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「あっ」
俺を探してたのであろう、見つけた瞬間むっとした顔をした。
「……ヒョンまたタバコ吸ってる」
バレたか、と思いながら煙をふかす。
バックダンサーとしての仕事が定期的に入るようになり、俺たちのデビューももうすぐかというころ、俺は先輩からもらった1本のタバコの影響で喫煙するようになった。最初は煙たかったそれもいまや疲れると吸いたくなるほど。年齢はもう20歳をこえてるし、ちゃんと設けられた喫煙スペースでしか吸わない。本数だって多くない。のに、ジヨンは毎回嫌な顔をする。
「……別にいいだろ」
ジヨンがぷくっと頬を膨らませた。怒ってるのだろうが全然怖くないしむしろ可愛いまである。
「……ヒョンには、」
「…うん?」
「ヒョンには、長生きしてほしい。俺とずっといるために……だから、なるべく吸わないでよ」
悲しい声で言われ思わず心臓が跳ねた。そんなこと言われたら、どうしていいかわからなくなる。
最近そうだ。ジヨンといると楽しくて、隣にいることが当たり前なのに、ほんとたまに……心の奥がむずむずして混乱する。
「………わかった、気をつける」
「…あと、タバコのせいでヒョンの匂いが消えちゃうから嫌」
「……は?」
固まる。俺の匂い?
「俺の匂いってなんだよ」
「んー…上手く表現できないけど、干したての布団みたいな、お日様みたいな、とりあえず落ち着くなーって匂い」
「……ぷっ、なんだそれ」
肩を揺らして笑う俺の手から吸いかけのタバコを取り上げると、彼はそれを咥えた。
「ぁっ…おま、」
「ぅ゛…ごほっ、ゲボッ…!」
そりゃそんな思いきり吸ったら噎せる。ましてや吸ったことがないジヨンが。初めて吸ったときの俺と全く同じで笑いそうになった。
「ぅ〜まっず…これのなにがいいわけ?」
「……お前はまだおこちゃまだからな」
「はあ?1歳しか変わらないじゃん!」
そうやってムキになるところだよ、と言ったらさらに怒りそうだからやめた。歌詞を書いてるときはあんなに大人びて全く違う雰囲気を纏うのに、本当に同じ人間か?と思うほど。
ジヨンはタバコを灰皿に押し付けると、飛びつくように抱きついてきた。
「わっ」
年齢が上がると共に、互いに背も伸びた。未だに俺の方が高いし体格もいいけど、あんなに細かった彼の腕や脚にもしなやかな筋肉がつき、広い肩幅がたくましくなった。そんな彼に勢いよく抱きつかれるとまるで大型犬に突進されたかのような衝撃が走る。痛くはない。が、その変化がわかるほど俺たちは同じ時を過ごしてきたのかと思い知らされて、なんだかたまらない気持ちになるのだ。
「む〜〜」
「ちょ、なんだよ…っ」
ぐりぐりと頭を押し寄せてくる。ぎゅうぎゅう抱きついてくる腕が力強い。
「俺の匂い、つけてる。タバコの匂いが消えるように」
「……なんだよそれ、それじゃあ俺の匂いもお前のになっちゃうけどいいの?」
言ってから、なに言ってんだろと思った。なんだか今更ながらに恥ずかしくて、項のあたりがそわそわする。
「……それでいい。むしろ、それがいい」
「っ、」
呟くように言われた。とくとくと速まる心臓がうるさい。
俺を呼ぶ声で意識が浮上していく。だんだんと鮮明になる頭、反して身体はそれを拒絶していた。
「ヒョン〜いい加減起きてよ〜〜」
ゆさゆさと揺すられて思わず布団を頭まで被る。眠さが俺を離してくれない、から起きれない。仕方ない。俺は悪くない…!
