テラーノベル
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戦いは終わった。
シェイドの姿は光に飲み込まれ、禍々しい瘴気も消え去った――はずだった。
崩れ落ちた大聖堂の外は、静寂に包まれていた。
つい先ほどまで瘴気と悲鳴が渦巻いていたはずの街は、今はただ重く、痛ましい沈黙を湛えている。
石畳には、人々が倒れ伏していた。
幼子が母の胸に抱かれたまま、ぴくりとも動かない。
老いた者も、若者も、皆同じように冷たい眠りに囚われていた。
「……結局、俺たちは……何のために戦ったんだ」
若井が膝をつき、拳を震わせる。
「みんなを守るはずだったのに……」
大森の声も、かすれていた。
藤澤の膝が崩れ落ちる。
「僕たち……守れなかったのか……」
その肩に、若井と大森が同時に手を置いた。
二人とも言葉を失っていた。
⸻
だがその時。
大聖堂の天井にある高い尖塔(スパイア)から、淡い光が差し込んだ。
まるで天が、最後の道を示しているかのように。
「……まだ、やれることがある」
大森が立ち上がった。
震える指で空に五線譜のような光の魔法陣を描く。
それはやがて大きな三角形を形づくり、街全体を覆うほどの円環となった。
「三人で……やろう」
藤澤が涙を拭き、鍵盤を握りしめる。
「最後まで、三人一緒に」
若井が琵琶を構えた。
三角形の角、それぞれの場所に三人は立つ。
大森が歌い始める。
震えながらも真っ直ぐに――。
「ユイユイ……ユイユイ……」
その声に呼応して、若井の弦が響く。
力強く、そして街を守ろうとする願いを込めて。
藤澤の指も震えながら鍵盤を叩く。
琥珀色の花弁のような光が舞い上がり、魔法陣を満たしていく。
柔らかで、どこか懐かしい音の連なり。
生きとし生けるものを“結ぶ”願いの歌。
⸻
やがて、街中の人々が目を開き始める。
失われたと思われた命が次々に息を吹き返し、歓喜の声が重なる。
子供が母親に抱きつき、老人が天を仰いで涙を流し、仲間同士が抱き合う。
最初に声を上げたのは、子供だった。
「……ひろぱー……!」
その声に、藤澤が顔を上げる。
別の場所から「涼ちゃーん!」と少女の声。
さらに「もっくん……!」と泣き笑いの声が重なる。
あちこちから次々に名を呼ぶ声が広がっていった。
「ありがとう……ありがとう……!」
「あなたたちがいてくれて……本当に……!」
子供の声、大人の声、若者の声、老人の声。
街のあらゆる場所から溢れ出した声が、三人の胸を貫いた。
「……聞こえるか? 二人とも……」
大森の声が震える。
「……ああ。俺たちが守った街だ」
若井が涙をこらえるように笑う。
「……やっと、報われたんだね」
藤澤の頬を熱い涙が伝った。
「……ユイユイ……ユイユイ……」
大森が歌い続ける。
歓喜と叫びと泣き声が街に満ちていく。
けれど――。
光の中心にいた三人の身体は、ゆっくりと透け始めていた。
「……若井……涼ちゃん……ありがとう」
大森は涙を堪えながらも、震える唇で笑う。
「何言ってんだ……こっちこそだろ」
若井が無理に笑みを作る。
「僕たち……やっと、本当に人々を救えたね」
藤澤が涙の中で微笑む。
大森が目を細め、二人の手を探して握る。
光に溶けていく指先同士が、ぎゅっと絡まった。
「……また会おうな。」
「……ああ。来世でも……絶対に」
「次の世界でも、三人で音を鳴らそうよ」
藤澤が涙をこぼしながらも、穏やかな笑顔を見せる。
若井が小さく笑った。
「決まりだな。……また俺がリードしてやるから、ついてこいよ」
「じゃあ俺は歌うよ。世界中に響くように」
「僕も。音でみんなを支えるよ」
指先から、足先から、光へと溶けていく。
「だから――また三人で」
大森が歌声を最後に紡ぐ。
――ユイユイユイユイ。
最後に、三人は顔を見合わせた。
涙でぐしゃぐしゃになりながらも――心からの笑顔だった。
「「「――ありがとう。大好きだよ」」」
最後の旋律と共に、三人は光に包まれ、笑顔のまま消え去った。
⸻
彼らの犠牲があったからこそ、街は再び生きた。
その夜、人々は決して忘れぬ誓いを胸に刻んだ。
『三人の守護神に――永遠の感謝を。』
END
コメント
8件
アカもつ前から好きで、読ませていただいてました!! 個人的に禁断の共鳴、今日もミセスは平和です(ほのぼの系)、禁忌の薬師が大好きです!!もちろん全部好きです!!これからも応援してます!
確認遅くなってしまいました💦申し訳ありません💦 読みながらいい話やー…ってなってました! 主様のお話のワードセンスが良いので、それもまた最終回を彩っているのかなって思うんです! これからも応援しています✨️✨️✨️いつも更新お疲れ様です😊
感動です😭😭 お話の中でも現実でも人々はミセスの3人に救われていますね!🫶