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「今日の課題は『魔法植物の発芽訓練』だ」
王立魔法学院の実習教室。教卓の横には、土の入った小さな鉢がずらりと並べられていた。
「この訓練用の種は、流し込まれた魔力の性質によって成長の仕方が変化する。名前を呼ばれた者から前へ出て、一鉢ずつ発芽させるように」
なるほど。課題の内容は分かった。
問題は――。
(魔力ゼロの私は、どうしろっていうのよ!!)
教卓脇に並ぶ鉢を見つめる。
(頑張れ、種! あなたならできる! って応援でもする!?)
現在、私の周囲には隙のない『完全包囲網』が敷かれていた。
右隣。
「ビビお姉さま♡」
キラキラした瞳で私を見つめるフローラ。
前。
「…………」
無言なのに、広い背中からものすごい圧を放っているアレク。
そして後ろ。
「バイオレッタ。今日も髪、綺麗だね」
「授業中に人の髪を触ろうとしないでくれる!?」
振り返って睨む。
「というか何度も言うけど、あなたの相手はフローラでしょ?」
(こないだだって『あの子を放っておけない』って言って、わざわざ女子寮まで来たくせに……)
(それなのに今日は、なんで私にちょっかいかけてくるのよ?)
(まさか――私を当て馬にして、フローラを嫉妬させる作戦!?)
(恋愛上級者って、そういうことするのね……!)
「あはは。つれないなあ」
(いやいや、近いって!)
(全員、距離が近すぎるのよ!!)
「では――レオン王子殿下から」
「はい」
レオンが優雅に席を立つ。教卓脇から鉢を一つ取り、教師の前へ置いた。
片手をかざす。
パァァァァッ!!
眩い黄金の光が、教室いっぱいに広がった。小さな芽が顔を出したかと思えば、ぐんぐんと茎を伸ばし――。
パァンッ!
美しい黄金色の薔薇が咲き誇った。
「きゃあっ!」
「素敵……!」
「さすがレオン王子殿下!」
女子生徒たちから黄色い歓声が上がる。
「まあ、こんなところかな」
レオンは涼しい顔で席へ戻った。
「次。ベルシュタイン公爵」
アレクが新しい鉢を教師の前へ置き、手をかざす。
ゴォッ!!
赤黒い闇の魔力が渦を巻いた。
「公爵! もっと弱く――」
ボッ!!
種は――燃えた。鉢から、ぷすぷすと黒煙が立ち上る。
「公爵! それは発芽ではなく『火葬』です! 教室が火の海になる前に、もう結構!」
「……加減が、分からん」
アレクがしょんぼりと肩を落とし、席へ戻ってきた。
「次。エミリア子爵令嬢」
「はいっ!」
フローラが元気よく立ち上がった。
(その次、私じゃない)
残された鉢へ視線を向ける。
(はあ……どうしよう)
「ねえ、バイオレッタ」
「ん?」
レオンが身を乗り出し、耳元で囁いた。
「困ってるならさ――僕と『魔力交換』しない?」
「…………は?」
『魔力交換』。
手を繋ぐなどして直接肌を触れ合わせ、相手の魔力を一時的に体内へ取り込む方法だ。
触れ合う範囲が広く、時間が長いほど、受け取れる魔力も増える。そのため普通は、恋人や夫婦――それくらい深く信頼している相手としか行わない。
(それを何で、そんな軽いノリで誘ってくるのよ!?)
十分な量を取り込めれば、一時的に提供者と同程度の魔法まで扱える。
つまり――。
(魔力ゼロの私でも、理論上は王族級の光魔法が使えるってこと?)
「簡単なやつなら、手を繋ぐだけでもいいんだよ?」
レオンがにっこり笑い、手を差し出す。
「僕の魔力、分けてあげる」
(だから距離感がバグってるって言ってるでしょうが!!)
「ほら」
指先が、私の手へ触れようとした――その瞬間。
バキィィィッ!!
