「漸く、平和になった!」
鬼も桃太郎も、恨み憎み歪み合う。
それを終わらせようと、前線で誰よりも戦闘を繰り返してその手を赤く染めてきた少年…いや青年がそう叫んだ。
東京のとあるビルの屋上に四季は1人で立っていた。ポケットに入れたスマホからは何件も、何十件もの通知が忙しなくなっている。
大方、ムダ先やチャラ先達からの連絡だろう。内容はー。
『どこにいる』
『どうして抜け出したのか』
とかだろう。
心配性だなぁ、ムダ先達。
まぁ確かに、監視がない瞬間に点滴ぶち抜いた挙句に、壁に掛けられていた俺の戦闘部隊の隊服をひったくって着替えて、抜け出した事は悪いけどさ…
長袖を着ていようとも、例え外が真夏だろうと体は寒さを訴えている。
少し粟立つ肌を慰めるかのように撫でながら、屋上の床へと倒れ込んだ。
太陽は眩しくて、細めた目には過去が浮かぶ。
どうせなら、親父にも見せてやりたかった。鬼も桃太郎も肩を取り合って平和に暮らせる世界を。平等で公平に幸せが分け与えられているこの世界を。
親父が望んだ世界を。
ゆっくりと重くなってきた瞼を落とせば、冷えていた体に少しづつ体温が戻ったのように思えた。
日が暖かいな、春のようだ…
再度開けた目に映ったのは一枚の桜の花弁。季節を間違えているぞ…と笑う四季の手に落ちたそれを四季はゆっくりと握った。
「おやじ…おれ、ちゃんと…できたかなぁ」
落ちてくる瞼に抗わずに、荒い息のまま誰もいない空間にそう呟いた。ふと風が吹き四季の髪を揺らがせた。
まるで大きな手で誰かが撫でてくれたかのように。
「…ふ…そ、っかぁ」
なら良かったと力無く呟いた四季は薄い呼吸をゆっくりと、穏やかに止めた。
苦痛も何もない、安らかな終わりを迎えた。
『良く、頑張ったな…バカ息子』
着信が僅かに聞こえている耳に、そんな哀しさを纏った強くて優しい…2度と聞けないんだと思っていた声がふと聞こえた。
「四季!!」
コンクリートの上で横たわっている四季が居た。ジャッと砂を巻き込んだローラーブレードの音が乾いた空に良く響いた気がする。
「四季が居た、練馬区のーーのーにある〇〇ビル屋上」
『チッ、手間かけさせやがって』
『今向かう!!』
『3分で行く』
『おう』
『わかりました、向かいます!』
『わかった』
電話越しに何人もが了解の声を出した、繋げていた電話を切って四季の首筋に手をふと当てた無蛇野は、分かっていた事だと自分に言い聞かせながら深く眉に皺をつけた。
「…完成させないんじゃなかったのか、四季」
寝ているほどに穏やかな顔で、悠久の睡眠を取る四季の柔い頬を撫でた。
数分も経たずに真澄、花魁坂達は屋上に着いた。
一滴の血を流す事も、苦痛に顔を歪める事もなく、今まさに目を開けておはようと言ってくれそうに彼は死んだ。
「なんで…1人で逝っちゃうのかな…四季君は」
哀愁を感じさせつつ眉を下げて笑顔を作る花魁坂。
「チッ…俺より先に死んでんじゃねーよ」
俯いたままで完璧と言えそうなポーカーフェイスに歪みを僅かに滲ませて呟く真澄。
「なんで…そんな穏やかな顔で逝っちゃうのかなぁ…」
四季の頬を撫でて酷く優しく笑う並木度。
「少年…それは、あまりにも…残酷だとは思わないか」
印南は口から溢れた血を拭う事もなく顔を歪めた。
「はえーんだよ、クソガキ」
風に揺れる前髪をそのままに猫崎が悲哀からくる悪態を溢す。
「バカ四季」
握り返すことが2度と無い冷たい手を握りしめて皇后崎は涙を一つ落とした。
ーー鬼神、一ノ瀬四季
享年23歳
すみません、孤独な鬼神の続きがちょっと体調不良で書けなくてボツBOXに入っていたこれで勘弁してください…
壊れた愛しい君は出せます…孤独な鬼神の続きは来週には多分出せるんで…
コメント
1件
四季ーー、めちゃむちゃ頑張ったやん!(´;ω;`) まじ感動🥲