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瞼を開くと、その眩しさに目を細める。
ゆっくりと起き上がり、見えた窓の外は真っ白っだった。
…雪だ。
僕はどれくらい眠っていたんだろう。
段々と意識が覚醒する。
「…生きて、たんだ」
その事実に、僕は喜ぶ事が出来なかった。
もう一度窓の外へ目を向ける。
暖房の効いたこの病室には寒さは感じないが、窓の外の冷たい雪のように、僕の心も酷く冷えきっているような気がした。
「…みんな、ごめん」
胸を抑える。
溢れ出る感情を、胸の中に収めるとこができなかった。
「…っ、ぁ、う…」
痛くて、苦しい。
膝に顔を埋める。
溢れ出る涙は、止まらなかった。
空はオレンジ色に染まっており、もうこんな時間なんだと僕はそっと息をつく。
下を向くと、服が血だらけだと言う事に気がついた。この服を染める赤は、全て僕のものではない。ほとんどが結月の血だろう。
「結月……」
結月は満月の夜、僕を殺してくれると言った。でもそれは果たされる事はなかった。
結月を殺したのは僕で、京介だ。
先程のことを思い出す。
京介、なんか変だったな。
いつも、僕には京介が何を考えているのか分からなかった。
本当に、京介は僕の事が好きだという単純な気持ちで動いていたのだろうか。
京介は、結月のことを知っていた。
もし、蓮やハルが死んだことに京介が関わっていたのだとしたら。
空を見上げる。夕日が一段と赤く染まっていた。
京介を疑うにしても、僕は今まで沢山京介に助けられてきたじゃないか。
それに、今更……。
「…遅すぎるよ」
今日は色んな事があった。また、目の前で人が死んだ。
それなのに、何故か僕は落ち着いていた。
この事件が落ち着いたら、京介と話をしよう。京介には聞きたい事、話したいことが沢山ある。
ドンッ
爆発音と共に、衝撃が走る。
熱烈な風圧に尻もちをついてしまった。
「……痛た」
何が起こったんだろう。
顔を上げ、見えた光景に僕は唖然とした。
炎。
先程までいた建物が燃え上がっている。
「…え」
息を呑む。
まだ中には京介がいるはずだ。
僕は倉庫の入口に駆けた。
中には大量の木箱があったのだ。炎が激しく燃え上がっている。
「京介!!」
大声で名前を呼ぶ。
でも、京介の姿はどこにも無かった。それでも僕は炎の海へと足を運ぶ。
「っは……はぁ、は」
段々と呼吸が乱れ、意識が遠のいていく。
「…嫌だ、こんな、の…嘘、だ」
ぐにゃりと視界が歪む。
それでも僕は奥へと手を伸ばした。
ぼんやりと人の姿が見えた気がした途端、意識が途切れた。
夢を見た。
そこには、みんなが居た。
何を話したかは覚えていないが、皆楽しそうだった。
でも、一瞬で視界が真っ赤に染まった。
まってと言っても、僕を置いて行ってしまった。
ねえ、お願いだから、僕を1人にしないでよ。
手を伸ばしても、そこには目に見えない壁で阻まれていた。
僕は1人、その場にへたり込む。
1人。
本当はずっと、寂しかったんだ。
誰でもいいから、傍にいて欲しかった。
それだけなのに。
僕は暗い部屋で泣いていた。
毎日、毎日、僕は1人だった。
お母さんは帰って来ない。
お父さんは居ない。
閉じこもっていた僕のドアを叩いたのは結月だった。
確かに、狂気じみた結月は怖かった。
でも、少しだけ、1人じゃないことが嬉しかったんだ。
前を向けば、僕に手を差し伸べてくれる人がいた。
ハルのお母さんだ。
ハルのお母さんは、僕のことを本気で心配してくれて、僕の居場所を作ってくれた。
本当のお母さんのように接してくれた。
だから僕はそんな彼女を慕っていた。
でも、居なくなった。
京介は、いつも僕の事を助けてくれるけど、いつも距離を感じた。だから、何で僕の傍に居てくれるのか分からなかった。
蓮は、なんとなく僕に似ていると思った。蓮も、本当は僕と同じように、誰かを求めているのではないかと。だから僕は、蓮を想うようになったんだ。
もう、2人は居ない。
何も見えない。
真っ暗だ。
でもこれが、僕の心なんだろう。
僕には何もなかった。
僕は誰かを不幸にしてしまう。
お母さんはいつも、僕に居なくなった父親の姿を並べている。
悠己、という名前だって僕のものじゃない。
僕が生まれる前に亡くなった、お母さんの大切な人のもの。
もし、全てをやり直せるのなら、僕は。
「ゆき」
誰かの声に、顔を上げる。
暗くて見えないが、確かに誰かが僕に手を差し伸べていた。
その手に、縋りたかった。
助けてと、1人は嫌だと、言いたかった。
でも、それができないのが僕だった。
人の影が消える。
さっきのはただの幻想だったのだろうか。
「ゆ、き……馬鹿、かよ…せっかく、……のに」
ジジッ
「…ごめん、な…ゆき、…生きて、くれ」
ズザッ
途切れ途切れに聞こえた、掠れた声。
ああ。
僕は生かされたんだ。
暗闇が崩壊する。僕は奈落へと落ちて行く。
伸ばすのを諦めた手を、誰が掴んだ。
やっと分かった。
僕は何も知らないだけだったんだ。