うそ、総選行かないの? じゃあ、別の高校になっちゃうじゃん。」
川野さん: 「でも、まだ南高かどうかわからないんでしょ。」
さっちゃん: 「よくわからない。 二人っきりで話すことがないから… あまり話ができていないんだ。」
小石さん: 「そうなんだ。 なおさら一緒の部活になれば話ができてよかったのにね。」
2月終わり頃から少しずつ、僕と天宮さんはクラス副会長としての修学旅行の仕事があった。
3月になると、クラス会長と副会長、修学旅行担当委員と班長が体育館に集まった。
まずクラス会長と副会長のグループ計18名と担当委員のグループの2グループで集まった。
誠先生: 「会長、副会長は体育館前に集まるように。」
僕達は誠先生のそばへ歩み寄った。
誠先生は天宮さんを見ると、
誠先生: 「3組はそこら辺だ。」
僕と会長も天宮さんのそばに体育座りした。
岡村: 「3組の副会長は例の二人だよな。」
岡村のひとことでいつものように僕たちに視線が集まり、ヒソヒソと話し声が聞こえた。
つきあってから3か月経過しており、学年中に僕たちのことは知れ渡っていており、クラスが違うみんなにとっては見慣れていないせか、そばにいるだけで噂をされた。
誠先生: 「岡村、私語は慎めよ。」
河東先生: 「ほら、静かにしろ。 出席を取るぞ。 1組、・・・」
クラス順に名前が呼ばれた。
河東先生: 「3組、会長は・・・」
修学旅行の打ち合わせということもあり、体育館内はガヤガヤ騒がしかった。
河東先生: 「3組の副会長はK、そして天宮。」
一旦静かになった。
K(僕): 「はい。」
さっちゃん: 「はい。」
一緒に名前が呼ばれるだけでも、格好の餌食となっていた。
誠先生: 「全員いるな。 では当日の会長、副会長は…」
出席確認の後は、会合が始まった。
体育館の後ろの方では各クラスの修学旅行実行委員が集まって別の会合を開いていたので時折、そちらの話し声も聞こえてきた。
誠先生: 「副会長は出発時及び到着時の男女の点呼を行い、会長に報告すること。 それと、各部屋の入浴時間の調整、食堂への移動の誘導、消灯時間を守るように見回るように。」
河東先生: 「宿に迷惑が掛からないように時に時間厳守でな。 学校の代表だから、自覚をもって行動し、副会長もしっかり会長を補佐するように。」
会合は始まると、とりあえずはみんなの好奇の目はなくなった。
噂はするものの、さすがクラス役員であるから絵画始まるとみんな真剣に先生の話をきいていた。
ふと隣の天宮さんをみると。修学旅行のしおりを見ながら真面目な顔でメモしていた。
河東先生: 「食事は食堂に集合するが、5分前に放送が入るから、時間厳守でみんなをまとめてくるように。 同じように入浴も放送が入るから手際よくな。」
各食事場所や入浴場所、それぞれの時間を地図とタイムテーブルを見ながら確認をしていった。
退屈な会議であったが、天宮さんと一緒なのでそれだけが救われた。
K(僕): 「(副会長は何もやることないって言われたっから引き受けたけどな… でも天宮さんといっしょだからまあいいか。)」
30分程度のクラス役員の会合は終了した。
山口先生: 「次に奈良公園の班別行動について、班長は集まるように。」
天宮さんは副班長であるため、僕だけが残った。
天宮さんを見ると微笑みながら会釈した。
僕も天宮さんに向かってニコッとした。
岡村: 「おいおい、仲良くしすぎじゃないか?」
僕が困っていると、すかさず
岡村: 「まさか、天宮と同じ班?」
K(僕): 「まあ…」
岡村: 「どれだけ一緒なの? それよりお前が班長になるなんて、驚きだけどな。」
小学校の時の僕を知っているからこその発言だった。
山口先生: 「じゃあ、班長会議をするぞ。 バスで春日大社に移動し、そこから・・・・」
続けて班長会議が始まった。
K(僕): 「修学旅行ってバスで行くんだけど、カラオケとか順番回ってこなかった?」
現在の俺: 「どうだったかな?」
K(僕): 「歌謡曲なんて全く分からないんだけど。」
その当時、月曜日には歌のトップテン、木曜日にはベストテンをやっていたが、小学校時代は珠算で帰宅時間が午後9時半過ぎであり、歌謡曲を歌えるほど見ることができなかった。
