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私は四限目が終わってエリアに声を掛けようと向かった。

だが、向かうのを止めた。

(エリアが今話している子は……誰だろうか)

なんだか見た事があるような顔つきだったが、忘れてしまった。

今日はエリアの家にお邪魔させていただく予定があるので待てば話し終えるだろう、と思い、バッグから本を取り出して読むことにした。


読み始めから七ページほど読み進めたころ、ルザネが「補習でもあるのっ?」と、覗き込んだので少々びっくりした。

「あ、いや……エリアを待っていただけだ」

「ふーん、何する予定だったの。エリア、もう帰っちゃったよ」

ルザネはそっぽを向いて「帰ろ」と言いつつ私のバッグを叩いた。

「そうか……帰ってしまったのか……。…私がエリアの家を見たいと我儘を言ってな。それで今日の放課後行く予定だったんだ」

進級と同時に買い替えて貰ったバッグはほんのりと獣の匂いがする。

ルザネは苦手と言っていたが私は少なくとも嫌いではない。

「そうなんだ。それは悲しかったね」

彼はまだそっぽを向いたまま。窓は青々とした空しか見えない。

「…怒っているのか? 私で良ければ聞くが」

「…別に怒ってないよ。ただ、三年の頃から変わってしまったなぁって、思っただけ」

悲しみも帯びた声。

私は、これ以上触れない方がいいかと思い、

「…そうか。そういえば、今日は早めに帰らなければいけないのだった。それじゃあ、また来週」

私は今日はこれ以上彼の顔を見たくなかった。

止まる足音を置いて学校を出た。


「…ただ今戻りました、ミュア」

玄関前で立っている私の執事に声を掛ける。

「お待ちしておりました、ジュプエ姫様。さぁ、中へお入りくださいませ」

初めて会った時よりも大分声が渋くなってしまったなぁ、と思う。

「本日の勉学はいかがでしたか?」

ミュアは、私の母が七年前に亡くなって新しい母になった時に以前の執事の代わりで来た者だ。

当時は六歳で、母が亡くなったこと以前の記憶がないから特段悲しいなどの感情はない。今は何をして生きているのだろう、程度。

「…普通ですわ」

私は新しい母が来る前は男勝りで、今のような嬢の口調は使っていなかった。

新しい母はそんな私を嫌い、いつしか兄が中央役員会委員長になった時に支えられる人格になるよう、望んでいるようだった。

「そうですか、それなら大丈夫ですね。今は天にいらっしゃるリゼア様も安心させられますね」

「…そうですわね」

束の間の沈黙の後、私の部屋に着くと「ではこれにて失礼させて頂きます」と頭を下げてミュアは去った。

私はパタリとドアを閉じた後、しばらくぼんやりと立っていた。

(ルザネは何に対して怒りを感じていたのだろう?)

私に話しかけた時は普段通りに元気だったのに私がエリアの話題を出した時に少し不機嫌になっていた。

(喧嘩……? だが、ルザネとエリアだけが話しているところは見たことがない……。何だろう)

くるりとドアに背を向け、自分の椅子に座る。

机にある燭台はミュアが灯してくれていたのか、既に半分ほど蝋が溶けていた。

「私が知らぬうちにルザネが嫌う話題を何か出していたのだろうか……」

…多分、それはありえないとは思う。

「思い当たる節と言えば……ルザネが『補習なの?』と聞いてきてそれを否定したことぐらいだろうか」

でも、それが真実とは限らない。

答えは、ルザネ本人しか知らないものだ。彼が教えてくれることがなければ答えは闇の中に埋もれているだけである。

「…しょうがない。今度聞くしかないな」

そう呟き、どのように聞き出すかを考えた。

明日、ルザネをカフェに誘ってスイーツを奢ってそれとなく聞いてみるか。あるいは、単刀直入に聞いてみるか。

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