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夕暮れの帰り道、部活終わりの風はまだ少し冷たかった。
「滉斗、今日も来てたんだ」
振り返ると、少し息を弾ませた和葉が立っていた。制服姿のまま、まだ幼さの残る顔で笑っている。
若井滉斗は軽く手を挙げた。
「おう。たまたま近く通ったから」
本当は“たまたま”なんかじゃない。和葉の部活が終わる時間に合わせて来ているなんて、絶対に言えなかった。
「そっか」
和葉は嬉しそうに隣に並ぶ。
二人の間には、昔と変わらない空気が流れていた。小さい頃からずっと一緒で、家族みたいで——でも、今はそれだけじゃない何かが確かにある。
「背、また伸びた?」
滉斗が何気なく言うと、和葉は少しだけ頬を膨らませた。
「子ども扱いしないでよ」
「いや、してねえよ」
そう言いながらも、どこか困ったように笑う。
13歳と29歳。その差は、どうしたって埋まらない現実としてそこにある。
会話が少し途切れる。
靴音だけが静かに響く帰り道。
(言えないよな、こんなの)
滉斗は視線を前に向けたまま思う。
好きだなんて、言えるはずがない。守るべき距離があることくらい、ちゃんとわかっている。