中学校になっても歌謡曲には興味があまりなく、松田聖子や中森明菜などメジャーの歌手の歌はかろうじて分かる程度で、歌えるほどではなかった。
そのため、みんなの前でカラオケはもちろん、みんなで合唱することもままならなかった。
K(僕): 「仕方ない。 歌詞が書いてある本を買ってこよう。」
本屋に行って楽譜付きの歌謡曲の本を買って、3月くらいから歌謡番組を見ては、歌を覚えていった。
K(僕): 「勉強の要領で覚えていくか・・・」
1か月間、みっちり歌詞を覚えて、まあまあメジャーな曲は口ずさむまでいけるようになった。
現在の俺: 「この中学2年の時の曲は比較的ほかの時代よりも歌を覚えていて、この時代の曲は中2の時、天宮さんと付き合っていた時の曲って分かるんだよね。」
そして3月14日。
朝から小雨がふり、午前中は雨だったが、午後より雨は弱くなり、下校時間頃には雨はやんでいた。
3月とはいえ、日差しがない分、寒い1日だった。
K(僕): 「天宮さん、放課後いい?」
さっちゃん: 「うん。」
ホワイトデーなんでお返しがある分、誘いやすかった。
博: 「放課後何があるのかな?」
みき: 「今日はホワイトデーだからね。」
こういう日は博は例外なくからかってきた。
それでも放課後は二人きりにさせてくれた。
K(僕): 「チョコのお返しね。」
さっちゃん: 「ありがとう。」
K(僕): 「それと・・・」
そう言って、冬の制服の第2ボタンを外した。
天宮さんは何をするのか、って顔で見ていた。
K(僕): 「第2ボタンもらって。」
さっちゃん: 「えっ?」
その当時、好きな女の子には制服の第2ボタンを渡すブームがあった。
普通は卒業式にすることが多かったけど、どうしても天宮さんにあげたかった。
現在の俺: (ボタンごときでセーターのお返しにはならなかったし、吹奏楽の協力はできなかったけど、さっちゃんのことは大好きだったし、当時は将来はさっちゃんのことを「心に決めた女性」って思って、一種の決意表明のように第二ボタンを渡した。 それも前の日とか、考えてなくてその日そのときの気持ちで直感で渡したと思う。 だからドキドキとかなくて、どうしようかなって思いもなくて、スムーズに渡せた。)
さっちゃん: 「もらっていいの?」
K(僕): 「うん。 天宮さんにもらってほしい。」
外したボタンを僕は右手でつまんで天宮さんの右手に渡した。
その時、かすかに天宮さんの掌に僕の3本の指が触れた。
さっちゃん: 「ありがとう。」
天宮さんは照れながら受け取った。
K(僕): 「雨もやんだし、一緒に帰らない?」
付き合って5ヶ月目で僕は誘ってみた。
さっちゃん: 「え?」
突然かつ初めてのことで天宮さんは目を真ん丸にして言った。
現在の俺: 「(初めて一緒に帰ろうって言ったからさっちゃんはさぞかしびっくりしたと思う。)」
K(僕): 「部活がある?」
断られるかなって思いながらも恐る恐る訊いてみた。
現在の俺: (さっちゃんは忙しい吹奏楽部に入っていたので、誘っても断られるかもっていう心配でいつもは誘えなかったんだけど、言い訳だよね・・・)
さっちゃん: 「ううん、部活ないから帰れるよ。 西門の所で待っているね。」
僕は半分無理かなって思っていたが、
K(僕): 「よかった。 急いで自転車を取りに行ってくる。」
さっちゃん: 「うん。」
急いで支度をして、三階の教室から走って階段を降りて玄関を出た。
外に出るとどんより曇り空であったが、初めての一緒の下校で心の中は快晴そのものだった。
校庭東側の駐輪場から自分の自転車を取りに行き、新館校舎前の雨で濡れていた舗装された道を自転車を引きながら、西門に向かって走った。
まだほかの生徒もいたが、天宮さんは西門に向けて歩いていた。
K(僕): 「おまたせ。 カバン、自転車に乗せるから貸して。」
さっちゃん: 「重くないから自分で大丈夫だよ。」
K(僕): 「いいの、もらうよ。」
ヘルメットをハンドルに引っ掛け、自分のカバンの上に天宮さんが肩からかけていたカバンをもらって前のかごに置いた。
2年3組だけでも3組のカップルがいたが、その当時、他のクラスでつきあっていたという噂は聞かず、なかなか男女二人で帰るっていうことは珍しかったのかもしれない。
