テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
翌日、茉白は早起きしていつも通り自分の弁当を作って冷ましておく。
ご飯は朝テディがどのくらい食べるか分からなかったので朝から炊いた。
朝から炊きたてのご飯が食べられるなんて贅沢なことはここ数年無かった茉白は嬉しそうにおかずはどうしようかな、と嬉しそうに冷蔵庫を隅々探す。
『…あ、ウインナーとベーコンと卵と…プチトマトと人参…冷凍庫はほうれん草とブロッコリー』
朝ご飯兼お弁当のおかずをどうしようか考える。
ほうれん草とベーコンはバター炒めにして、ウインナーはタコさんに、卵はお弁当には卵焼き、朝ご飯には目玉焼きに、ブロッコリーとプチトマトはお弁当の隙間に詰め込み、残りは人参のグラッセと一緒に目玉焼きに添えた。
あとはインスタントの味噌汁を作れば立派な朝ご飯の完成だ。
『よし、できた…!』
茉白は満足そうに出来立てで熱々の料理を見た。
早くテディを起こして食べようと父親の寝室のドアを叩く。
『テディ君、朝ご飯出来ましたよ〜おはようございます!』
「………ぉはよ、ございます」
テディは眠たそうに目を擦りながら起きてきた。
そして、フラフラしながら席に着くとぼんやりと朝ご飯を見つめる。
「これ、食っていいんですか…?」
『え?どうぞ?』
茉白も席に着き、朝ご飯を食べ始める。
茉白が食べ始めるとテディもノロノロと箸を取り、いただきますと呟いた。
夕飯の時と同様にテディはガツガツと白米をかきこんでいく。
成長期の男子の食欲は凄いなぁ、と殆ど同い年の茉白が思うほどいい食べっぷりをしていた。
おかずは茉白の食べる量に合わせて作っていたため、テディにとっては全然足りなかったことに気づいた茉白は慌てて食事を中断して、お弁当用の冷凍食品やウインナーを出して温めて出した。
『すみません、もうちょっとおかず作ってれば良かったですね』
ありあわせ、というのはこの事だと言えるようなおかずの盛り合わせを出されたテディは一瞬固まってから、フッと笑った。
「いや、俺が置いてもらってる身なのにガツガツ食うから…
でも、ありがとうございます」
テディはご飯をおかわりして、おかずも全部食べきって部屋に戻っていった。
茉白も食器を水に浸けて、着替えと身支度をするために部屋に戻る。
いつも通りに髪を梳かして三つ編みにして、セーラー服を着て教科書を入れ替え、お弁当を忘れていたと台所に戻る。
お弁当と時間割が間違っていないことを確認して茉白はテディに声を掛けた。
『テディ君、予備の鍵がポストの中に入ってるのでそれを使ってくださいね』
「分かりました、ありがとうございます」
テディも上着を着てカバンを持つと茉白に続いて玄関を出る。
ポストの中に入っていた鍵を受け取ると、大事そうに財布の中に入れていた。
退屈な授業と陰湿なイジメを乗り切り、茉白は急いで家に帰った。
テディが来たことで食料品の買い出しをしなくては夕飯のおかずも足りなくなりそうだったからだ。
ベッドの上に鞄を放ってエコバッグをいくつか持って近所のスーパーへ向かう。
(今日は何にしようかな…せっかくテディ君がいるから一人だったらしない料理がいいかな…
あ、すき焼きとか美味しいしあったまるよね)
お肉コーナーのすき焼き用肉を見てすき焼きが食べたくなった茉白は奮発して大きめのパックを買った。
冷凍食品や野菜も買い込み、重たいエコバッグを何個も肩にかけて公園を突っ切る茉白にテディとよく似た少年が声を掛けてきた。
「あ、あの!茉白さん!」
『え、はい…テ…ブラウン君?』
茉白と同じクラスで人気者で、両親から可愛がられている方のブラウン君だった。
一瞬テディと呼んでしまいそうになったが、服装の違いから気づいて訂正した。
「あの、俺の勘違いだったら申し訳無いんだけど、もしかしてテディを匿ってくれてる?」
『!』
いくらなんでも気づくのが早すぎる。
テディから連絡でもあったのだろうか?でも、それにしては曖昧な表現が多い。
茉白は数歩後退りした。ブラウン君は一体何を考えているのだろうか。
「あ!いや、違うんだ!怒ってたりじゃなくて、もし良かったらこのまま匿っててほしいんだ」
『え…?』
茉白はようやく警戒を解き、ブラウン君を見上げた。
ブラウン君曰く、昨日茉白がテディを連れて帰るところをたまたま目撃して、両親の虐待からテディを助けられるのではないかと思ったらしい。
「だから、茉白さん…身勝手だけどテディをお願いしてもいいかな?」
『分かりました、私にできることはしますよ』
茉白はずり落ちてくるエコバッグを肩に掛け直しつつ返事をした。
「あ、良かったら家まで運ぶよ」
『そんな、申し訳無いです…』
「いいからいいから、このくらいさせてよ」
ブラウン君は茉白から半分のエコバッグを奪い取り、茉白の後を歩いた。
MAKO
「茉白さん、今一人暮らしなんだね。いろいろ大変なのにテディのこと置いて大丈夫なの?」
『大丈夫ですよ。テディ君、結構気を使ってくれてるみたいですから』
他愛のない話をしながら家の前まで歩き、少し立ち話してからブラウン君は帰っていった。
『遅くなってごめんなさい、すぐご飯の支度しますね』
先に帰っていたテディにそう声を掛けると、テディはゆらりと振り返って茉白に近づいてきた。
「兄貴と話してたんだな?」
『え…』
茉白はその声の冷たさに荷物を持ったまま固まってしまう。
テディは固まったままの茉白の腕を掴んでリビングまで引きずっていくと、カーペットの上に突き飛ばした。
『きゃっ…』
ろくに受け身も取れずに倒れ込んだ茉白は痛みに呻き、少しだけ顔を上げてテディを見上げる。
テディは無表情のまま茉白に近づいてしゃがむと、絶対零度の声で吐き捨てた。
「兄貴が好きだから俺を拾ったんだろ?