「!?」
教室中に盛大な破壊音が響いた。
見ると。アレクの手の中で、筆記用のペンが真っ二つになっている。
「……アレク?」
「……事故だ」
(嘘つけ!!)
(手から赤黒い煙が出てますけど!?)
周囲の生徒たちが、ささっとアレクから距離を取った。
「バイオレッタがお前の魔力など借りる必要はない」
「へえ?」
レオンが笑顔のまま目を細める。
「君にそれを決める権利はないと思うけど?」
「ある。俺は婚約者だ」
「はいはい。形式上のね。決めるのは彼女でしょ?」
(授業中に喧嘩しない!!)
そんな男二人をよそに。
「先生」
教卓の前で、フローラがにっこり微笑んだ。
「始めてもよろしいですか?」
「あ、ああ」
フローラが鉢へ両手をかざし、私の方を向く。
「ビビお姉さま♡」
「なに?」
「お姉さまのために、世界で一番綺麗なお花を咲かせてみせますねっ!」
「楽しみにしてるわ!」
「はいっ!」
淡い緑色の光が、鉢を包む。ぽこん。小さな芽が顔を出し――。
ぱあっ!
美しい虹色の花を咲かせた。
「さすが飛び級の特待生だ!」
「なんて澄んだ精霊魔法……!」
教室中から歓声が上がる。
(さすが私の推し!!)
ところが。
「…………あれ?」
フローラが、不思議そうに自分の手を見つめた。花を包んでいた緑の光が――消えない。
それどころか。どんどん強くなっていく。
「エミリア子爵令嬢!」
教師の顔色が変わった。
「もう十分だ! 魔力を止めろ!」
「止めてます……!」
その瞬間。
ドゴォォォン!!
「きゃあああっ!?」
虹色の花が爆発するように巨大化した。太い蔓が教卓を飲み込み、そのまま天井まで駆け上がる。
ドカァンッ!!
「うわっ!?」
天井の一部を突き破った。
「……え?」
フローラが呆然と目を見開く。
「魔力が……止まらない……?」
シュルルルルルッ!!
数え切れない蔓が床を這い、壁を覆い、机を飲み込む。教室はあっという間に、巨大植物の蠢く密林へと変貌した。
「魔力暴走だ!!」
教師が叫ぶ。
「全員、退避しろ!!」
「きゃあああっ!」
「逃げろ!!」
生徒たちが一斉に出口へ殺到する。さらに――。
パカァッ……。
巨大化した虹色の花が、不気味に開いた。
花弁の奥には、牙のような鋭い棘がびっしりと並んでいる。
(人喰い植物ーーーっ!?)
「……お願い」
中心に立つフローラの声が震えた。
「止まって……!」
けれど。植物たちはさらに激しく暴れ始める。
「……完全に制御が外れてる」
レオンの表情から余裕が消えた。
「下がって」
黄金の光が、その手に集まる。
「……焼き払う」
アレクの周囲にも赤黒い闇の魔力が立ち上った。
「待て!!」
教師の声が響く。
「二人とも、魔法を使うな!」
「何?」
「どうして?」
「ここは魔法植物の実習教室だ!」
教師が青ざめた顔で周囲を見回す。
「魔力を含んだ種や薬草、培養土が大量にある! 今は暴走で魔力濃度も異常に高い! これ以上魔力を放てば、他の植物まで連鎖暴走しかねん!」
「……なるほどね」
レオンが眉を寄せる。
「下手に力を使えば、もっと酷くなるってことか」
「そうか……」
アレクの赤黒い魔力が、ぷすぷすと消えていく。
「……なら、どうすれば?」
教師が言葉を詰まらせた。誰にも答えがない。
その時。
「……来ないで……」
か細い声が聞こえた。暴れ狂う植物の中心で、フローラが、小さく震えていた。
***
『化け物』
幼い少女へ向けられる、怯えた目。
『あの子の力、気味が悪いわ』
『近づかないほうがいい』
家族も。友達も。自分の力を見た人間は、みんな離れていった。
***
「……っ」
フローラの瞳から、大粒の涙がこぼれる。
「誰も来ないで……!」
ズドンッ!!