その他1: 「あの二人、誰?」
その他: 「3組のKと天宮だ。 お前、知らないのか?」
その他1: 「あ、やっぱり、付き合ってるんだ。」
当然、みんなの視線を感じた。
二人ともうつむき加減で黙って西門を出て、校庭沿いの狭い道を南に下り、通りに出た。
そこまでくると、下校する生徒の視線は少なくなっていた。
K(僕): 「天宮さんて1年生の時は4組だったんでしょ。 去年は合唱曲何だったの?」
さっちゃん: 「「想い出がいっぱい」、みゆきの主題歌のね。」
K(僕): 「珍しいね。 アニメの歌が合唱曲って。」
さっちゃん: 「いい成績じゃなかったけど、結構その歌は好きだったんだ。 先生が私達の意見を尊重してくれたの。」
K(僕): 「確か、誠先生だったんだよね。」
自転車を押しながら、一緒に歩いていた。
しかし、同学年はともかく、下級生や上級生のだれに対しても、見られていると思うと慌てて僕は黙り込んで歩いていた。
K(僕): 「いつになっても照れちゃうんだよね。」
そうすると会話は途切れるし、そうすると緊張してなかなか次の話題をふることができなかった。
さっちゃん: 「・・・ (付き合っていた半年近くなるのに、ずっとこんな感じなのかな? これじゃ、デートどころか、あまり話できないし、高校のこともききたかったのに。)」
現在の俺: (あの時の「僕」は間違いなく、女性に対して、特に好きな人だったらなおさら、一緒にいたり、話をしたりするのを誰かに見られると、過剰なほどに緊張するし、照れてしまっていた。 それにさっちゃんのことが大好きすぎて、大切にしようとか、嫌われたくないと思うばかりに慎重になりすぎたのかもしれないし、「もし断られたら」という心配もあってなかなか誘うこともできなかったと思う。 さっちゃんはそんな僕を頼りないって思っていたのかもしれないし、形式的にはつきあっても、予想していたら彼氏彼女じゃ、なかったんだろう。 だけどそれが僕にできる精一杯の付き合い方だった。 そう考えるとさっちゃんのほうが大人だったと思う。)
春休みに入ると、どうしても天宮さんに会いたくなった。
K(僕): 「それでも天宮さんと話したいなぁ。 電話なら二人っきりだけど、お父さんやお母さんが出たら、どうしよう…」
二階の階段にあった黒電話を付近を行ったり来たりしていた。
妹: 「お兄ちゃん、何やってるの?」
K(僕): 「別に…」
当時は携帯電話なんて存在しないから、家に帰ってしまうと連絡手段は家の電話だった。
それも黒色のダイヤル式の電話であり、緊張するとダイヤルを中途半端に回して間違い電話の原因にもなっていた。
妹: 「天宮さんに電話したいんでしょ。 下に行って電話していないか、見てきてあげる。」
さらに携帯電話が一人1台の今の時代と違って親が「長電話」しているから使いたい時に使えないことも多く、さらに一階の電話と二階の電話は共通のアナログ回線なのでどっちかで電話していると、もう一方の電話であり「盗聴」される心配もあった。
妹: 「今、使ってないみたいだよ。」
K(僕): 「別に電話使いたいわけじゃないけど…」
妹: 「じゃあ、私が使おうかな?」
K(僕): 「やっぱり電話する。」
妹: 「お兄ちゃんがそんなに好きな人だから、将来お姉さんになるかもしれないから、協力してあげるね。」
K(僕): 「何言ってるの?」
妹: 「何、顔赤くしているの?」
たまには妹も協力してくれた。
妹: 「下に行って電話見張っていてあげる。」
妹が一階の居間に行ったのを確認してから、二階の電話の受話器を上げた。
K(僕): 「やっぱり学校でみんなの前で話しかけるのと同じくらい緊張するなぁ…」
その当時、市外局番は1桁、電話番号は4桁の計5回ダイヤル回すだけでも手は震えた。
受話器からは呼び出し音が緊張している僕の心を針でさすように受話器を当てた左耳から聞こえていた。
K(僕): 「なんで電話かけちゃったんだろう…」
って後悔したくなるほどの緊張だった。
さっちゃんのママ: 「はい、天宮クリーニング店です。」
舞い上がっていたけど、天宮さんとはちょっと違う声だと気がついた。
もちろん、電話越しだったので声色が変わって天宮さんということもあり得たが、
