好きな人の事は全部知っておいた方がいい。
そうすれば、少なからず希望は見い出せるらしいから。まあ、確かかどうかなんて知らないけど、そんな事を昔何かで君は言っていた。なんの話だったかな、突然過ぎて覚えていない。君に彼女が出来てからかな?分からない。あの時の記憶は曖昧だ。
「…え?何?」
「だから…俺、彼女出来た。」
「……へーそれは、おめでたい話だね。」
その話を聞いた時僕はどんな事を思ったっけ?あのチビに彼女?似合わなさそう〜かな?何だろう。でも凄く胸がギューギューと締め付けられる感じがしていた。
君に彼女が出来たなんて似合わないものだと思っていたから、案外君はその形に嵌っていて、少しだけ…寂しく思った。
その”寂しい”という感情の意味を知りたくて、色んな事を試した。例えば、1人で居る時とか……位しか僕には思い付かなかった。でも、僕は1人でも平気だし。
なら、あの”寂しい”というのは何なのか。こんなにも難しいものだとは知らなかった。世界にはまだまだ計り知れないものが広がっているのだと、あの時は思っていた。
でも今思えばあそこまで悩む程じゃなく、単純なものだった。
ただ僕はあの時の、あの寂しさは……
君が僕から離れていくんじゃないかという不安と、その相手に対しての嫉妬だった。
さて、こんな話はまた今度に置いておこう。
今僕はまさに告白というものに挑戦している。いや、挑戦した。勿論君が僕なんかに1mmも興味を持っていない事はこの1年間の中で重々承知しているし(僕の事が大嫌いな事も)、何を言われても傷つかない様に覚悟は出来ている。
だから大丈夫だって、言ったら嘘になる。
どんなに気に食わなかった相手でも1度恋愛対象にしてしまったら、相手から完全に嫌われるという事には耐え難い。
だからね、言い訳をさせて。
「……まあ、之は僕の唯の独り言だとでも思って良いからさ……。」
君は、…中也は知らないだろうけど、僕は多分、中也と初めて出逢った時から中也が好きだったよ。
之は所謂一目惚れという物なのか。
…そう、一目惚れだ。
僕は僕でも気づかないくらいに中也に惚れ込んでいたよ。無意識に中也のことを目で追ってしまうくらいに。
それくらい本気で好きなんだ。
「…僕は、君が好きだ。どうしようも無いくらいにね。」
顔が上げられない。そこで終わっちゃ駄目なんだ。
それじゃあ、きっと中也は私の事を気遣う。中也はそういう奴だから。
大丈夫。僕は今まで幾度となく沢山の嘘をついて来た。今更どうってことは無い。
下を向きながら僕は必死に口角を上げる。
「…まあ、君が僕に対して1mmも興味無いことなんて分かりきってるし、一々返事頂戴なんか言わないよ。僕が今このタイミングで言ったのは早くこんな感情捨てたいだけだからその方が、仕事にも支障はきたさないし、お互い気持ちが良く仕事が出来るしね。ね、そうでしょ?」
正直な所全然顔を見られていない。ずっと中也の顔の斜め上を見詰めている。じゃないと、僕の感情が台無しになるから。
すると、今まで黙っていた中也の口が開く。
「…太宰。」
さあ、なんとでも言えばいい。キモイだの、嫌いだの何でもいいから言えばいい。
「そうだったのか、……気づいてやれなくて悪かったな。」
「…。」
あぁ、やっぱり。
君は僕でさえも優しく接してくれるんだね。
優しく、気持ちを汲み取ってくれるんだ。
そんな気遣い要らないのに本当莫迦だなぁ、もう、耐えられない。
僕は中也から顔を背ける。
「…そうだよ。ほんと中也って鈍感だよね。そんなんだから脳筋だって言われるんだよ。」
と吐き捨てるように言う。
「そうだな。それを言うのは手前だけだけどな。」
「……之で終わり、この話はね。」
出来れば、罵倒される方が良かったのかもしれない。
中也が僕なんかに途端に優しくするなんて、そっちの方が余程苦しい。
「…さてと、仕事しなきゃね。それでちゅう、…っ!」
言葉が途切れる。何故なら中也が後ろから突然抱き締めてきたから。
「ちょっ、!……何してんのッ」
と聞くと中也は抱き締める腕に力を込める。
「…勝手に終わらせてんじゃねぇよ。」
「…は?何ッなんの冗談?…そういう慰めとか要らないんだけどッ。てゆうか、離してッ!」
「ヤダ」
「はぁ?!」
「そもそも俺、まだ返事言ってねぇよな?」
「…だから!要らないってばっ!言ったよね?僕!」
「告白されたんだから返事しなきゃいけねぇだろ?!」
「はあ!?〜もうっ!!人の話ちゃんと聞けよ!脳筋!バカぁぁぁぁ!!!」
どうやら中也は人の話も禄に聞けない相当な莫迦だったらしい。
僕の知らない中也がもっと知れて少し嬉しいだなんて1mmも思ってないからね。
続け
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