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翌日。
魔獣カフェの暴走事故について、学院では緊急の保護者説明会が開かれることになった。
場所は、学院の大講堂。
高い天井に並ぶ魔法ランプ。壁にずらりと飾られた歴代学院長の肖像画。
普段なら厳かな空気が漂うその場所は今、怒号とざわめきで満ちていた。
「我が子が危うく死にかけたのですぞ!」
「文化祭の出し物で魔獣が暴走するなど、前代未聞ですわ!」
「魔獣暴走だけではない。容疑者の追跡中に、学院の屋上まで爆破されたと聞いておりますぞ!」
「責任者は誰なのです!?」
保護者たちが、口々に教師たちへ詰め寄っている。
その中には、現王妃派を象徴する、鮮烈な赤いドレスにクジャクの羽根飾りをつけた一団の姿もあった。
(……お出ましね)
私は大講堂の座席で、まっすぐ前を見据えていた。
両隣にはフローラと、包帯姿のアレク。少し離れた王族用の特別席には、レオンがいる。いつもの王子スマイルを浮かべているが、その瞳は一切笑っていなかった。
「魔力増強剤が混入されていた可能性があると聞きましたが!?」
一人の保護者が声を上げる。
しかし、王妃派の夫人が扇で口元を隠し、鋭い声でそれを遮った。
「それはそれ、これはこれですわ。そもそも、魔獣カフェの責任者はウィステリア伯爵令嬢なのでしょう?」
一斉に、視線が私へ集まった。
冷たい視線。嘲笑。疑念。
(そういう流れに持っていくわけね)
別の王妃派の貴族が、勝ち誇ったように続ける。
「魔力を持たぬ者が魔獣を扱おうなど、最初から無理があったのです」
「しかも、コットン・キャンディ・シープを選んだのも彼女だとか」
「餌やり体験を企画したのも、彼女なのでしょう?」
言葉のナイフが、次々と私へ向けられる。
まるで、最初から用意されていた台本を読み上げるみたいに。
(魔力増強剤を仕込んだ犯人は別にいる。屋上爆破だって、犯人が自爆魔石を使ったから起きたこと。それを全部、私の責任にすり替えるつもりなのね)
本当に分かりやすい連中だ。
「違いますっ!」
隣で、フローラが顔を真っ赤にして立ち上がった。
「お姉さまは、誰よりも安全対策を考えていました! お客様を守るために、すぐに散水魔道具を作動させて――」
「エミリア子爵令嬢」
教師の一人が、慌ててそれを制止する。
「ここは保護者説明の場だ。質疑応答は別にとる。発言は控えなさい」
「でも……っ!」
フローラの大きな瞳に涙が滲む。
その瞬間。
アレクの背後から、不気味な赤黒い魔力がゆらりと立ち上った。
「……今、バイオレッタを責めたのは誰だ」
低く、地の底から響くような声だった。
講堂の空気が、一瞬で凍りつく。王妃派の保護者たちが、ひっ、と息を呑んだ。
「アレク」
私はその大きな手をそっと引き、小声で囁いた。
「やめて」
「だが……!」
「今怒ったら、向こうの思うつぼよ」
アレクは苦しげに歯を食いしばる。けれど、私の言葉に従い、魔力を抑え込んだ。
質疑応答の時間になり、王族席からレオンが口を開いた。
「魔力増強剤は、製造も所持も禁止された禁薬だよ。それが学院内に持ち込まれた時点で、これは明確な犯罪だ」
柔らかな声。けれどそこには、普段の軽さは微塵もなかった。
「それを、バイオレッタ一人の責任にするのは、少し乱暴じゃないかな?」
王妃派の夫人が、にこりと微笑む。
「ええ、もちろんですわ、レオン第二王子殿下。犯人は厳しく調査されるべきでしょう」
夫人はそのまま、視線を私へ向けた。
「ですが、調査が終わるまでの間、責任者である彼女を通常通り授業へ参加させるのは、保護者として不安ですの。ねえ、皆様?」
「そうだ! そうだ!」
「まずは責任者を隔離すべきだ!」
「再発防止のためにもな!」
再び講堂が騒がしくなる。
学院長は、深く息を吐いた。その顔には、苦渋の色が浮かんでいる。
「静粛に」
講堂が少しだけ静まった。
学院長が私を見る。
「ウィステリア伯爵令嬢」
「はい」
「今回の魔獣暴走事件について、君に故意があったとは、学院は現時点では判断していない」
学院長は続けた。
「だが、君が実行責任者であったことは事実だ。保護者からの不安の声も大きい」
「……」
「よって、調査が完了するまでの間、君には授業および学院行事への参加を控えてもらう」
講堂がざわめいた。
つまり、正式な停学ではない。けれど、実質的な謹慎処分だ。
「学院寮の自室にて待機。外出は許可制。調査への協力を求める」
「そんな……! お姉さまは悪くありません!」
フローラが悲鳴のような声を上げる。アレクが拳を握りしめた。レオンの笑みは、完全に消え失せている。
「承知いたしました」
私は、すっと背筋を伸ばして立ち上がった。そして、どこまでも優雅に、完璧な所作でカーテシーをした。
「お姉さま……!?」
フローラが信じられないという顔をする。
王妃派の保護者たちは、あからさまに満足げな笑みを浮かべていた。
(勝ったつもり?)
(残念ね)
私はゆっくりと顔を上げた。
「ただし――ひとつだけ、確認させてくださいませ」
学院長が眉をひそめる。
「何かね」
「私は、調査に全面的に協力いたします。ですので、禁薬の混入経路、納品業者、学院内の管理体制、そして事件当日の来訪者記録――すべてを正式な調査対象にしていただけますわよね?」
一瞬。王妃派の保護者たちの笑みが、わずかに固まった。
学院長は、重々しく頷く。
「当然だ」
「ありがとうございます」
私はもう一度、一礼した。そして、大講堂の出口へ向かって堂々と歩き出す。
背後でざわめきが広がる。けれど、私は振り返らなかった。
(謹慎でも何でも受けて立つわ)
(授業に出なくていいなら、その時間を調査に全振りできるってことだもの)
(お望み通り、大人しくしてあげるわよ)
私は唇の端を、ほんの少しだけ上げた。
(その代わり――証拠を全部集めて、倍にして返してやるわ!)
こうして私は、暫定謹慎処分を受けることになった。もちろん、ただ大人しくしているつもりなど、毛頭なかった。
コメント
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お疲れさまです。第56話、読み終えました。 保護者説明会の緊迫感、すごかったですね。王妃派の夫人たちが言葉のナイフを次々と向けてくる流れ、読んでいて胃がキリキリしました……。でも、バイオレッタが謹慎を受け入れつつ「その時間を調査に全振りできる」とほくそ笑むラスト、痺れました。怒るより先に次の手を読む強かさ、本当に魅力的です🤍 フローラが涙ながらに弁護しようとする場面も、アレクの魔力が立ち上る瞬間も、それぞれのキャラの心情がひしひしと伝わってきました。とくにアレクを「思うつぼよ」と制するシーン、彼女の冷静さと信頼の深さが滲んでいて、何度も読み返しました。 続きが待ち遠しいです。素敵なエピソードをありがとうございます🌷