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クリエ@破壊神ワドルディ
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記憶を失っていても心は決して変わらない絆で結ばれている
第一章 夕闇の戦場
茜色に染まった空の下、崩れかけた城塞の跡地で激しい戦いが繰り広げられていた。
「シオン!後ろだ!」
ロクサスの鋭い警告が空気を切り裂く。シオンは即座に振り返り、迫り来る影に対処しようとした。しかしその時、巨大な闇の塊が彼女目がけて一直線に放たれた。回避は不可能。シオンの瞳に映るのは、死の影。
「ロクサス──!」
彼女の悲鳴にも似た叫び。次の瞬間、誰かが彼女の前に飛び込んだ。
ロクサスだった。
「シオン……俺が……守る……!」
強烈な衝撃。轟音が辺り一帯を揺るがす。ロクサスの身体が吹き飛ばされ、地面に激突した。血しぶきが夕陽に散り、彼の胸元が鮮やかな赤に染まっていく。
「ロクサス!ロクサス!」
シオンが駆け寄り、彼の身体を抱き起こす。ロクサスの顔は青白く、口元から血がこぼれ落ちていた。
「誰も……悲しまないさ……守れて……よかった……シオン……」
彼の声はか細く、途切れ途切れだった。それでも彼は微笑んでいた。優しく、儚い微笑みを浮かべて。
「ロクサス……そんな……そんなこと言わないで!」
シオンの頬を涙が伝う。彼女の手が彼の頬に触れる。温かい、でも確実に冷たくなっていくその肌。
「ありがとう……一緒にいてくれて……みんな……好きだよ……」
言葉の最後を言い終える前に、ロクサスの手がシオンの手から滑り落ちた。彼の瞳が閉じられる。意識が遠のいていく。
「ロクサスううう!」
シオンの絶叫が夕闇の戦場に響き渡った。その声は、仲間たちの心を凍りつかせるのに十分だった。
アクセルが駆けつける。サイクスが駆けつける。そして、組織 XIII の全員がその場に集まった。
「ロクサス……しっかりしろ!」
アクセルが彼の身体を揺さぶる。だが、ロクサスは応えない。ただ、静かに、まるで安らかに眠るように、動かなかった。
「早く医者を呼べ!病院へ連れて行くんだ!」
ゼムナスの命令が飛ぶ。誰もが必死だった。ロクサスを失いたくなかった。たとえノーバディであっても、彼は大切な仲間だった。
シオンはロクサスの手を握りしめたまま、救急車の中でも離さなかった。彼の手は冷たく、彼女の涙だけが温かかった。
「お願い……死なないで……ロクサス……!」
彼女の祈りは、夜の闇へと消えていった。
第二章 白い部屋の真実
手術は十二時間に及んだ。病院の廊下には、組織 XIII の面々だけでなく、ソラやリク、カイリ、テラやアクア、ヴェントゥス、ナミネ、エラクゥスまで集まっていた。皆の顔には疲労と不安が浮かんでいる。
手術室のランプが消えた。医師が疲れた顔で出てくる。
「手術は成功しました。命に別状はありません」
その言葉に、誰もが安堵の息を吐いた。しかし、医師の表情は晴れなかった。
「ですが……」
その「ですが」に、全員の緊張が一気に高まる。
「患者さんは、外傷性全健忘を発症しています。全ての記憶を失いました。おそらく……二度と戻ることはないでしょう」
一瞬、時間が止まったかのようだった。
「……何?」
最初に口を開いたのはアクセルだった。彼の声は震えていた。
「記憶が……戻らない……?」
シオンがその場に崩れ落ちた。彼女の肩が震え、嗚咽が漏れる。
「そんな……そんな嘘……!」
サイクスは言葉を失い、ただ壁に手をついて立ち尽くしていた。ヴィクセンは涙を流しながら壁を拳で叩く。
「ロクサス……ロクサスが……」
