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すっきりして戻ってきて見れば、何やら不穏(ふおん)な空気を纏った(まとった)大人二人に彼が取り囲まれているでは無いか。
念の為、少し距離を置いて様子を窺った(うかがった)所、大人二人は式の主催者とも言うべき役所の担当者らしかった。
彼らが相方を咎め(とがめ)る言葉によると、どうやら相方が祭壇の供物(くもつ)を食べてしまったらしい。
引いた。
幾らなんでも…… バチが当たるでしょ?
それほど空腹だったというのだろうか……
アタシですら、それほどペコペコと言う訳でも無いのに……
あれ、いつもなら限界位の時間なのに? 変だな。
そんな風に首を捻っていると相方と目が合い、即座に彼が叫んだ。
「茶糖さん! この人たちに話してよ!」
? アタシが? なんで?
はっ! 口裏合わせ? このアタシに泥棒の片棒担げってか?
黙って考えていると、相方が続けて言った。
「頼むから、茶糖さん…… 正直に言ってっ!」
は?
正直に? ……? 良く分からんが何故今そんな事を?
理由は分からないけど、そう言う事なら正直に今の気持ちを言おう!
「仏様の物に手を出すって…… 最低、サ・イ・テ・イ・ッだよ!」
アタシの言葉を聞いた相方は暫し(しばし)目を見開いて驚きをその面(おもて)に表していたが、不意に全身の力が抜けたようになって私に視線を向けた。
全ての表情を無くし、ツンドラのブリザードの様に冷え切って、色を無くしたマットな瞳がそこにあった。
翌日から、彼はクラス所か学校中から、お供えドロとか、モラハラ野郎、ある意味サイコパス、等々さまざまな陰口を叩かれまくった。
彼が高校を去るのに二週間と掛からなかった。
相方とはそれ以来会っていない、事実上のコンビ解散となったのだ、只の日直だけど。
後に聞いた噂では、役所勤めだった父親も職場を辞し、何処か遠くの街へ引越したようだ。
まぁ、回想が長くなってしまったが、さっきの善悪の目は、かつての相方のそれに酷似(こくじ)していた。
だからこそ、あの視線で引く訳にはいかなかった。
もしもここで、アタシが覚悟を決めなければ、善悪も彼と同じ運命を辿るかもしれない。
具体的には、住職を辞める事になったり、この町に居られなくなる、とかである。
それは、駄目だ! そんな迷惑を掛ける訳にはいかない!
何より、そんな事になったら、善悪のご飯が食べられないし、自炊とか洗い物とか自分でやるハメになる! いやだっ!
だから、アタシは今この時から、本気だすっ!
無職は無職だが大事なのはそこの共通点じゃない、異世界転生後じゃなくて今だ!
だって、アタシは見ず知らずのリア充高校生を助ける為にトラックに潰される様な真似は絶対しないのだから。
ついでに言えば、大迷宮の中で忍耐強く成長し続ける鉄のメンタルも持っていないし、転生しなくてもそもそもスライムバディだ。
見た目は多少似ているかもしれないがオークでは無いし、その証拠に三十歳過ぎても、特段魔法を覚える事は無かった。
薬師(くすし)も冒険者も領地経営も、レンガ造りも清掃駆除も、練成も錬金も聖女も賢者も、兎に角、働きたく無い。
更にいえば、パリィも出来ないし、ヘルモード所かイージー一択だし、そもそもガチャに注ぎ込む給料自体が無い。
つまり、やるなら今、ここ、ロウファンタジーで行くしか無いんだ。
ジャンルもそうなっているし!
とにかく!
善悪が戻って来たらこの決意を伝えて、もう一度、いや何度でも教えを乞(こ)おう!
戻ってこなかったら、いいや、善悪は言った、
……一度、自分で確り(しっかり)と考えてみるでござる……
間違い無い! 善悪は考えるチャンスをくれた!
そうに違いない、たぶん、きっと、明日のコユキは……
違う、アタシにケモミミは無かった! 少し混乱したがやる事は決まった!
後は善悪が再び現れるのを待つばかりだ。
生まれて初めて、コユキは燃えていた。
その双眸(そうぼう)はメラメラと情熱の火を点し、鼻息も荒く、全身にやる気を満たし燃え上がらせていた。
残念ながら脂肪だけは燃焼していなかった為、太ったままで只、善悪の帰りを待つのであった。
当の善悪はというと……
「ヒャッハッァァァァァァァ! イエックセレンットォォォッ! アイム ラッキィボーイィ ジャスッ! ラッキィボォォォッ!」
大はしゃぎであった。
「ああぁぁ~神よ~ハレルヤ! アリルイヤァァァァッ!」
良いのか? 坊主?
もう十分以上この状態が続いている。
軽快に腰を左右に振りつつ、両前腕を胸の前でぐるぐる回しながら、膝を上手に使って体を上下に動かしていた。
いつまで続くのだろうか?
あ! 止まった。
疲れたみたいだ。
「ふぃぃぃ~! 最高っの気分でござる! しかし、クレーム担当の結城(ユウキ)氏っ! 最初からやるやるとは思って居たでござるが!」
そこで一旦言葉を止めると、何の意味があるのか不意に右拳をギュっと握って天に突き上げて叫んだ。
「ここまで出来る男だったとはぁぁぁー! 嬉しい誤算でござるっ!」
拳を下げてからも、相変わらずゲヘゲヘと気味の悪い笑いを続ける善悪。
一体何があれば、ここまで享楽的(きょうらくてき)になれるのであろうか?
その理由を知る為には一日程度時間を遡って(さかのぼって)観察してみなければならない。
早速、観察してみる事にしよう。