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休養命令が出たのは,突然だった。
「中野,三日休め。以上」
会議室を出た瞬間,中野は少しだけ目を丸くして,それから困ったように笑った。
「やってさ」
「当然でしょ」
私は書類をまとめながら,淡々と返す。
10日連続の徹夜。
倒れなかったのが奇跡みたいな勤務内容。
仕事モードの中野は,無理をする。
……だからこそ。
私は中野の見張り役を命じられた。
「…恵。」
「何よ」
「今日,予定ある?」
嫌な予感。
「あるって言ったら?」
「諦める」
「……まぁ別にないけど」
「ほら」
勝ち誇ったような笑い。
腹立つ。
結果,私は今,駅前に立っている。
休日。
私服。
隣には,中野。
「この状況,説明しなさい」
「看病兼リハビリ兼デート」
「最後」
「冗談」
即訂正。
でも目は笑っている。
仕事中とは違う空気。
肩の力が抜けていて,声も柔らかい。
「中野」
「ん?」
「その距離」
「近い?」
「…近すぎるわよ」
一歩離れると,すぐ詰めてくる。
「恵ってさ」
「なに」
「仕事中でも警戒心強すぎやろ」
「職業病」
「でも今」
視線が絡む。
「完全に油断してる」
「してない」
「してる」
断言。
近い。
近すぎる。
低くなる声。
仕事中のそれに近い。
「仕事以外の恵も,可愛いって話」
「……言い直しなさい」
「無理」
軽く笑って,歩き出す。
ずるい。
仕事中は鋭くて冷静なのに,
仕事以外になると距離の詰め方が一気に雑になる。
「なぁ…恵。」
「……?」
「今日はさ」
振り返って,少しだけ真面目な顔。
「警察官じゃなくてええ?」
「……一応」
「なら」
柔らかく笑う。
「ただの中野として,一緒におって」
胸が,少しだけ跳ねた。
理屈じゃない。
合理性でもない。
……これが,ギャップ。
私は小さく息を吐いて,前を向く。
「……三時間だけなら」
「短っ」
「延長は,態度次第」
中野は一瞬驚いて,
それから嬉しそうに笑った。
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