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「ちっ! クソがぁ!!」


とある河川敷。

覇闘峯山高校の女キャプテン獅堂は、苛立ちを紛らわせるように素振りをしていた。


「ブランクがなけりゃ、あんな奴ら……! ムカついてしょうがねぇぜ!!」


覇闘峯山高校は、練習試合で桃色青春高校に大差で敗北した。

今日の昼間のことだ。

悪ぶってはいるが、野球に対してはそれなりに真摯に取り組んでいたのだろう。

だからこそ、獅堂は雪辱を誓いこうして素振りをしていた。


そんな彼女の背後から、1人の男が近づいてくる。

彼は獅堂の肩を叩いた。


「こんにちは」


「あぁん? ……てめぇは、龍之介!」


男の正体は、桃色青春高校のキャプテン龍之介だった。

苛立ちの主要因である彼が目の前に現れたことで、獅堂は更に怒りを露わにする。


「てめぇ……何の用だ! オレらをあんだけ叩きのめしておいて、まさか謝りに来たってわけじゃねぇよな? それは敗者への最大の侮辱だぜ!?」


「もちろん違いますよ。たまたま見かけたので、少しアドバイスをもらおうと思いまして」


「……アドバイスだと? オレが……お前に?」


獅堂が怪訝そうな表情を見せる。

昼の試合で、彼女は龍之介が率いる桃色青春高校に大敗を喫した。

勝者が敗者に上から目線でアドバイスを送ることはあり得ても、その逆はピンと来なかった。


「ええ。今日の試合、結果だけなら大差がつきましたが……実のところ内容はそうでもありません」


「はっ! どうだか……。てめぇはオレらを完封しただろうが!」


「それは獅堂さんたちが真っ向勝負を挑んでくれたおかげですよ」


桃色青春高校のスタメンには、まだ2体の野球ロボが配置されている。

打線においても守備においても、明確に穴だ。

覇闘峯山高校に敬遠策を上手く使われれば、桃色青春高校の得点はもっと少なかっただろう。

また、覇闘峯山高校がサードゴロやライトフライを意識的に打てば、本来はヒット性の当たりでなくとも野球ロボの前ではヒットになり、得点を重ねていたはず。

14対0という大差ではなく、例えば8対6ぐらいの接戦になっていた可能性は十分にある。


「ちっ! 負けたのはオレらの技量が低かったせいだ……。だがな、オレの打撃と送球はお前らに引けをとらねぇ!」


「ええ。その通りです。獅堂さんのライトからの送球はレーザービームのように鋭かった。それに、打撃時の威圧感も凄まじいものでしたね」


獅堂の怒りを物ともせず、龍之介は平然と返答する。

彼の態度に、獅堂は呆れてため息をついた。


「はぁ……。てめぇ、何を考えてやがる? 昼の試合でも思ったが、このオレが舐められてるのかと思えばそうでもねぇようだし……。まったく分からねぇぜ」


「……俺は単純に、野球が好きなんですよ。だからこうして、技術の向上に努めているんです」


「けっ!」


「それに……実は女性のことも大好きで」


「はぁ!?」


龍之介の唐突な告白に、獅堂が声をあげる。

彼は続けて言った。


「だから、こうして女性である獅堂さんにアドバイスをもらおうと思ったんですよ。……ダメでしょうか?」


「ふざけんな! オレは女である前に、覇闘峯山高校の頭目だ! 色恋沙汰に興味はねぇ!!」


獅堂は怒りに身を任せ、持っていたバットで龍之介の尻を殴ろうとする。


「おっと」


しかし、彼は寸前のところで攻撃を回避した。


「ちっ! いい勘をしてやがるぜ!」


獅堂が舌打ちをする。

龍之介の運動神経の良さに、彼女は内心で感心していた。


「なら、これはどうだ!? おらおらぁ!!」


「おおっ! これは……なかなか……!!」


獅堂が立て続けにボールを2つ投げる。

彼女はピッチャーではなくが、強肩を売りにした右翼手だ。

その送球は、龍之介の股間スレスレを通過する。


「てめぇ! 避けんじゃねぇ!!」


「いや、避けるでしょうこれは」


龍之介が苦笑いを浮かべる。

獅堂はイライラした様子で舌打ちをした。


「ちっ!」


「しかし、見事な威圧感と送球ですね。何か掴めそうです」


「あぁ? てめぇ、何を言ってやが――はぁんっ!?」


突然、獅堂が艶めかしい声をあげた。

いったい何故か?

それは、龍之介の投球が彼女の乳首をかすめたからだ。


「てめぇ……いきなり何しやがる!?」


獅堂が叫び声をあげる。

しかし、彼は意に介さずに続けた。


「いえ、俺だけが教えてもらうのも申し訳ないので。それに、そのユニフォームの下に隠された美乳が魅力的で……つい」


「はぁ!? てめぇ、頭おかしいのか!?」


獅堂は顔を真っ赤にする。

だが、龍之介の暴走は止まらない。


「そのヒップも魅力的ですね。……少し堪能してみても?」


「てめぇ! いい加減にしやがれ!!」


獅堂は怒りに身を任せ、ボールを投げる。

龍之介はそれを難なく回避した。


「ちっ! すばしっこい野郎だ!!」


「ありがとうございます」


「褒めてねぇんだよ!! こうなりゃ、てめぇにヤキを入れるまでやってやるぜ!!!」


「ふふ、楽しいトレーニングの始まりということですね」


「トレーニングだぁ!? ちっ! どこまでも舐めた野郎だぜ!!」


――龍之介たちの攻防は夜まで続いた。

2人共、肩で息をするほどに疲れきっていた。

しかし、その目はどこか清々しい。

それぞれの新たな能力が開花し、仲も深まったようだ。


「今日は楽しかったです」


「……ふん。オレも、てめぇのことは少し分かったぜ」


「はは、光栄ですね。では、さらに仲を深めましょうか」


「あぁ? どういうこった?」


「こういうことです」


「ちょっ!? そこは……」


獅堂が声をあげる。

そして、2人は夕暮れの河川敷で愛を育むのだった。

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