ゼムナスでさえ、その衝撃に言葉を失っていた。彼の瞳には、普段見せない感情が揺れていた。
「彼を……ロクサスに会わせてください」
アクセルが医師に詰め寄る。医師は静かに頷いた。
病室のドアが開かれる。白い部屋の中、ベッドに横たわるロクサスの姿があった。包帯で巻かれた頭部。酸素マスク。点滴。無数の管が彼の身体につながれている。
そして、彼の瞳が開かれた。
「……ここ……どこ?」
その声は、かすれていた。そして、その口調は……あまりにも無邪気だった。
「君たちは……誰?」
部屋に入ってきた全員を見て、ロクサスは首を傾げた。その表情には、全くの無垢しかなかった。
「ロクサス……俺だよ、アクセルだ!」
アクセルがベッドに駆け寄る。しかしロクサスは、怯えたように身を引いた。
「アクセル……?ごめん、わからない……僕の名前はロクサスって言うんだ。君は?」
「僕」──その一人称に、アクセルの心が音を立てて砕けた。
「君は誰?知らない人ばかり……怖いよ……」
ロクサスの瞳が不安で揺れる。彼は全てを忘れていた。戦いも、仲間も、大切な絆も。全てが白紙に戻っていた。
「ロクサス……私がわからないの?シオンよ!あなたを守ってくれた、シオン!」
シオンがベッドに縋りつく。彼女の声は悲痛だった。
「シオン……?ごめん……知らない……でも、何故か胸が痛い……」
ロクサスが自分の胸を押さえる。その言葉に、シオンの涙が止まらなくなった。
「ロクサス……戻ってこい、我らの No.13 よ……」
ゼムナスの声が震えていた。組織のリーダーである彼が、涙を流している。その光景が、この事態の深刻さを物語っていた。
「えっ……No.13?何それ?」
ロクサスは純粋に首を傾げる。その無邪気さが、逆に皆の心を抉った。
デミックスが涙を拭いながら言った。
「え、なんで泣いてんの俺……ロクサスが……!ロクサスがこんなになって……!」
ラクシーヌも涙をぬぐいながら、無理に笑顔を作った。
「アンタ記憶なくしたの?ちょっと可愛いじゃないの……でも……でも……」
その言葉の先は、嗚咽にかき消された。
マールーシャは優しく微笑んだ。しかしその目には涙が溜まっていた。
「ふふ……また一から育て直すのも悪くないな……」
シグバールは無言で、ただロクサスの手を握った。その手が微かに震えていた。ザルディンは声を上げて泣いていた。
ヴィクセンがロクサスの手を強く握りしめ、声を絞り出す。
「ロクサスううう!」
その泣き声が病室に響く。レクセウスも、ゼクシオンも、ルクソードも、皆が涙を流していた。
だが、その中で最も衝撃的だったのは、ソラの行動だった。
「ロクサス!」
ソラがベッドに飛びつき、ロクサスを強く抱きしめた。彼の肩が震え、涙がロクサスの病衣を濡らす。
「ソラ……って言うんだよね?ごめん、わからない……でも、何故か……」
ロクサスが自分の胸に手を当てる。そこが熱かった。何かが、奥底で揺れていた。
リクもカイリも、テラもアクアも、エラクゥスもナミネも、皆が涙を流していた。ヴェントゥスに至っては、叫んでいた。
「ロクサスううう!」
その声に、ロクサスは困惑しながらも、何故か胸の奥が痛んだ。
「えっ……僕……そんなに大事……なの……?」
彼の声は細く、震えていた。皆の温かくも苦しい視線が、彼の心に直接突き刺さる。記憶はなくても、心は覚えていた。この人たちのことが、大切だったのだと。
「どうしてだろう……涙が止まらないのに、何故か……安心する……」
ロクサスの瞳から、涙が一筋こぼれ落ちた。彼自身、なぜ泣いているのか理解できなかった。けれど、彼の心は確かに、この人たちを覚えていた。
第三章 失われた日々
それからの日々は、ロクサスにとって新しい世界との出会いの連続だった。
