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いつも通りの朝だった

いつも通りの朝食に、いつも通りの言い合い、いつも通りの出勤時間。そしていつも通りのオフィス街。ただ、いつもより天候に恵まれていて、少しの間目を瞑って歩いてしまうくらいには、気分が良かった。アスファルトを軽く掠める足取りで、細かい街の音までよく耳に届いていた。


果たして、そこまで長い間目を瞑っていただろうか


記憶の最後にあるのは桜の描かれたマンホール。意識が追いつく前に、三人で執務室の前に立ち尽くしていた。


「なにしてんの。開けねぇの?」


左から降ってきたデンジの声でふと我に帰る。デンジの肩に寄り掛かるパワーと、二人分の視線が俺に集中していた。


「いや…今声かける。大人しくしてろよ」

「まかせとけって」


右手でブイサインをつくりながら、分かりやすいドヤ顔で返事をしてくる。それを適当に聞き流し、木製の扉を軽く三回ノックした。


「早川です」

「入って良いよ」


聞き慣れた耳馴染みの良い声が、扉の向こうから承諾の意を示す。建て付けは良いはずだが、扉の金具が耳に障る音を立て、言いようのない嫌な空気が胸に残った。

三人で歩を進め、恩人兼上司と正対する。 何事にも前のめりなパワーが、俺たちから一歩下がった位置に居るのは、今目の前にいるのがマキマさんだからだろう。


いつもと同じ少し堅い朝の挨拶を交わした後、マキマさんが手を組んだまま「本題です」と話し始めた。


「今日はデンジくんと早川くんの2人で、悪魔討伐に行ってもらいます」

「あぇ?じゃ、パワ子は?」


「パワーちゃんはね。この間デンジくんが入院中に、一人で任務に行ってもらった時のお転婆が、少し目立ってしまったので…今日は私と二人きりで書類地獄です」


またこいつは…

喉まで出かかった憤りが自ら引いていく。もう何を言っても今更だ。苦言を呈さざるを得ない状況だが、呆れの方が大きい。ここはマキマさんに任せるのが正解だろう。


「仕事行かずにマキマさんと二人とか、ご褒美じゃねぇか」


全く同意見だが、パワーにとっては、充分罰に値するのだろう。


「い、嫌じゃ。デンジがやったんじゃ、ワシなんもやっとらんもん」

「いや俺行ってねぇし」


縋り付いてる割には、デンジに責任をなすり付けようとする。幼児でも分かるような嘘を重ねるのも、いつまでも治らないらしい。

心の内で小さく溜息をこぼした。


「それなら俺が天使のヤツと行きますよ。デンジは休みにでも…」


最近、デンジなりに頑張っているのが目に見えて分かるようになってきた。だが、それに比例するように、四肢が別で運ばれてきたり、目も頭もイカれた状態で戻ってきたりすることが増えた。デンジの有様は、どんどん酷くなってきている。

死なないとしても大怪我は大怪我だ。

正直、これ以上は俺の身も心も持たない。


肉体的にも精神的にも強くなれば、その分任される仕事も重くなる。デンジのことを信頼していないわけじゃない。何より、コイツが自己研鑽に励んでいる事は誰より分かっているつもりだ。それでも、悪魔の底知れなさを甘く見る気にはなれなかった。


連日、ボロボロになって帰ってきてるのだ。

『少しくらい休ませてやっても』と思ってしまうのは、俺が随分とコイツらに絆されてしまっているからだろう。



「本当はそうしたいんだけどね。今日一日、天使くんには、別件で私からの用事を引き受けてもらってるんだ」


俺の提案も虚しく、空気が喉を掠めるような緊張感を、俺はまた味わわなければいけないのかもしれない。


「そんじゃやっぱし俺と早パイで行くしかねぇな」

「…だな」


頭の後ろで手を組むデンジは、やむを得ないというような顔で言う。その仕草が、妙に目について、視線を逸らさずにはいられなかった。

いつもの任務より、どうにも気が進まないが…


「いってらっしゃい」


マキマさんに見送られ、救いを求めてくるパワーを背に、俺とデンジは執務室を後にした。






お前がお前じゃなくなっても

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