兄貴とはどこまでいった?」
『な…ちが…』
茉白は敬語も抜けた刺々しい言い方に萎縮してしまう。
「兄貴だと思ってろよ」
重たい沈黙を破ったテディはそのまま茉白のめくれたスカートの中に手を入れ、下着に指をかけた。
茉白はそこでようやく身の危険を感じて抵抗し始める。
『ぃやっ、やだっ!』
しかし、あまりの恐怖に腰が抜けてテディを蹴り飛ばすことも逃げることも出来ず、あっさりと両腕を掴まれてしまった。
片手で両手首を掴み、空いた手でネクタイを外したテディは暴れる茉白を押さえ込み両手を縛り上げた。
抵抗できなくなった茉白はボロボロと涙を流しながらテディに懇願する。
『テディ君!お願い、やめてっ!』
しかし、テディは茉白の声など一切聞こえていないように茉白の制服に手をかけ脱がしていく。
茉白はこれから行われるであろう行為に震えて涙を流すことしかできなかった。
乱暴で愛など欠片もない行為は茉白にとっては苦痛でしかなかった。
行為が終わってテディが茉白から離れて漸く感情を取り戻したように再び涙を流した。
カーペットの上で裸の体を丸めて泣いていると、シャワーを浴びてきたテディが近づいてきた。
「……なんで泣いてるんだよ…
やっぱり兄貴みたいにできなかったから?
俺じゃ満足できなかった?」
茉白に酷いことをしたのはテディだというのに、テディは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
茉白は何も言わないで首を横に振って否定した。
「…ごめん…兄貴だったら泣かせたりしなかったのに」
『もうやめてください…お兄さんのことなんて私全然知らないんです…
こんなことしたいって思ったこともありません。
今日は何もなかったことにしましょう。
私はテディ君を見捨てることはしたくないから』
茉白は涙を拭って浴室に入ってシャワーを浴びた。
さっきまでのことを全て水に流すかのように、頭からお湯を被ってずきずきと痛む体を誤魔化した。
『…今夜はすき焼きです。たくさん食べてくださいね』
深夜に近い時間にようやく夕食を作った茉白はテディと2人で久しぶりの鍋料理をつついた。
黙々と食事をしていると、テディの瞳から涙がこぼれた。
「ごめんなさい、俺…もうこんなに良くしてもらう資格無いのに…」
『私が勝手にテディ君を拾ったんですから、ちゃんと面倒は見ますよ。それにさっきのことはもう忘れましょう。今日お兄さんと会ったことも』
テディは泣きながら頷き、そのまますき焼きを食べ進めた。
その夜は二人ともなかなか寝付くことができなかった。
忘れてしまおうと約束した行為は、絶対に忘れられない記憶として付き纏うのだろう。
このまま2人で生活を続けていくのが正しいことなのか、茉白にもテディにも分からなかった。
それでも、今にも崩れてしまいそうな脆い安寧の日々を手放したくなかった。
孤独な2人がようやく手に入れた温もりに、今だけは浸っていたかった。
コメント
1件
読ませていただきました…第2話、一気に緊迫した展開になって驚きました。 前半の朝ごはんのシーン、茉白さんの「炊きたてご飯が食べられる幸せ」にほっこりしたのも束の間、ブラウン君との邂逅からテディ君の豹変までが本当に息を呑む流れで。行為そのものより、終わった後にテディ君が「なんで泣いてるんだよ…俺じゃ満足できなかった?」と泣きそうな顔をするシーンが胸に刺さりました。歪んでるけど、彼なりの承認欲求と嫉妬なんだろうな。 それでも茉白さんが見捨てないと決めたラスト、脆くて温かい関係の危うさに引き込まれます。MAKOさんの心理描写の繊細さが際立ってました。続きが気になります…!