「これがキーブレード?すごい……でも、どうしてこんなもの持ってるんだろう?」
ロクサスが手にしたキーブレードを見つめる。その輝きに、彼は何かを思い出しそうになる。しかし、記憶の扉は固く閉ざされたままだった。
「昔はこれで戦ってたんだよ」
アクセルが優しく教える。ロクサスは首を傾げた。
「戦う?僕が?……信じられないな。僕、戦いなんて無理だよ」
その無邪気な言葉に、アクセルの胸が締め付けられる。あの激しい戦いの中で、仲間を守るために立ち上がったロクサスを知っているからこそ、その言葉が切なかった。
「ロクサス、覚えてなくていいんだ。今はゆっくり休め」
アクセルが彼の頭を撫でる。その手の温かさに、ロクサスは何故か安心した。
「アクセル……君と一緒にいると、何故か落ち着くんだ。前もそうだったのかな?」
「……ああ。俺たちは親友だったんだ」
「親友……いい響きだね」
シオンは毎日、ロクサスの病室に通った。彼女は彼に、自分たちの思い出を語り聞かせた。
「初めて会った時、あなたは私を守ろうとしたの。まだ戦い方も知らなかったのに」
「へえ……僕、カッコつけたかったのかな?」
ロクサスが照れくさそうに笑う。その笑顔は、記憶を失う前と変わらなかった。
「あなたはね、いつも誰かを守ろうとしてた。私も、アクセルも、みんなも……」
シオンの声が詰まる。彼女は涙をこらえながら、続けた。
「あなたは、私にとって……たった一人の大切な……」
「シオン?」
ロクサスが心配そうに彼女の顔を覗き込む。その優しさが、逆にシオンの心を引き裂いた。
「なんでもない……ちょっと目にゴミが入っただけ」
彼女は無理に笑った。
そんな中、組織 XIII の面々も、それぞれの方法でロクサスと接していた。
ゼムナスは彼に組織の歴史を語った。デミックスは冗談を言って笑わせようとした。ラクシーヌは髪の毛を編んであげた。マールーシャは甘いお菓子を差し入れた。シグバールは黙って隣に座っていた。ザルディンは毎日彼に抱きついて泣いた。ヴィクセンは彼の手を握りしめて、昔話を語った。
「君たちは、本当に僕のことを大切に思ってくれてるんだね」
ある日、ロクサスがぽつりと言った。
「記憶はなくても、わかるんだ。君たちの心の温かさが、僕の胸に届く」
その言葉に、皆が涙を流した。
ソラは毎日のように病院に通った。彼はロクサスに、自分たちが一緒に冒険した島の話をした。
「あの島でさ、一緒に夕日を見たんだ。めっちゃ綺麗だったよ!」
「夕日……いいな。僕も見たい」
「よし、退院したら一緒に見に行こうな!」
リクやカイリも、テラやアクアも、ヴェントゥスも、皆がロクサスに話しかけた。彼らはロクサスの記憶を取り戻そうとはしなかった。ただ、今のロクサスを受け入れ、愛そうとした。
ナミネは彼に、一枚の絵を贈った。そこには、笑顔のロクサスと、シオンと、アクセルが描かれていた。
「これは……僕?」
「うん。あなたが一番幸せだったときの、あなたよ」
「ありがとう……大事にする」
ロクサスはその絵を、枕元に飾った。
第四章 心の葛藤
退院の日が近づくにつれ、ロクサスの中で一つの感情が芽生え始めていた。
「僕は……本当にロクサスなの?」
ある夜、彼は一人で呟いた。彼の頭の中には、過去の記憶が全くなかった。あるのは、今この瞬間の感覚だけだった。
「みんなは、僕が昔はすごかったって言うけど……今の僕には、何もできない」
彼は自分の手を見つめた。この手でキーブレードを握り、戦っていたという。仲間を守るために戦っていたという。けれど、記憶のない彼には、その感覚が全くわからなかった。
「僕は……みんなの期待に応えられるんだろうか……」
