テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「お邪魔します……じゃなくて、ただいま、ですね」
そう口にするだけで、心臓が口から飛び出しそう。
元貴さんの家の玄関をくぐり、自分の荷物が並んでいるのを見た瞬間、本当に「ここで生きていくんだ」という実感が押し寄せてきて。
あの日、スタジオの片隅で機材を見つめていた私が、今は元貴さんと一緒にキッチンに立っている。
「らんちゃん、味見して?」
差し出されたスプーン。少し照れながら口に含むと、温かくて優しい味がしました。
お返しに私も味見してもらうと、元貴さんが「世界一美味しい」なんて大げさに言うから、顔が熱くなってしまって。でも、そんな何気ないやり取りが、今までで一番幸せな時間だった。
お風呂上がり、リビングのソファに座っていると、元貴さんが当然のようにドライヤーを持って私の後ろに座った。
「乾かしてあげるって、言ったでしょ」
大きな手が私の髪に触れるたび、指先から元貴さんの体温が伝わってきて、さっきまでお風呂に入っていたのに、また別の熱が体にこもるような感覚。鏡越しに目が合うと、元貴さんの瞳がいつもよりずっと優しくて、とろけてしまいそう。
「……元貴さん、本当にいいんですか? 私、まだ見習いに毛が生えたようなスタッフなのに」
「いいんだよ。スタッフとしての君も、一人の女の子としての君も、僕が全部独占したいんだから」
ドライヤーの音が止まった静寂の中、元貴さんの腕が後ろから回ってきて、私はその広い背中に包まれた。
「おやすみ、らん」
額に柔らかな感触が残って、私は元貴さんの胸に顔を埋めた。
5年前、上野公園で「またね」と言ったあの日の寂しさが、今、この瞬間の幸福で全部上書きされていく。
明日からは、目が覚めたら隣に元貴さんがいる。
同じ家を出て、同じ現場に向かって、また同じ家に帰ってくる。
「おやすみなさい、元貴さん」
幸せすぎて眠るのがもったいないくらいだったけれど、元貴さんの腕の中があまりにも温かくて。私は、これ以上ない安心感に包まれながら、深い眠りに落ちていきました。
🌹はなみせ🍏
コメント
1件