ガチャ。
「どうぞ。入って。」
「失礼します。」
着いて行った先はカルドの執務室だった。
「そこのソファに座って待っていてくれるかい?」
「はい。」
カルドに言われるままにオーターはソファに座った。
それを見届けてからカルドは執務室を出て行き、数十分後に戻って来た彼の手にはトレイがあり、その上には湯気がたったカップが二つとシロップが入った入れ物があった。
「カルド、それは?」
「ふふ。働き詰めの君にコーヒーを一杯ごちそうしようと思ってね。」
そう言いながらカルドはトレイをテーブルに置き、コーヒーの入ったカップをオーターの前に置いた。
「・・・わざわざ入れてきてくれたのですか?」
「うん。頑張り屋さんの君に一息入れてほしくてね。」
カルドがテーブルの向かい側にカップとシロップの入った入れ物を置き、向かい側のソファに座りながら言った。
「・・・・・・。」
彼のその気遣いにオーターは、胸が温かくなるのと同時に彼を避けていた事に対して申し訳なさを感じた。
「ありがとうございます。いただきます。」
「どうぞ。」
目の前に置かれたカップを持ち、オーターはコーヒーの香りを楽しんでからフーと息を吹きかけ一口飲んだ。
コク。
「どう?」
「美味しいです。」
「良かった!君にそう言ってもらえて嬉しいよ。僕も飲もう。」
嬉しそうにそう言いながらカルドもカップに手を・・・ではなく、シロップの入った入れ物を手に取りトポポポポポと大量のシロップを入れてからコーヒーを飲み出した。
「あの、カルド。シロップ入れすぎではないですか?」
「そう?美味しいよ。オーターも入れてみないかい?」
「遠慮しておきます。」
「えー、残念。」
露骨にガッカリして見せるカルドを見てオーターは、口元をほころばせクスッと笑った。
「(ボソ)可愛い。」
「何か言いましたか?」
「いや、何も。それよりせっかくこうして顔を合わせたんだ。君の話聞きたいな。」
「そう、ですね。・・・最近読んだ本の話でも良いですか?」
「いいね。聞かせて。」
「はい。」
それからオーターは、コーヒーを飲みながらカルドと話をした。オーターの話を聞いている間、カルドは驚いたり、笑ったり、楽しそうに聞いてくれていた。
(私は何を警戒していたのだろう。カルドは私の事を気遣ってコーヒーを入れてくれたり、今もこうして私の話を楽しそうに聞いてくれているというのに。)
しばらくぶりのカルドと過ごす穏やかな時間が、オーターの彼に対する警戒心を完全に消し去っていた。
ーオーターがカルドのもとを訪れてから30分後。
時計の針は午後4時を指していた。
「ああ、もうこんな時間でしたか。仕事に戻らなければ。」
「そうだね。」
どんな時でも仕事の事を忘れないオーターに苦笑するカルドだった。
「カルド。そろそろ。」
「うん。あまり無理しないようにね。」
「はい。コーヒーごちそうさまでした。いい息抜きになりました。」
「そう。それは良かった。君さえ良ければまたコーヒーごちそうするよ。」
「・・・・そうですね。機会があればまた。」
「うん。」
「では、私はこれで。」
「またね。」
ソファから立ち上がり、オーターは執務室のドアへと歩いて行きドアノブへと手をかけた。
ーーーと、その時。
「オーター、止まれ。」
「!?」
カルドの冷たい声が執務室内に響いた。
コメント
5件
やばい!!めっちゃゾクってきたー!!どんな展開か楽しみすぎる✨続きたのしみにしてます!!
前の話のコメントに新しい投稿があると書いてあったので早速読ませていただきました。 コーヒーを飲みながら楽しく雑談、と思ったら最後の場面!これからオーターの身に何が起こるのか、とても楽しみですね😆