不安が彼の心を覆い尽くす。彼は自分の存在意義を見失っていた。
次の日、シオンが訪ねてきた時、ロクサスは珍しく塞ぎ込んでいた。
「ロクサス?どうしたの?」
「シオン……僕は、本当にみんなの言うロクサスなのかな?」
「何を言ってるの?あなたはロクサスよ」
「でも……僕は何も覚えていない。戦い方も、キーブレードの使い方も、みんなとの思い出も……全部、失ったんだ」
ロクサスの声が震える。シオンは彼の手を握った。
「覚えていなくてもいいの。あなたはあなたよ。記憶がなくても、あなたの心は変わらない」
「心……」
「そう。あなたの優しさも、強さも、誰かを守ろうとする気持ちも、全部、あなたの中にある。記憶がなくても、それは変わらない」
シオンの言葉に、ロクサスの目に涙が浮かんだ。
「シオン……僕は、どうすれば……」
「今のままでいいの。無理に過去を取り戻そうとしなくていい。今のあなたが、私たちには大切なんだから」
その言葉に、ロクサスの心が少しずつ解けていくのを感じた。
同じ頃、アクセルは一人で屋上に立っていた。彼は空を見上げ、過去を思い出していた。
「ロクサス……お前はいつも、俺たちのために戦ってくれたな……」
彼の目に涙が滲む。記憶を失ったロクサスを見るのは、何よりも辛かった。けれど、彼は決して弱音を吐かなかった。
「たとえ記憶がなくても、お前はお前だ。俺は、お前を信じてる」
彼の言葉は、風に乗って空へと消えていった。
第五章 絆の力
退院の日、ロクサスを迎えるために、病院の前には多くの人々が集まっていた。
組織 XIII の面々。ソラたち。リクやカイリ。テラやアクア。ヴェントゥス。ナミネ。エラクゥス。
「ロクサス!おかえり!」
ソラが真っ先に駆け寄る。ロクサスは少し戸惑いながらも、微笑み返した。
「ただいま……なのかな?よくわからないけど、何故か帰ってきたって感じがする」
その言葉に、皆の心が温かくなった。
ロクサスは新しい生活を始めた。彼は組織の城で、みんなと一緒に暮らすことになった。
最初は戸惑いもあった。何も知らない世界の中で、彼は一から学んでいかなければならなかった。けれど、みんなの支えがあった。
シオンは彼に、戦い方を教えた。アクセルは彼に、街の案内をした。組織 XIII の面々は、それぞれの知識を分け与えた。ソラたちは、彼と遊んだ。
ある日、ロクサスは城の訓練場でキーブレードを振るっていた。彼の動きはぎこちなく、かつての力はなかった。
「ダメだ……全然できない……」
彼は膝をつき、息を切らした。
「ロクサス、休憩しよう」
シオンがタオルと水を持ってくる。ロクサスはそれを受け取り、礼を言った。
「シオン……僕は、本当に強くなれるのかな?」
「なれるわ。あなたは、もっと強かったんだから」
「でも、僕は何も覚えていない……」
「覚えていなくても、体は覚えているのよ。もう少し練習すれば、きっと戻ってくる」
シオンの言葉に、ロクサスは頷いた。彼はもう一度キーブレードを握りしめた。
その時、何かが彼の脳裏をよぎった。
「……戦場……夕焼け……」
「ロクサス?」
「シオン……何か……思い出せそうだったんだけど……」
ロクサスは頭を押さえた。しかし、記憶はすぐに霧のように消えてしまった。
「無理しなくていいよ」
シオンが彼の肩に手を置く。その温もりに、ロクサスは安堵した。
「ありがとう、シオン」
その日から、ロクサスは少しずつ変わっていった。彼は皆と過ごす時間の中で、自分が大切にされていることを実感していった。そして、彼もまた、皆を大切にしたいと思うようになった。
ある日、ロクサスはアクセルと二人で街を歩いていた。
「アクセル……教えてほしいんだ」
「何を?」
「僕が、どんな人間だったのかを」