K(僕): 「も、もしもし。 2年3組で同じクラスの…」
つきあった日とどっちが緊張したのか分からないくらい緊張していて、受話器を持っている左手はもちろん、全身汗ばんだ。
さっちゃんのママ: 「今、さっちゃんは外出しているの。 ごめんなさいね。」
K(僕): 「あ、そうですか? ありがとうございます。 では、失礼します。」
緊張が解かれた後は虚しさと疲れがどっと出た。
妹: 「ずいぶん早いね。」
K(僕): 「いなかったからね。」
妹: 「せっかく協力したのに天宮さん、いなかったんだ。 これは何かにの予兆じゃないの? なんちゃって。」
K(僕): 「おい、変なこと言うなよ。 修学旅行あるから大丈夫だもん。」
電話で話ができないならと、次の手を考えた。
K(僕): 「制服、クリーニングに出しに行ってもいい?」
母: 「出してきてあげるよ。」
K(僕): 「自分で出しに行く。」
母: 「いいよ、ついでだから。 どこに出しに行くの?」
K(僕): 「天宮さんの家、クリーニング店だから。」
母: 「そういうことなの? じゃあ、出しに行ってきていいよ。」
K(僕): 「じゃあ、明日行ってくる。」
母: 「なんで? 今日行けば?」
K(僕): 「・・・」
妹: 「今日はいないもんね。」
K(僕): 「余計なこと言うなよ。」
母: 「それで、さっちゃん、お兄ちゃんのために電話見張りに来たんだ。」
妹: 「兄想いのいい妹だね・・・」
K(僕): 「一言多い妹だけどね。」
修学旅行もあるので、よい言い訳にもなり、翌日、自分の冬の制服を持って、天宮さんの家まで行った。
チャンスがあれば今日こそは会えるかもしれない。
自転車を店の前に停めたが、クリーニング店のドアを開けるかどうか、2、3回迷いながらも、勇気を絞って、それでも恐る恐る開けてみた。
K(僕): 「こんにちは。」
さっちゃんのママ: 「はーい。」
K(僕): 「制服のクリーニングをお願いしたいのですが…。」
初めて見る客だと天宮さんのお母さんは思ったのだろうか、それとも子供がクリーニング出しに来るのが珍しいのか、じっと僕の顔を見た。
さっちゃんのママ: 「名前と住所、電話番号を教えてくれる?」
僕が名前を言うと、一旦書くのをやめて、もう一度僕の顔をちらっと見た後に、天宮さんのお母さんは言った。
さっちゃんのママ: 「住所と電話番号も。」
僕は住所、電話番号を言うと、天宮さんのお母さんは帳面に記載していった。
その後、再び僕の顔を見て言った。
さっちゃんのママ: 「修学旅行に間に合うように、仕上がりはこの日でいいかしら。」
K(僕): 「はい、お願いします。」
そう言って店を後にした。
残念ながら天宮さんはいなかった。
3月末には制服も戻ってきており、4月からクリーニングされた制服を着て3年生に進級した。
といっても、すぐに修学旅行であるので班替えもなければ、クラス替えもなかった。
教室は旧館校舎から新館校舎3階の一番東側の教室に代わったが、天宮さんは3学期同様、隣の席に座っていた。
4月8日月曜日、朝から小雨が降ったりやんだりしていた。
修学旅行用の体育着や身支度品、着替えを入れたボストンバッグをもって登校し、学校に預けた。
午前中は修学旅行の壮行会を行い、体育館に集合した。
山口先生: 「明日は5時10分に集合だぞ。 朝早いから遅れないようにな。」
松井先生: 「 今日の午後に遊びに行ったりしないようにな。」
午前中で解散になった。
川野さん: 「いよいよ修学旅行だね。」
小石さん: 「ホント、楽しみだね。 あれ、さっちゃん、浮かない顔してどうしたの?」
さっちゃん: 「楽しみもあるけど、不安もね。」
川野さん: 「そうかぁ。 なんとなく、分かる気がする。」
小石さん: 「Kだよね、原因は。」
さっちゃん: 「うん。」
小石さん: 「でも、さすがに自由行動もあるし、奈良の班別行動ではKと同じ班だし、大丈夫でしょ。」
さっちゃん: 「そうだといいけど。」
川野さん: 「でも、Kだよ。 さっちゃんじゃなくても、大丈夫かなって心配になってくるよね。」
さっちゃん: 「でしょ。」
小石さん: 「Kもさっちゃんのこと、好きなんだからしっかりしてほしいよね。」