【 猫吸い 】
前回に引き続き両思い同棲輝茜。
珍しく茜くん視点
「ただいま…」
時刻は深夜2時半。がちゃり、と玄関の戸が開く音が家に響く。今しがた帰ってきた恋人は酷く疲れている声をしていて、ずるっ、べたん、と足を引きずりながら歩く音が聞こえてくる。べた、べた、べたんっ。足音がだんだん大きく近くなって、寝室の扉が思い切り開けられる。
「……あおい、おきてたんだ。」
「はい、なんだか寝付けなくて。」
「そう」
恋人…会長は眠いのか、あまり呂律が回っていない。本当に疲れてるんだな、目が虚ろだ。そんなことを考えていると、ふらっと会長の体が傾いて、僕のベットの上へ乗ってきた。一緒に寝ることそれ自体は構わないとして、風呂に入ってない人と一緒に寝たくはない。
「あの、会長。一緒に寝るならせめてシャワー…会長?」
……どうしてか、手を縛りつけられてしまった。怒ってる?疲れすぎて?理不尽にも程があるだろう。この状態からいくら逆らおうが抜け出せないことは知っているので、暴れることはやめて会長の方を見る。疲れてる人の顔、こっわ。
「……会長、せめて喋ってくれませんか?無言で来られるとさすがに怖、っウワーーッ!?!?」
きゅうにふくをめくられた。思いっきり。なんでなんだ、意味がわからない!!猫でも撫でるかのようにお腹を撫でられるのが妙にくすぐったいし、この間ずっと無表情なのが本当に怖い。なんなんだマジで。明日は仕事があるしこれ以上は無理なんですけど?もしこれ以上されそうになったら殴ろう。よし。
「…はぁぁあああ…っ、うぉっ、!?」
何?????会長の顔が僕の腹とほぼゼロ距離の場所にあるんだけど。息が当たってくすぐったいし、心做しか匂いを嗅がれているような。気持ち悪、セクハラか?やめて欲しい。
「……っひ、ぅ、…ちょっと!気持ち悪いですってば、」
吸われている。全力で。猫好きは猫を吸うと癒されると言うが、人間を吸って癒されるやつはいないだろう。……いや、本当になんか、やだなこれ。さっきから頭を押してやめろと何度も言っているのに、ピクリとも反応しない。この野郎。
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……いや、吸いすぎじゃない?かれこれ15分はこの状態なんですけど。そんなに吸ってどうすんだよ、手首痛いし。こんなん絶対明日跡になってるだろ。最悪だよまじで。
「いい加減にしてくださいっ、やり過ぎです!!離れろ〜〜〜~!!!」
そう粘ると、やっと会長の僕を吸う音が消えた。くすぐったかった、ほんとに……。
「会長、会長?」
「…………」
「…聞こえてます?」
「…………」
「おいもう1回やろうとするな馬鹿。自分のベット戻ってください、おい!!」
「………………………」
ぐい、と押しのけると眠そうな会長が頭にハテナを浮かべている。そして懲りずにもう1回倒れ込んでく。ぜんっぜん聞こえてないな、これ。意識が多分もうないんだ。疲れているとはいえとんだ迷惑だな。
「……あ〜もう!!しょうがない人ですね!!」
ぐいっ、と会長の胸ぐらを掴みこっちへ寄せる。まだ眠そうな顔だ。恋人の顔がこんなに近くにあるというのに平然としやがって。
「……っほら、起きてください。……輝さん」
ほら、名前まで呼んでやったんだぞ。先程と違い、会長は大きく目を見開いて、惚けた顔でこちらを見ている。起きたな。
「おはようございます。とっとと隣のベットへどうぞ」
反対方向へ寝返りをうつ。視界の端で、惚けた顔のままじわじわ顔が赤くなっていく会長が映っている。ははっ、ざまあみろ。
「蒼井」
「なんですか」
「もういっかいよんで」
「嫌です」
「おねがい」
「すぐに意識戻さなかった自分を恨むことですね。おやすみなさい」
ああ、いい気味だ。そう思って眠りにつこうとしたら、顔が茹でダコのようになってしまった会長に肩を上から押さえつけられた。いたい。
「なんですか会長」
「輝さんって呼んでよ」
「嫌ですよ。その前に自分がなにやったか覚えてないんですか。」
「そ、れはごめん。そうなんだけどさ、お願い蒼井」
「やです」
「蒼井が呼んでくれるまでどかない」
「厄介ですね」
面倒なことになってきた。仕方ない、最終手段だ。風呂入ってない人間と寝たくはないが、最悪明日の朝シャワー浴びればいいしな。
「ねえ、ねえってば蒼井。……っえ?」
「ほら、早く寝ましょう。おやすみなさい。」
会長の背に腕を回して。そのまま布団と一緒に会長を抱え込む。え、あ、なんて母音だけがうわ言のように会長の口から発せられる。心臓うるさ。寝らんないわこんなん。寝るけど。
「蒼井、あおい、おねがいはなして」
「ごめんってば、僕が悪かったから……寝た?うそでしょ?」
「このまま朝までお預けなの?ねえ、ちょっと蒼井?起きて、寝るの早いよ」
「…………ああもう、寝らんないよ、こんなの……」
おわり。みじかいね。