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篠原琴音 新幹線下車後、徒歩道中にて
「う、うげぇえ…」
気分が悪い、今にもやつが消化器官を逆流しそうである。
「こんなに気分が悪くなることがわかっていたのなら、私が運転してここまで来ればよかったですね。」
2時間も新幹線の中に閉じ込められるなんて、きいてなかった。今度から成瀬さんに行き方を尋ねるの、やめよう。
「にしても、本当にこんなところで私を匿えるようなところはあるのでしょうか。」
ここは本部から少し北上したところにある、近郊都市である。成瀬さん曰く、この地域に私が今日赴くであろう目的地、「プロテクテッド•インフラストラクチャー」があるという。
「街並みに関しては至ってシンプルな構成で、とてもインフラの領土があるとは思えませんが…
まぁでも、本部もいかにも平穏そうな大都会の中心に存在しますし、なんとも言えないですかね。」
実際にこんな平穏そうな街に、大きな基地みたいなのがあると考えると、少し怖い。
「でもなんだか今の私は、いつもの私よりもワクワクしてます!」
私は今の今まで、インフラ本部を離れたことはなかった。任務で遠出することはあれど、それも数日で終了するような任務ばかりだった。だからこそ、いつもとは異なる長期間の遠出、いや移住は、初めてであり私にとってはかなり新鮮なものなのである。だからこそ、いつもの街並みとは違うところを見ると心が躍るのは当然だろう。見たところ、風景自体の視覚的に感知できるようなものには、都会と比べてあまり違いはないように感じられる。しかしながら、都会と比べたこの街に漂う雰囲気が違う。例として分かりやすいのが、音だろう。鳥の囀り、人の話し声、車のエンジン音などが特徴的だ。
そんなことを考えていると、いつの間にか、吐き気が治っていた。そろそろ酔いが覚めたのだろうか。
「次乗るときは酔い止め服用確定ですね、トホホ。」
私はスマホを確認しながら、目的地への歩を進める。
「まだまだ付かないですね、遠過ぎます。」
新幹線を経由してこれとか、遠すぎる。どんなところに基地を置いてるんだよとツッコミたくなるような遠さだ。
それにこの街を見て浮かれるのはいいが、一応いらない街。いつどこで成瀬さんが言っていた奴らに狙われているかわからない。そのために小さい銃と小型の携帯型ナイフくらいは装備してある。戦闘準備はぼちぼちOKである。しかし、いつもの銃とナイフではないから少し使い勝手が悪い。成瀬さんは武器についた私の指紋を変更次第、すぐに送ってくれると言っていたけど…いつになるんだろう。
「うーん、早急に送ってもらいたいですね。」
今の私のキャリーケースには、必要最低限の用品しか入っていない。身軽ではある反面、少し不安だ。
そんなことを思いながら、歩いているとあまり人気のない住宅街に入った。
「深夜とかだったら、絶対に立ち入りたくない場所ですね。」
私はスマホのメモにこの場所をチェックしておいた。決して怖いわけではない、この場所での拉致などを危惧した立派な防犯行為である。まぁ、超絶ビビりではあるけれども…。
「一人は勘弁、一人は勘弁ですぅうう。」
私は颯爽と早足でこの住宅街を抜けようとした。
しかし私は早足の途中で見過ごせないようなことを聞いてしまった。
「なぁ、兄ちゃん、出されへんようならこのままその小指でもいいんやでぇ?」
「今、確かにこっちから?」
その声は人目のつかない路地裏の方からする。天は私に味方をしなかったようだ。
問題が発生した以上出向くのがインフラ生、篠原琴音である。
だから私はその方向へと突き進むのであった。
篠原琴音 路地裏にて
私は物陰に隠れながら、声がした方を慎重に確認する。やはり、ただの揉め事ではないようだ。見過ごせるわけない、か..。
「明日までには必ず返しますから、それまでどうか見逃してくれませんでしょうか?」
「ダメだ、一体お前がどれほどの罪を重ねていると思ってる?俺はそろそろ頭にきているんでなぁ。」
「暴力行為を行なっているのは3人、被害者を受けているのは1人。3人側のうち、銃を持っているのは1人、刃物は2人、それで、被害者側は無抵抗ってところですかね。」
私は小声で呟く。
OK、大体状況は掴めた、私なら制圧可能だろう。
なら、やるしかない、か。
「せめて殺さないでぇ、命だけはどうか助けてくださいぃ。」
基本的に私は人を撃たない主義だ。銃を構えると、あの映像が脳内でフラッシュバックして鮮明に蘇る。結果的に、吐き気が発生してしまう、トラウマだ。おまけに身体能力も一段階下がり、体が重く感じる。加えて、鮮血はあまり好きじゃない。
「はぁ、もうお前いいよ。俺らは最後のチャンスをお前にくれてやったのによお。結局、何も返さないで自分1人は必死の命乞い。」
「お願い助けて、助けてくださいぃ。」
だが、今にも死にそうな人を助けるのがそこにはいる。引き金を引かなくてはどうする?この人は放っておけば必ず死ぬ。
私は装備していた銃を両手で構えた。この銃は正真正銘の実弾入り。闇市場で多く出回っているからよく殺人事件の道具として用いられることが珍しくない。
撃たなきゃ、人が死ぬ。私が撃たないと、この人は助からない、私が殺したみたいなもんだ。それでは、アルファ生の名が腐る。
だが、殺す必要はない。あくまで場を牽制するための手段として、相手の急所以外を打ち抜けばいい。
ただ、それだけなんだ!
