ー忘れ去られた過去・前編ー
エクスの肩に顔をうずめながら、イブラヒムははっきりと確信していた。
(勘違いではない。)
先程の迷いは確信に変わる。
彼に見覚えがあった。
はるか昔の、命の恩人。
自分が今、生きている理由。
(この英雄は、確かに彼だ。)
僕は親に捨てられたも同然。
いや、正確には、1人この世に残された。
7歳だったか、8歳だったか。とにかくそれぐらいの時に。
母親は他の男と駆け落ちして家を出て行った。父親はそのせいで鬱になって、宮殿とも呼ばれる住まいの金庫室の中で、大量の財産に囲まれて自殺した。
母親は、僕のことを何とも思っていなかったと思う。話しかけても、見向きもされなかった。多分、父親のことも対して愛してはいなかったのだろう。
父親は、鬱になる前までは優しかった。
でも。
鬱になった後の父親は、前の面影をひとかけらも感じられなかった。同じ人物とは思えない。自殺するまでの数ヶ月、八つ当たりされるだけだった。殴られて、蹴られて、アザだらけになりながらも、子供心からか、自殺されるまで父親のそばにいた。
今思うと、子供の時の自分は何て健気で無垢だったんだろうと思う。
「俺は金に感謝をしていない。望んで金持ちになったわけじゃない。だが、お前は金持ちであれば幸せになれる。安心して暮らせ。」
自殺する直前、父親が僕に言った最後の言葉はそれだった。
なんだそれ。
両親が居なくても、金があれば幸せ?
それが自分の親の口から出てきたという事実に幻滅する。
そんな、子供の頃から世界に絶望していた自分を救ってくれた、世界は希望に満ちていると教えてくれた彼。
僕の、命の恩人。
英雄、エクス・アルビオ。
私は今でもはっきりと覚えている。
若い英雄と、子供の石油王だった僕が、
出会った日のこと。
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とりま110いいねしときました 続き待ってます