アクセルは少し間を置き、そして語り始めた。
「お前はな、いつも誰かのために戦ってた。自分のことよりも、他人のことを考えるやつだった」
「そうなんだ……」
「でも、頑固なところもあってな。一度決めたことは、絶対に曲げなかった」
「それは……今も変わらないかも」
ロクサスが笑う。アクセルもつられて笑った。
「そうだな。お前は、ロクサスだ。記憶がなくても、その本質は変わらない」
「ありがとう、アクセル。君と話せて、少し自分のことがわかった気がする」
二人はそのまま、夕日を見に行った。オレンジ色の光が、二人を包み込んだ。
第六章 心の決壊
季節が巡り、ロクサスが退院してから数ヶ月が経った。
彼の生活は、新しい日常に慣れつつあった。けれど、彼の心の奥には、まだ不安が潜んでいた。
「僕は……本当にみんなの仲間なんだろうか……」
ある夜、彼は一人で呟いた。彼は鏡の前に立っていた。映っているのは、見慣れた自分の顔。けれど、その瞳の奥には、何かが足りないような空虚さがあった。
「みんなは優しい。でも、その優しさは、昔の僕に向けられているんだ。今の僕じゃない……」
彼は自分の手を見つめた。この手は、過去の記憶を持っていない。彼はただ、今を生きているだけだった。
「もし……もし記憶が戻らなかったら……僕は、いつまでも偽物のままなのか……」
その時、彼の頬を涙が伝った。
次の日、ロクサスは皆の前で、突然こう言った。
「僕は……ここにいていいのかな?」
その言葉に、その場にいた全員が凍りついた。
「何を言ってるんだ、ロクサス?」
アクセルが問いかける。ロクサスは俯いたまま、続けた。
「僕は、みんなの知ってるロクサスじゃない。記憶もないし、力もない。僕なんかが、みんなの中にいてもいいのかな……」
「そんなこと言うな!」
ソラが叫んだ。
「お前はお前だ!記憶がなくたって、俺たちの大事な仲間だ!」
「でも……僕は……」
「ロクサス!」
今度はシオンが声を上げた。彼女の目には涙が溢れていた。
「あなたは、私を守ってくれた!記憶がなくても、あなたの勇気は変わらない!」
「そうだ!お前は、いつだってお前だ!」
ヴェントゥスも叫んだ。
「ロクサス!俺たちは、お前を愛してる!」
組織 XIII の面々も、皆が口々に彼を励ました。
「No.13 は、お前だけだ!」
ゼムナスの言葉に、ロクサスの瞳が揺れた。
「僕……僕は……」
その時、ロクサスの胸の奥で、何かが弾けた。彼の心は、皆の言葉を拒絶していた。けれど、その拒絶を超えて、彼の心の奥底に眠っていた「何か」が目覚めようとしていた。
「嫌だ……嫌だよ……!僕は……僕は……」
ロクサスが叫んだ。彼の身体が震えていた。皆はただ、彼を見守っていた。
「僕は……皆と一緒にいたい!」
その言葉が、彼の心の決壊だった。彼はその場に崩れ落ち、泣き崩れた。
「僕は……皆と一緒にいたい!認めてほしい!今の僕を!記憶がなくても、僕は僕だって!」
シオンが彼の隣に膝をつき、優しく抱きしめた。
「もちろんよ。あなたはロクサスよ。何も変わらないわ」
アクセルも彼の肩に手を置いた。
「最初からそうだ。お前はロクサスだ。それだけで十分だ」
皆が彼の周りに集まり、手を差し伸べた。
「僕……僕……」
ロクサスは泣き続けた。しかし、その涙は次第に、安堵の涙へと変わっていった。
第七章 奇跡の始まり
あの日から、ロクサスは変わった。彼の心は、皆を受け入れることを拒絶するのをやめた。代わりに、彼は皆と過ごす時間を、心から楽しむようになった。
「シオン!今日は一緒に街に行かない?」
「いいわね。何をしようか?」
「アイスクリームが食べたいな!」
「昔も、よく食べてたわね」