「スンヒョンヒョン〜〜っ」
バンバンと布団の上から叩かれる。無理やり剥がそうとしてくるのを俺も力ずくで抵抗した。
「んん゛〜〜〜…」
「んーじゃない!もう朝!起きて!」
「…………ぃゃ」
「わがまま言わない!遅刻するよ!」
「……あと、5分…」
「そう言いながら起きないでしょ毎回!」
「むり…むり」
「も〜〜ほんとヒョンは朝弱いんだから〜」
そう、俺は朝に滅法弱い。寝起きがすこぶる悪い。どんなに早く寝ようが疲れていまいが、朝起きるのが本当に苦手だった。このときばかりは毎回ジヨンの方が兄のような言動になる。ぐずる俺を叩き起すのも大変だろう。わかってる。わかってはいる、けど、起きれない。
「ほら、早く起きて?身体起こす!」
「んぅ……」
「もーー……起きないなら…」
「………?」
ジヨンはそこで言葉を区切ると、ガバッと布団ごと俺を抱きしめた。
「………………ちゅーしちゃうよ」
「っ!?」
思わず跳ね起きる。急に明るくなった視界に瞬きをしながら、起きた勢いで払われた腕を広げこちらを見るジヨンと目があった。
「は…ぇ、今……なんて、?」
震えて掠れた声が出る。散々俺を離してくれなかった眠気は一瞬でどこかへ飛んで行った。
彼はしばらく黙ったあと、腕を下ろしながらそっと目を伏せた。なんだかその顔が妙に大人びて、心臓が痛いくらい忙しなくなる。顔があっつい。だって、だって。
「…………………冗談だよ、早く起きて」
「……」
冗談なら、もっと冗談ぽく言えよ。そんな小さな声で言わないでさ。なんだよそれ。今更だけど、俺たちってちょっと変じゃないか?だって普通、成人した男がぎゅうぎゅう抱きしめ合ったりするか?
ましてや、キスなんて、そんなこと。
『2人って付き合ってるんですか?』
いつか言われた言葉が蘇る。
なあ、俺たちってなんなの。お前、俺のことどう思ってるの。友達で、仲間で、ライバル?本当に、それだけ?
俺はもう一度ベッドに身体を伏せた。「あっ」と声を上げるジヨンの手首を、手を伸ばして徐に掴む。
「……ヒョン、?」
「…………まだ寝てる」
「……起きてるじゃん」
「…寝てる」
「…………」
「…いい、のかよ……まだ……寝てるんだぞ、俺」
無意識にきゅっと指先に力が入った。自分でもなに言ってるのかわからなかった。顔だけじゃなくて頭も身体も全部熱い。ドキドキと心臓がうるさくて仕方ない。ちらっと見えた彼の顔も真っ赤だった。
「…………ヒョン、」
彼の顔がゆっくり近づいてくる。いつの間にか左手首を掴んでいる俺の手の甲に、彼の右手が重なっていた。近くで見てもジヨンの肌はキメが細かくて綺麗だった。毛穴なんてないのかと思うくらい。
「…じよ、ん」
その名前をかき消すように、ふにっと唇が触れ合う。柔らかくて、ちょっとカサついていた。反射的にビクッと身体が跳ねる、でもそのあとすぐに全身の力が抜けた気がした。
それは一瞬だったと思う。でも永遠のようにも感じた。ゆっくりと離れていく唇を目で追いながら、無意識に止めていた息を吐き出した。
「……………トイレ行ってくる」
「………おう」
パッと手が離れ、ジヨンがそそくさと歩き出した。遠くなっていく背中をぼんやりと見つめながら、そっと自分の唇を指先でなぞる。そこにはいつまでも彼の熱が残っている気がして、そのことが余計に恥ずかしかった。
「……」
恥ずかしいのに、嫌じゃない、なんて。
どうかしてる。
結局あのあと、トイレから戻ってきたジヨンはいつも通りに戻っていた。早く起きてと俺をグイグイ引っ張りながら支度をする。なにか俺たちの中で変わっちゃうんじゃないかとか、気まずくなっちゃうんじゃないかとか、一瞬でも考えていた俺が馬鹿だったみたいに。俺たちはなにも変わらなかった。
(…………じゃあ、)
どういう意味だったの、あの口付けは。
それは結局聞けなかった。
雑談。
本当はもっとデビューて若い頃からするんでしょうけど、どうしても合法的にタバコのシーンを入れたくて20歳オーバーに。ちなみに書き主は実際喫煙者です。
この世界線ではスクールの生徒で頑張っていると、事務所からスカウトがかかって契約・デビューに繋がっていくという流れです。素人で知識ゼロだから矛盾点たくさんです。ご容赦を🙏🏻