テラーノベル
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研究所に爆発音が響く。だが誰も動じない、むしろ「あちゃー……」や「またやったあいつ」などとの呆れる声が多い。その中心でフラスコを持っていた女性は、唇を噛んだ後、指先をトントンと机に叩きつけていた。その行為を続け、待つこと六秒。彼女はかけていた保護眼鏡を外し、爆発音の元へ行くことにシフトした。もちろん止める者もいた。だがこの中で彼女を止めれるものなど、誰一人としていないのだ。それもそのはず、彼女はこの研究所の主なのだから。
「……『リネ』所長、行っちゃったな。」
「6秒待てただけマシでしょ」
「6秒待って怒りを押さえつけようとしたけど無理だったか……」
そんな会話が残された研究員たちの中であったらしい。
爆発音がした部屋にたどり着くまで、リネが時間をかけるわけもなかった。ここは彼女の箱庭なのだから。彼女は荒々しく扉を蹴破る。普段はしないであろう彼女の行動に、ばくはつに巻き込まれた全員が驚いた。
部屋の中心の床には黒い後が付いていて、そこで爆発が起きたのは見るに明白だった。そこに一人の少女がペタンと座っていた。リネは爆発の中心に居たであろう、少女の元へ歩きよった。ボロボロの少女は、リネが近くに来ても気付かず、ブツブツと何かを唱え続けている。呆れていたリネも、遂に腰を曲げ、彼女の耳元に口を近づけた。そして
怒号が響いた。
他の研究員は耳を塞ぐのが間に合わなかったらしい。フラフラと倒れていくものが多かった。
ただ一人、少女だけがリネを見上げていた。ようやく事態に気づいたらしい。キョロキョロと周りを見渡して、再度リネを見てこう言った。
「……また会えたね、おこりんぼさん」
ここまで来たら呆れることも出来なくなっていた。もうダメだと、リネは頭を抱えた。
「何がおはようだ。脳天気な挨拶をする前に迅速な原因説明をしろ。
『エニー』」
「……考え事をしていたら、試験管を落として、爆発した。と思う。」
エニーはその時、思考を偏らせていたため、正直に言えば何も知らないのだ。だが考え事をする前の状況と、今の状況、そして自分の性格から分析し、正解を導き出した。いやまぁ、分析しなくてもわかるのは置いておこう。
「全く、君は実に極端だな。」
「貶してるの?」
「貶し半分褒め半分だ。」
エニー・プログラム。神童と持ち上げられた若き天才。しかしその実態は集中力にかけている、ミス製造マシーンだったというわけだ。他の研究者との合同実験に放り込んだら、まず何事もないなんてことはありえない。このように爆発したり、ほかの研究者が謎の変貌を遂げたりと、とにかくいいことが無い。彼女専用の研究室を与えた方が良いのだが、生憎今は満室だ。つまり、ここまで来てしまったなら、所長である彼女自ら管理しなければならないのだ。
「契約先が怯えて君を突き出すわけだ。」
「怯える?なんで?」
「この惨状でそれを言えるとはな、正気か?」
「んーん、多分狂ってる。」
「自覚があるなら押えてくれ……」
エニーはたまに、よく分からないことを言う。狂っているのに、やけに従順なところがある。これは言ってはダメだ、あれはしたらダメだ、言って聞かせれば治るのだ。まるで幼児のように、言ったことを覚える。
ついでにいえば、時々の不可解な解答など。
「所長、私所長が好きだよ。」
この娘は時々、私を好きだという。正直に言えば、こんな若い娘に手を出せば私の立場が危うい。なのでいつも適当にあしらっている。
「またそれか?私以外に好きな物をもて。こんな女に構っても、何も出てこないよ」
「きっと、君は思い違いをしている。」
毎度毎度、同じようなセリフを彼女に吐きつけるように言っている。彼女は若くて未来がある。私のように縛られた学者ではない、自由な羽を持っている。それを私が取り除いてしまうのは、あまりに惨い。