ロクサスとシオンは、手をつないで街を歩いた。彼は彼女の手の温もりに、安心感を覚えた。
「アクセル!キーブレードの使い方、もっと教えて!」
「おう!任せとけ!」
アクセルとロクサスは訓練場で汗を流した。彼の動きは、日に日に良くなっていた。体が、かつての戦い方を思い出しつつあった。
「ソラ!今度は一緒に冒険に行こう!」
「いいぜ!島に行こう!俺の故郷を案内するよ!」
ロクサスは皆と過ごす時間の中で、少しずつ自分を取り戻していった。
ある日、彼は城の庭で、一人で座っていた。彼の手には、ナミネからもらった絵があった。
「僕は……幸せなんだな」
彼は呟いた。彼の心には、もはや不安はなかった。ただ、皆と過ごす幸せだけがあった。
その時、彼の胸の奥が、ズキンと痛んだ。
「……何だ?」
彼は自分の胸を押さえた。何かが、彼の中で目覚めようとしている。記憶の断片が、彼の脳裏をかすめた。
「夕焼け……戦場……シオン……」
「ロクサス?」
後ろから声がかかる。振り返ると、シオンが立っていた。
「シオン……今、何かが……」
「何か思い出したの?」
「わからない……でも、胸が熱い……」
その時、彼の周りに、皆が集まってきた。アクセル、ソラ、リク、カイリ、テラ、アクア、ヴェントゥス、ナミネ、エラクゥス、そして組織 XIII の面々。
「ロクサス、大丈夫か?」
アクセルが問いかける。ロクサスは微笑んだ。
「大丈夫……何だか、不思議な気分だ。皆の顔を見てると、心が満たされるんだ」
「当たり前だ。俺たちは家族だからな」
ソラの言葉に、ロクサスは大きく頷いた。
「そうだね……僕たちは、家族だ」
その瞬間、彼の脳裏に、無数の映像がフラッシュバックした。
夕焼けの戦場。シオンを守るために飛び出した自分。轟音。血。痛み。
「……あ……」
彼の瞳が大きく開かれる。皆の笑顔が、彼の脳裏に次々と蘇る。
シオンの笑顔。アクセルの笑顔。ソラの笑顔。リクの笑顔。カイリの笑顔。テラの笑顔。アクアの笑顔。ヴェントゥスの笑顔。ナミネの笑顔。エラクゥスの笑顔。そして、組織 XIII の面々の笑顔。
「忘れてた……全部、忘れてた……」
ロクサスの身体が震える。彼の瞳から、涙が溢れ出した。
「思い出した……全部……思い出した……」
皆が息を呑む。彼の変化を、誰もが感じ取っていた。
ロクサスがゆっくりと立ち上がる。彼の目つきが変わった。無邪気な少年の瞳ではなく、多くの戦いを経験してきた戦士の瞳に。
「みんな……」
彼の声が、低く響く。一人称が変わっていた。
「俺……戻ってきた」
その瞬間、彼の手にキーブレードが現れた。それは、かつて彼が握っていたものと同じ、力強い光を放っていた。
第八章 覚醒
「ロクサス……あなた……!」
シオンが驚きの声を上げる。ロクサスは彼女に向かって、優しく微笑んだ。
「シオン……心配かけたな」
その口調は、記憶を失う前のロクサスそのものだった。
「まさか……記憶が……」
アクセルが震える声で言う。ロクサスは彼に向き直った。
「アクセル……お前のその赤髪、やっぱり目立つな」
「ロクサス!」
アクセルが彼に飛びつく。二人は固く抱き合った。
「すまなかった……長い間、皆に迷惑をかけた」
「そんなこと言うな!戻ってきてくれただけで……それだけでいい!」
ソラも駆け寄る。ロクサスは彼の頭を優しく撫でた。
「ソラ……お前も成長したな。立派になったじゃないか」
「ロクサス……ううっ……」
ソラが泣き出した。リクやカイリも、涙を流しながら彼に近づく。
「ロクサス、お帰り」
「……ただいま」
組織 XIII の面々も、それぞれの方法で彼を迎えた。
ゼムナスが彼の肩に手を置く。
「よく戻ってきた、No.13」
「リーダー……しばらく休んでいた者に、その呼び方は勘弁してくれ」