「ほんじゃあ、おつかれい。あっけない人生だったな。グッドバーイ。」
相手は銃のレバーを引く。いつでも発泡可能。
「撃たなきゃ、撃たなきゃダメだ。」
私の心臓の鼓動があり得ないぐらい早い。
私もレバーを引く。あとは引き金を引くだけ。
しかし、私が引き金をひこうとした瞬間耳元から誰かの声がした。
「手、震えてるよ?、後は私に任しといて。」
「アグッ、」
そう囁き、私の腹を蹴って私を現場から遠ざけた。私は少し飛ばされ、尻餅をついた。
蹴ったのは私と同じくらいか、それよりも少し幼いぐらいくらいの童顔の少女。服装を見る限りそこら辺の一般人といった感じだ。果たして一般人の少女にこの場をどうにかできるものであろうか?
ふと気づけば私の銃は奪われていた。
「バンッ」と鈍い音が辺りに響き渡る。
当然、3人組と被害者はこちらに注意が向く。
「全く、デルタ生の新人ちゃんがこんな物騒なものを人に向けないのぉ、ここはお姉ちゃんに任しておいてね?」
少女は軽くウィンクを私に見せた。
「っていうか、お姉ちゃん?!」
少女は私の驚きに何も反応せずに3人組に言った。
「こんな薄暗い路地裏にか弱い男性を連れ込んで殺人だなんて感心しないなぁ。」
「誰だお前?!」
3人組の方は状況に困惑して、訳がわからないと言ったご様子だった。
「まぁ、別に君らに名乗るほどの位はあまり高くはないけど、一応言っとくかぁ。というか、これってなんだかヒーローっぽくてカッコ良くない? 」
そして1泊をおいて少女は告げた。
「私の名前は、鴻 伊吹【ひしくい いぶき】、ただの通りすがりの一般人だよ。」
「相手はただのガキ1人だ、やっちまえぇ。」
3人組の男たちは刃物やら銃やらをこちらに向けて、襲いかかってくる。
「降参しなくて、いいんだね、私今言ったんだからね?もう知らないよ?」
「そっちこそ死んでも知らねぇぜ?」
男の1人が最初に少女に向かって刃物を振るう、見るからに容赦ない攻撃である。
しかしながら、少女は男の腕をいとも簡単に掴んで、男の体ごとひっくり返した。そして男から刃物を取り上げた。
「残念でしたぁ。ってことで、デルタ生こいつそっちに持っていっておいて?」
私が指示通りに動く。
「さてと、あともうちょい頑張りますかぁ。
残りの球は5発、ふふぅん、十分すぎるね。」
少女は笑顔を浮かべてそんなことを言った。
「舐めてんじゃねぇぞ、クソガキぃ!!」
もう1人のナイフ持ちが少女に襲い掛かる。
「ちょっとアンタは黙っといて。」
そう言って少女はその辺に落ちていた鉄パイプを前へ投げて、それを撃った。その反動でパイプは跳ね返りやがて走ってくる男の顔面に見事に直撃する。男は衝撃に耐えられるはずもなく、呆気なく倒れた。
「さぁ、あとはアンタだけだけど?」
少女は人差し指をクイクイっと回して、銃持ちの男に挑発した。
激昂した男は少女めがけて銃を打ちまくる。しかしそれは少女には当たらない。
「ごめんねぇ、それ当たらないんだわぁ。」
少女は他を蹴り、走り出した。そして路地の壁を使用しながら男との距離を詰めていく。
男が少女に向かって発砲する。だが、当たらない。
「小癪なぁ。」
「はいタッチで、私の勝ちぃ。」
男が次の弾を撃とうとした時、もう少女はその男の後ろにいて、それと同時に私の銃で男の首に強い衝撃を送り込んだ。男はそのまま倒れて、気を失った。
「ふぅ、一仕事終わったぁ。」
その戦いは一瞬の出来事であった。
私はあまりの情報の多さに困惑していた。
「なっ、なんですか、それは?」
私が声をかけるとやっと少女は私に気づいた。
「ああ、この辺のデルタ生かぁ。ちょっと嫌なもの見せちゃったみたいだね、あっ、でもインフラなら別にこれくらい大したことないか、アッハハ〜…」
そんな具合に、少女は微笑む。
「というか、大丈夫?私あなたのこと蹴っちゃったみたいだけど?」
「えっ、わ、はい、大丈夫です。私こそ、出来事に巻き込んでしまって申し訳ございませんでした。よかったら、何か奢らせてくれませんか?」
「えっ、いいのぉ?、やっさしいー。」
少女は大喜びしていた。あとは後始末だ。
