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二十時間ほど前……
「全く、コユキ殿にも困ったものでござる~、全然起きないとは、いやはや、状況が分かっているのでござろうか?」
午後の訓練を始めようにも、コユキが起きる気配は皆無であった。
勿論、善悪も眠りこけるコユキに手をこまねいていた訳では無い。
小声で起きて欲しい旨を伝えてみたり、ワザとらしく腹の上のタオルの位置を直したり、団扇(うちわ)で風をサワサワと送ってみたりしていたのだ。
しかし、一向に目覚めないコユキの姿を目にし続けたとき、次第に諦めの気持ちが強くなって来ていたのだった。
「今日はもう仕方無いであろうな?」
善悪とて最初から甘々な態度で臨んだ訳ではなかった。
最初は自分を鼓舞(こぶ)しつつ、恐怖を堪え(こらえ)て少しだけ大きい声でコユキを起こそうとしたのだ。
グオオオオオ、グオオオオオとバケモノさながらの鼾(イビキ)を響かせるコユキに言ったのだ。
「コユキ殿っ! いつまで寝てるでござるか! 休憩は終わりっ! さっさと起きるで、ござるっ!」
言ったのだ。
その瞬間、コユキの鼾がピタリと止まり、両の眼がクワっと見開かれたのである。
起きたの? と、覗き込む善悪を尻目に、コユキはグゥゥゥゥーグゥゥゥゥーと先程までに比べるとかなり控えめに鼾をかき始めた。
眼を見開いたままでだ。
以降、現在に至る。
ドライアイも何のその、カっと目を剥き(むき)静かめの鼾を掻き続けるバケモ、女性に声を掛けられる者は、そうそういないであろう。
今この時、善悪の体たらくの理由はこの出来事を起点としていた。
バケモ、コユキ殿の機嫌を損ねぬように、快適空間を維持するように全神経を総動員していた、そう全集中の状態であったのだ。
コユキの息吹(いぶき)に合わせつつ、この瞬間が少しでも長く続くように願い続ける時間経過。
そう、豚の呼吸を一心に心掛けていた、その時!
ピンポ――――ン!
「こんちゃぁぁ! 幸福寺さぁぁん! お荷物でぇぇ~~すぅっ!」
ばっ馬鹿な!
このタイミングで不運の運び手、黒猫の使徒、緑の邪悪、現代のゴブリンが現れるとは!
声でけぇし!
いやいや、この時ばかりは思ったね、デフォで置き配も、アリなんじゃね? って!
幸い、終末の魔女は目覚めなかった。
ふぅぅ~。
いや、まだ安心は出来ない、緑の邪悪は返事若(も)しくは玄関に人の姿を認めない限り、叫び続ける性質を持っている。
因み(ちなみ)に、呼ぶ度に声のボリュームは上げ続ける事もマメである。
これ、マジでマ・メ・な。
その事に思いが至った瞬間に、善悪はシュババババッっと玄関へと移動を済ましていた。
「ご苦労様でござる。 少し、ボリュームを絞って頂けないであろうか?」
御馴染み(おなじみ)のゴブリンは何を思ったのか、ニカッと微笑を湛え(たたえ)て言った。
「ああぁ、そうゆう~♪ ……じゃ、静かに行きましょ、どうぞ、サインで良いっす!」
何やら勝手に察しているようだが……
下衆(ゲス)め! まぁ良い、ポチっとな。
判子を打って伝票を返してやると、善悪に荷物を渡した使徒は、ゴブゴブ言いながら配達に戻って行った。
荷物の送り主に視線を向けた善悪は、パァっと顔を綻(ほころ)ばせたのだった。
期待に溢れ(あふれ)た笑みを浮かべながら、そそくさと自室へと急ぐ善悪であった。
自室に入った善悪は、待ち切れぬとばかりに、過剰包装もなんのその、素早く中身を取り出してまじまじと見つめた。
善悪が今手にしている物は一体のフィギュア、『悪魔もぐら』の個数限定シリアルナンバー…… 二ケタ台の逸品だった。
「まさか紛い物(まがいもの)の中のパチモン、パクリの中のバッタ物と言われた、ノルソルシリーズをこの手にする日が来るとは………」
目の前で、しかも我が手に取っている現実を持ってしても、未だ信じられぬといった態で言葉を続ける。
「しかもメジャーメーカーがコレクション販売とは、いやはや…………」