彼女を守るように、巨大な蔓が床を叩いた。
「……近づかないで……!」
「フローラ」
私は躊躇なく、一歩前へ出た。
「おい、待て!」
アレクが血相を変える。
「下がれ! 危険だ!」
「そうだよ!」
レオンも声を荒らげた。
「さすがに無茶しすぎだよ!」
「大丈夫よ」
「何を根拠に――」
「見て」
ヒュンッ!!
大蛇のような太い蔓が、私へ一直線に襲いかかってきた。
「バイオレッタ!!」
そして――。
ピタッ……。
鼻先、わずか数センチ。凶暴な蔓はそこで止まり、私に触れることなく、ゆっくり横へ逸れていった。
「……ほらね」
「な……!?」
「さっきから、ずっとそうなのよ」
私は密林の奥で泣いているフローラを見つめた。
「あれだけ暴れてるのに、この植物たち――まだ誰も直接傷つけてないわ」
「…………!」
「それに――私には、明らかに攻撃を避けてる」
二人が息を呑む。
(フローラはパニックになりながらも――誰も傷つけたくないって思ってる)
だったら。
(落ち着かせなきゃいけないのは、植物じゃない)
(フローラのほうよ!)
「今行くわ!」
私は植物の森へ足を踏み入れた。
「来ないでください!」
迫ってくる蔓は、一本も私には触れない。まるで道を作るように、左右へ退いていく。
「フローラ」
名前を呼ぶ。それだけで、彼女を取り囲む蔓の動きがぴたりと止まった。私はそのまま、フローラの目の前まで辿り着く。
「……お姉さま」
顔を上げた彼女の瞳は、絶望と自己嫌悪に染まっていた。
「……怖くないんですか?」
「何が?」
「私……」
ぽろぽろと、涙が頬を伝う。
「お姉さままで傷つけてしまう……化け物かもしれないのに……」
「フローラ」
私は迷わず手を伸ばし、ふわふわの髪へそっと触れた。
「あなたが化け物なわけないでしょ」
優しく頭を撫でる。
「だって、――あなたの植物は、誰一人傷つけてないじゃない」
「……っ!」
「誰も傷つけたくないって、こんなに泣いてる子が」
私は微笑んだ。
「化け物なわけないわよ」
「お姉さま……」
「力が強すぎて、うまく扱えないことくらいあるわ。それに――」
教室を覆い尽くした植物を見回す。
「ここまで育てられるなんて、普通にすごいじゃない!」
「…………え?」
「ちょっと育ちすぎだけどね! 次から加減を覚えればいいのよ」
「……っ」
その瞬間――。ふわっ。
「……え?」
暴れ狂っていた蔓から、一気に力が抜けた。巨大な葉も、食虫植物も。すべてが淡い緑色の光へ変わっていく。
キラキラ。キラキラ。
無数の光の粒となって、空へ溶けていった。
「……お姉さまぁぁぁっ!!」
「わっ!?」
フローラが勢いよく私の胸へ飛び込んできた。
「怖かったです……!」
「うん」
「私も、自分の力が怖くて……っ」
「うん」
「お姉さまにまで嫌われてしまったら、私……もう……!」
「大丈夫よ、フローラ。あなたを嫌いになんてならないわ」
震える身体を抱きしめ、そっと背中を撫でた。
アレクとレオンは、呆然と私たちを見つめていた。
「……力では止められなかったものを」
アレクがぽつりと呟く。
「うん……」
レオンも苦笑する。
「これ、ちょっと反則じゃない?」
私の腕の中では――。
「ビビお姉さまぁ♡」
泣き腫らしたフローラが、世界で一番幸せそうな、最高に可愛い笑顔を浮かべていた。
世羅 鈴🎨🎤
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ひより
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#主人公最強
伊織
41
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百はな🍑
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