「……私、きっと男性も好きになれるよ。小鳥も、熊も、お花も、おばあさんも、おじいさんも、女性も、機械生命体でも。」
「でも今は、所長が好き。それだけ」
時々この子は、ずるいことを言うと思う。きっと若気の至りだし、思いには応えられない。この先私より魅力的な何かが現れて、彼女の心を捕まえるかもしれない。その時、私のような荷物がいては不自由なのだ。でも、それでもいいと思わせてくる。そういうところが彼女の良くないところで、美しいところ。
私より少し身長の低い彼女が、私を見上げる。小動物のようで可愛らしいのは認める。
「……そうかい、それはよかったよ。」
私は今どんな顔をしているんだろう。笑えてるといいな。悲しい顔を、この子にだけは見させたくないから。
「それはそうとして、説教からは逃れられないぞ。」
「えー」
時々、夢を垣間見るようになった。内容はシンプル。何かに追われて自殺を選び、またなにかに転生し、自殺を選ぶ。朝が来るまでこの夢を続く。ずっと苦痛と闘う夢が続く。 夢の中の私は、なぜ自殺を選ぶのだろう。どうして逃げたりしないんだろう。そんな事を考えながら、また苦痛の夢へ沈む。
最近は、追っ手の姿も少し見えるようになってきた。身長は低く、筋力がある感じでもない。ただそいつは、少し不思議な服装をしていて、なにか杖らしきものを持っていた。その杖の用途は様々で、直近だと私以外の人を殴り殺していた。
あぁ、ほら。またやってきた。今日の私はどう死ぬのだろう。あ、飛び降りた。追い詰められて仕方なくか。可哀想に。
……最悪な夢心地だった。何度も死を経験するのは楽しいことではないのだ。エニーならまだぼーっとして何が起きたか忘れてしまうんだろうか。そういう所は羨ましいと思う。夢の中でも夢に浸って居そうだからな、あの子は。
そう考えた時に、警報がなった。
警報が知らせるのは、テロリストの侵入。今すぐ避難をと呼ばれたが、私は生憎にも責任者だ。現地に向かい、何とか交渉をしなければいけない立場だ。急いで履きなれたパンプスを履き、現地に向かった。
はっきりにいえば、そこは地獄絵図だったのだ。リネが着いた頃には、もう遅かった。血溜まりができ、人があられもない姿で倒れていて、皆が地面に伏せていた。主である彼女は目を見開いていた。警報がなってからここに来るまで、10分もかかっていないのだ。その短時間で、ここまでの量を始末した。其れは紛れもなく偉業である。
一人の研究者が、彼女の足にしがみついた。リネも素早くそれに気づき、会話を始めた。
「良かった。君はまだ生きている。急いで避難すれば」
「もう遅いですよ、既に出血多量です。」
研究者は腹部から大量の出血をしていた。もう助からない。それに気づかない程彼女は落ちぶれていない。だが、それに縋らないといけないのだ。縋らなくては生きていけないのだ。
「誰だ、誰にやられた。」
「……エ__」
そこまで発する前に
背中に向けられた風の刃が、彼の体を両断した。内臓がボロボロと出てくる。動物の物は見慣れているが、人間となれば話は変わってくるのだ。声にならない悲鳴を上げると同時に、後ろに尻もちをついた。奥から近付いてくる少女に逃げるように、力が入らなくなった手足を動かそうとする。しかし思うように動かない。少女がはっきり見えるようになり、彼女に声をかけた。
「また会えたね、所長。」
いつしか、こんな言葉を言われた気がする。
「なんの、何のため、に」
「だってもういらないから。断捨離って大事でしょ?」
「だからって、なん、ころして」
「これが一番楽だから」
模範解答のようにスルスル出てくる彼女の言葉は、リネを恐怖に至らせるのに充分だった。この娘は、最初から最後まで、徹頭徹尾狂っていたのだ。
「何度も探した。あなたの「タマシイ」が世界を離れて、次の世界に行く度。」
「私もあなたを追いかけて、追いかけ続けて。」