ロクサスが苦笑する。その言葉に、皆が笑った。
デミックスが涙を拭いながら言う。
「もう泣かせんじゃねぇぞ!」
ラクシーヌが彼の胸を軽く叩く。
「もうあんな無邪気な顔は見られないのね……ちょっと寂しいわ」
マールーシャが微笑む。
「ふふ……育て直しは終わったようだな」
シグバールが黙って彼の手を握る。ザルディンは大泣きしながら抱きつく。ヴィクセンは彼の手を握りしめ、泣き笑いの表情を浮かべていた。
「ロクサス……ロクサス……」
「ヴィクセン……泣き過ぎだ」
皆が、涙と笑顔に包まれていた。
第九章 新たな誓い
その夜、城の庭に、皆が集まった。
月明かりの下で、ロクサスは皆を見渡した。シオン、アクセル、ソラ、リク、カイリ、テラ、アクア、ヴェントゥス、ナミネ、エラクゥス、そして組織 XIII の面々。
「皆……聞いてくれ」
彼の声が、静かに響く。
「俺は、一度全てを失った。記憶も、力も、そして自分自身も。けれど、皆のおかげで、それを取り戻すことができた」
彼は一歩前に進む。
「記憶がなくても、心は変わらない。それを、俺は身をもって知った。皆が俺を想う気持ちが、俺の心を繋ぎ止めてくれた。そして、その絆が、奇跡を起こしてくれた」
彼はキーブレードを掲げる。月明かりに、その刃が輝いた。
「俺は、ここに誓う。これからも、皆を守り抜く。たとえどんな敵が現れようとも、決して逃げない。決して諦めない」
その言葉に、皆が静かに頷く。
「ロクサス……」
シオンが彼の隣に立つ。彼女の手が、彼の手に触れる。
「私も誓うわ。あなたの隣に、いつまでもいることを」
アクセルも彼の隣に立つ。
「俺もだ。親友として、お前を支え続ける」
ソラたちも、それぞれの場所から、彼に向かって頷いた。
「俺たちも一緒だ!」
「私たちも!」
「もちろん!」
組織 XIII の面々も、静かに彼を見守る。
ロクサスは、皆の顔を見渡し、力強く微笑んだ。
「みんな……待たせたな……これからも、よろしく頼む」
その言葉に、皆の笑顔が、月明かりの下で輝いた。
終章 変わらない絆
それからも、ロクサスと仲間たちの物語は続いていく。
彼らは新たな敵と戦い、新たな出会いを経験し、新たな絆を紡いでいく。
けれど、決して変わらないものが一つだけある。
それは、彼らが互いを想う心。
記憶を失っても、時が流れても、その絆だけは決して消えることはない。
ロクサスは、それを全身で感じていた。
「ロクサス!早く来て!」
シオンの声が響く。彼女は庭で、彼を待っていた。
「今行く!」
ロクサスは彼女の元へ駆け寄る。その後ろから、アクセルやソラたちもやってくる。
「今日は何をするんだ?」
「アイスクリームを食べに行こうって、シオンが」
「いいな!俺も行く!」
「俺も!」
皆の笑い声が、城中に響き渡る。
ロクサスは、その光景を見て、心から思った。
──ああ、俺は、本当に幸せだ。
記憶を失った時、彼は何もかもを失ったと思った。
けれど、本当に大切なものは、失われなかった。
それは、皆との絆。
そして、彼自身の心。
「ロクサス、何考えてるの?」
シオンが彼の顔を覗き込む。彼は優しく微笑んだ。
「何でもない。ただ……皆と一緒にいられて、幸せだなって」
その言葉に、シオンも微笑む。
「私もよ」
「俺もだ!」
アクセルが割り込む。ソラたちも口々に同じことを言う。
ロクサスは、皆の笑顔を見て、強く思った。
この絆を、決して手放さない。
たとえまた記憶を失っても、きっとまた、この絆が彼を導く。
なぜなら、心は決して変わらないから。
記憶を失っていても、心は決して変わらない絆で結ばれている。
それが、彼が得た、何よりの宝物だった。
── 完 ──