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あの日以来。及川は、変に強がらなくなった。
不安になったら黙らない。
「ちょっと今メンタル弱い」
って言う。
俺も、逃げない。
「聞いてる」
って言う。
でも。
うまくいってるはずなのに。
どこかぎこちない。
放課後の帰り道。
並んで歩く。
前はもっと近かった。
肩が当たる距離。
今は、少しだけ間がある。
意識してるから。
大事にしてるから。
だから余計に。
及川がぽつり。
「岩ちゃん」
「ん?」
「俺のこと、まだちょっと怖い?」
立ち止まる。
責める声じゃない。
ただの確認。
俺は数秒黙る。
「怖くねぇよ」
即答。
でも続ける。
「失いたくないだけだ」
本音。
及川が小さく息を吐く。
「それ、俺も」
視線が重なる。
「俺さ、前みたいに軽く甘えるのちょっと迷う」
正直に言う。
「またやりすぎたら嫌われるかなって」
「嫌わねぇよ」
低い。
強い。
「俺は」
一歩近づく。
「お前が考えて選んでるなら、なんでも受け止める」
及川の目が揺れる。
「……重くない?」
「重い」
即答。
でも。
「でも俺も重い」
静かに言う。
「好きだから」
空気が少しやわらぐ。
及川が笑う。
前みたいな軽い笑いじゃない。
ちゃんと本音のやつ。
「じゃあさ」
少し照れた顔で。
「俺から触っていい?」
「聞くな」
短い。
でも拒否じゃない。
及川がゆっくり腕を回す。
勢いじゃない。
確かめるみたいに。
俺もちゃんと抱き返す。
強く。
でも痛くない。
「俺、まだ好きだよ」
胸元で及川が言う。
「知ってる」
「岩ちゃんは?」
少しだけ不安混じり。
俺は迷わない。
「好きだ」
間もなく。
まっすぐ。
及川が笑う。
「それで十分」
前みたいに派手じゃない。
でも。
今のほうが、ちゃんと強い。
軽くない。
試さない。
疑わない。
ただ、不器用に好き。