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「…ここ、は」
ノボリが目を開けると、
コンクリートで出来た建物の中。
久々に見たが、よく見慣れた壁と線路。
ギアステーションだとノボリはすぐ理解した。
「無事に帰れたようですね」
そうノボリが呟くと同時に、
後ろでコツン、と何かが落ちる音がした。
ノボリが何だと後ろを振り向くと、
ボールを落として固まるトウコの姿が。
前見た時よりも服装も容姿も大人びている。
『……』
「…トウコ様?」
固まって動かないトウコにノボリが少し近づくと、
トウコはいきなりタックルしてきた。
「おごふッ!?」
そのままタックルの勢いで
トウコと共にノボリは倒れる。
衝撃でノボリが声をあげるとトウコは叫んだ。
『ノボリさん!?本物ですよね!!』
静かだったホームにトウコの声が響く。
『ずっと居なくなって……
ほんとに、死んじゃったかと……っ!!』
泣きながらすがりついてくるトウコに、
ノボリはそっと頭を撫でた。
「心配をおかけいたしました」
『ホントですよ!バカ!!』
すると、トウコの大声を聞きつけた数名の駅員もノボリの姿を見て戸惑いを隠せない。
あまりの衝撃に気絶しかけた人もいた。
『黒ボス!?!?本物!?』
「えぇ…色々とありまして」
『どこ行ってたんですかぁ!!』
『おかえりなさい黒ボス〜〜!!』
『服どうしたんですかそれ!?』
ノボリに次々としがみついたり、
泣きついたりしてくる駅員たちとトウコを見て、
帰ってきたんだとノボリは実感する。
そして、ふと思い出し叫ぶ。
「…クダリ、クダリはどこですか!?」
ノボリがそう言うと、皆は急に顔を暗くする。
「…?」
ノボリが疑問に思うと、トウコが
『実は…クダリさんは』
と言いかけた時、
『あっ!!白ボスが来て…!』
駅員の一人がホームの少し遠くを見て言った。
ノボリはすぐ駆け出そうとしたが、
トウコがノボリの腕を引っ張って柱の影に隠れる。
『…ノボリさん!1回隠れててください!!』
「はい!?」
戸惑うノボリは大声を上げそうになったが、
トウコはノボリの口を塞ぐ。
『いいから!
クダリさんの様子を1回見ててください!』
ノボリは柱の影からこっそり顔を出して様子をうかがう。
そこにはあの白いコートの後ろ姿。
声を上げそうになるのを必死に堪え、
駅員達との会話を聞く。
『白ボス!ノボリさんが帰ってきたんですよ!!』
『…だから、ノボリって誰?』
その言葉にノボリは驚きを隠せなかった。
声を上げるのをガマンしトウコを見ると、
辛そうな顔をして下を向く。
ノボリは取り敢えずまた様子をうかがう事に。
『だから!白ボスが前…』
『ねぇ』
『ボスはぼく。一人だけ。
なんで“白”ってつけるの?』
『…』
顔が見えなくてもわかる、クダリの威圧感と闇。
ノボリも遠くで見ていたが、つい息をのんだ。
言葉を詰まらせる駅員に、クダリは言った。
『”ぼく”は一人でいい。
今までも、これからも』