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#オリジナル
モノクロナツキ
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「お前さ……そんな回りくどい事すんなよ」
俺は小さく息を吐き出しながら、照れ隠しにもとちゃんのつむじのあたりを軽く中指ではねた。
小学生みたいなこの行動で、俺が彼の「友達」やと言うことを思い出せなあかん。この胸のドキドキが「恋」やと勘違いを起こしてしまったらあかんから。
「え、こっちはめちゃくちゃ一大決心でバーバー田中に、お煎餅持って頭下げてきたのに!」
俺の攻撃が思いの外痛かったのか、もとちゃんはつむじをおさえながら必死で抵抗してくる。
「知るか。そんなことせんと、普通に『切って』って言えばええやん。……俺が、親友のお願い断るわけないやろ」
最後の言葉は、自分でも驚くくらい小さな声になった。
鏡越しに目が合う。もとちゃんは一瞬きょとんとした後、耳の赤さを隠すようにふいっと斜め下に顔を背けた。だけど、その口元が嬉そうに緩んでいるのを、俺は見逃さへんかった。
「……よし、動くなよ。どのチンピラにも負けへん位男前にしたるからな」
「おう。日本で1番男前のチンピラにしてくれ」
相変わらずのやりとりに、鏡越しに目を合わせて笑う。
ワゴンからハサミを抜き、クシで髪をすくい上げる。
金属が擦れ合う鋭い音が、店内に響き始めた。
一ヶ月前、こいつが残していった「俺は洸くんじゃないからな」という言葉。あの時、喉に引っかかって言えんかった言葉の答えが、今、ハサミを握る指先から形になっていくような気がした。
洸くんの代わりなんかじゃない。
洸くんとは又別の形で繋がった、唯一無二の親友や。
そんなこいつに、洸くんへの気持ちに似た執着心や独占欲は少なからずある。
髪を整えるたび、俺の指先がもとちゃんの髪や耳にそっと触れる。そのたびに、お互いちょっとだけ身体を硬くさせて、だけど視線だけは鏡の中でじっと重なり合っていた。
「──よし、できたで、鏡見てみ」
仕上げのドライヤーを止め、合わせ鏡を後ろにかざす。
襟足もサイドもすっきりと整えられ、もとちゃんの持つ少しワイルドな色気が、洗練された仕上がりになっていた。
これは……男前じゃない。イケメンや。この世にイケメンを又1人爆誕させてしまった。それがよりによってこいつだなんて。俺は俺の技術を呪ってやりたい。
「お……おお。すごいな、秀太。俺、ほんまにオシャレな人間みたいやん……」
鏡に映る自分を色んな角度から見つめながら、もとちゃんが本当に嬉しそうに目を輝かせる。
「当たり前や。誰が切ったと思っとんねん。……まぁ、田舎のチンピラから、都会のオシャレチンピラに格上げってとこかな」
「オシャレチンピラって何!?」
俺たちがいつもの調子で言い合っていると、隣から「すごーい!」とパチパチ拍手をする音が聞こえてきた。
「もとちゃん、めちゃくちゃ格好いい!モデルさんみたい!」
洸くんが自分のことのように嬉しそうな笑顔でもとちゃんを見てる。
「ほんまですね! 親分、オシャレしたら絶対かっこいいやろなとはってましたけど、髪だけでも垢抜けてめっちゃめちゃいいです!」
クロスを外してもらったばかりの新くんも、少し癖のある前髪をさらっと揺らしながら、ニコニコと悪戯っぽく笑って寄ってきた。
「ちょっと新くん、俺が普段ダサい、とでも言いたいんかな?」
「あはは、ごめんなさい!ダサいとはおもてなかったですけど、無難、やなとはおもてました」
「なぁ、秀太!新くんが遠回しにディスってくる!」
「まぁ洸くんの恋人やから。どうしても似てくるわな」
そう言いながら、見上げてくるもとちゃんと目があった途端、心臓がバクンとなった。こいつ、ほんまカッコ良すぎるんやけど。これがもとちゃんやなかったら、惚れてもうてたわ。危ない危ない。
「 でも、新くんも流石にカッコええわ。洸くん、ほんまカット上手いな」
マジマジと新くんの髪を見つめていると、洸くんがいつもの可愛い笑顔で「ありがとう」と首を傾げる。
ぐわぁ可愛い。なんで、この子は弟ながらこんなに可愛いんやろう。
そんな洸くんに、新くんもやられたらしく、胸を押さえて悶えてた。
「……好きすぎて抱きしめたいです」
「うわぁ、こんなとこでやめてよ、恥ずかしい」
新くんのストレートな言葉に、洸くんが分かりやすく耳まで真っ赤にして照れている。
そんな弟たちの甘い空間を横目に、もとちゃんはまだ少し気恥ずかしそうに自分の髪に触れていた。
「……なぁ、秀太。ほんまにありがとうな。めちゃくちゃ気に入ったわ」
洸くんたちが見守る中、もとちゃんが鏡越しではなく、真っ直ぐに俺の目を見て、柔らかく微笑んだ。
その真っ直ぐな視線に、俺の心臓がまた小さく跳ねる。
「……おう。又いつでも切ったるから。次は直接言うてこいよ」
この温かくて、楽しかった俺たちのプレオープン。
新店舗の賑やかな声に包まれながら、俺は「親友」としての彼が、自分にとってどれだけ特別な存在かということを、もう一度再確認した。