私はうずくまる被害者の男性に話を聞いた。
どうやらこの男はあの男たちから裏のお金を借りていたらしい。初めは少額だったらしいが、日が連なるごとに多額の借金を返さなければならないようになったらしい。そしてあの状況、私と少女が駆けつけなかったら今頃、どうなっていたことやら。考えただけでも、冷や汗が出てくる。
その後、私と少女は警察を呼んで事情を説明した。私のインフラ生の制服を見たから故か、警察はあまり現場の追求はしてこなかった。それから、被害者の男性を警察に引き渡し、私と少女は2人で歩いていた。
篠原琴音•鴻伊吹 飲食店にて
「先程は、多大なるご迷惑をかけてしまって申し訳ございません。」
私は再度少女に頭を下げていた。
「別にいいよぉ、私も怪我とかしていないし。あの場面だったら、仕方ないよ。」
そういえばこの少女、私がインフラ生であることを知っているかの口ぶりだった。何か関係でもあるのだろうか?一般人にインフラの存在なんて知っているはずがないし…。なので私は少し尋ねることにした。
「あのー?」
「ん、なになに?」
「なぜ私がデルタ生であることを知っていたんですか?」
そんな問いに、少女は爆笑していた。
「プハハハ、そんなの制服見たからに決まってるじゃん?結構当たり前のことでしょ?」
やっぱりこの少女はインフラのことを知っている。それに加えてあの並ではない身体能力、一体何者だろうか?
本人は注文したパフェを美味しそうに食べている途中だ。呑気すぎる。
そんなことを考えていると、少女の方のスマホから着信音が鳴り響いた。
「ちょっと、失礼。」
そう言って、電話に出る。私は頼んだ烏龍茶を飲みながらその電話が終わるのを待とうとした。すると、
「おっ、成瀬さん、やほ?」
私は思わず烏龍茶を吹き出してしまった。
「うわっ、きったね〜。」
「どうした、大丈夫か?」
電話越しで、成瀬さんの声が聞こえる。何故だ?
「もうそっちに着く頃合いだと思ったんだが、まだそちらに到着していないのか?」
「そうなのぉ、全然見当たらないの。んで、どんな格好してんの?そのアルファ生とやらは?こっちには今目の前に、かわいいデルタ生しかいないんだけど?」
少女は私の顔を見て、少しニヤつく。私はこの状況から、もう察してしまった。
「伊吹?」
「ん、何?」
「大変言いにくいんだがな、その目の前にあるやつが例のアルファ生だ。」
「え、えええええええぇぇぇぇぇええええ!?!」
その瞬間、私の耳を突き抜けるような驚きの声が店中に広がった。
「へへへ、ども〜…………。」
私は失笑する他なかった。
「琴音?聞こえるか?、お前の目の前にいる奴が、今後お前の面倒を見てくれる鴻伊吹だ、せいぜい仲良くしてくれ、それじゃあ。」
それから、成瀬さんとの通話は途絶えた。
私と少女は顔を見合わせる。
「ああ、ちゃんと伝えてくれれば私はこの子にいいところ見せられたのにぃいい、成瀬さん、アンタ恨むぜぇい。」
「私も、あなたのような人が移住先の人とは知らずにあんな恥ずかしい真似をしてしまい、すいませんでした。」
「何回、謝るんだよぉ?、言葉は感謝の方が私的には嬉しいな。」
「それじゃあ、助けていただき、本当にありがとうございました、これからお世話になります!」
「Oh、いぇす、うえるかむとぅまいはうす。」
「なんで、そんなカタコトなんですか?」
「いや、なんでもないよ、気にしないで。」
そんなこんなで、私は見事移住先の人を見つけることができた。この人が成瀬さんが言っていた人、とてもかわいい。
やはり、他の地は胸の高鳴りが抑えられない。
それから私はかわいい少女こと、鴻伊吹と談笑を少しする。
まさかこの少女が、私と同じ年齢の人だなんて、可愛すぎる。考えたくもない。確かに身長に関しては同じぐらいだから、そう言われると違和感はないのかもしれない。しかしあの童顔、一言で言うなら、ヤバいのである。
私は心中でそのようなことを考えるのであった。
【Encounters come in unexpected places.】
=【出会いは、思いがけないところで訪れる。】