「何度も何度も、あなたは自殺して。」
「そろそろ鬼ごっこも終わろうよ。負けず嫌いも程々にさ。」
何を言っているか理解が出来ない。だが夢のおかげで少しわかった。この子は私を殺す気なんだ。私は何度も自殺して、その度に転生を繰り返して。この子は何かの力で、諦めず私を追いかける。そして私は自殺する。それを繰り返しているのだ。
「私に殺されてくれたら、一生私のお庭で、一緒に遊んでくれるんでしょ?それならどっちも幸せだよ、ね?」
「何にも不自由なんてないんだよ。ちょっと痛いのを耐えるだけで、あとは自由なんだよ。」
「だからさ、ほら」
「私に「タマシイ」、渡して欲しいな。」
彼女は私と目線を合わせるようにかがんで、屈託のない笑顔でそう言った。身体中についてる血や、すぐ側に置かれた杖がなければ、きっと笑えていたのだろう。彼女は不思議な格好をしていて、いつもの白衣姿ではなかった。絵本に出てくる悪の魔女のような、それでいて魔法少女のような、そんな格好をしている。
どうしよう、どうしよう。死ぬのは嫌だし、自殺はもっと嫌。言ってしまえば痛いのは嫌い。その上で彼女を穏便に止めれる方法なんてない。言われた通り、私の魂とやらを差し出して、彼女の傍に一生居た方が幸せな気がする。いや気ではない。確信できる。今この大量虐殺現場にいるよりは、よっぽどマシだ。
「……そうだな、そっちの方が合理的だ。」
「__なら」
「私のプライドを加味しないならな。」
常にペン等を入れていた胸ポケットから、最適な道具を取り出す。普段運動などあまりしない私にしては素早い動きだっだと思う。前世からの引き継ぎかな。その勢いのまま、道具を首に持っていく。あぁ良かった。
笑えてる。
どうやら、また見殺しにしたらしい。ため息はこれで三万四千六十二回目だ。どうしてこうも、簡単に逃げられてしまうのだろう。いやわかっている。私がこのゲームを楽しんでいる節もある事も。ただし、何事も限度がある。そろそろ我慢の限界だ。もしあのタマシイが私のものになったら、どうしてやろうか。まずはおしおきかな、相場ってやつだよね。
あ、こんなこと考えてる暇なかったんだ。次の転生先は、あらかた予想がついてる。
「自殺を選べば選ぶほど、地獄が続くの。
忘れちゃダメだからね。」
魔女はやはり笑っていた。
黒髪の少年が問う。
「おねーさん、だれ?」
「ただの魔女。」
ちょっと、こだわりが強いだけ。
魂レベルの鬼ごっこを繰り返してる百合(?)です。
エニーちゃんが追い求めてる魂は一応女性なので、百合です(暴論)
ご覧の通りのやべーやつ、主人公も自殺をプライドで選べるやべーやつ。
ちょっとだけ紹介
リネ
所長。可哀想な人筆頭。
研究してたらやべーやつに追いかけられたり、自殺したりといい事がない。
エニー曰く、「一番最初のあの子に似てる」らしい。
研究者としては優秀だったのでかなりの損失。
エニー
魔女。やべーやつ筆頭
いつだってリネのタマシイを追いかけ回してる。これで三万四千六十二回目。
タマシイを殺して自分のモノとして使役したいが、本当は「最初の彼女」の愛が欲しかっただけ。今となっては叶わない願い。
コメント
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ワ、ワァ… 最初コメディーだったのに…!!!! 何か自分も過激なヤンデレ 書きたくなりました
今回もめちゃくちゃ良かったよ!!!!! うわぁぁぁ…良い…凄く好き… 魂の次元でも私は喜ぶよ…!!!(?) きっと因縁じゃなくて執着なんだよ… 過去の愛を求めて それに縋ろうとしてる感じ…良い… お互いヤベェ奴だけどそれが良い… それがこの鬼ごっこを生んでる… 相変わらず百合は良いね!!!(?) 次回も楽しみに待ってるね!!!!!
百合を欲して色々なサイトを巡ってた人間に染みるわぁ……