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「オレさ~やっぱあんなドキドキしたのも透子だけなんだよね」
「ん?いつの話?」
「ガキの時に目の前で笑ってくれた時も、大人になってまた透子に出会ってからも。透子だけにはさ、このオレの心臓がさ反応するんだよね。すげードキドキしてパニクったり、すげー胸が苦しくなったり」
「樹でもそんなこと感じるんだ・・・。ホントに私だけ・・?」
「そう。透子だけ。ガキの時に感じたその気持ちなんてさ、当時はそんなのもよくわかんなったし、会えなくなったらいつの間にか忘れてた。そしたら、それからそんな気持ちも感じなくなってさ。そんな気持ちになれる自分がいるってことも、もう忘れてて。ちゃんと透子にはそんな気持ちになれてたのに。ちゃんと誰かを好きだと感じる気持ち持ってたのに」
「今も・・?」
その感情は今も変わらず感じてくれてる?
今も私にドキドキしてくれてる?
「もちろん。今でもすげードキドキしてるから。透子前にして余裕な時、オレ本当は一回もないよ」
「そんな素振り全然見せないくせに」
ドキドキしているのはいつだって自分だけのような気がして。
どんどん好きになっていってるのは自分だけのような気がして。
自分は素直に言葉に出来ないくせに、樹にはいつでも言葉にしてほしいって、そんな都合のいいこと思ってる。
「そりゃそうでしょ。そんなのカッコ悪いし。透子の前では常にカッコいいオレでいたいに決まってんじゃん」
「いつでも樹は余裕で私だけ振り回されてるのに」
だけど、言葉をもらっても、何も言わなくて振り回されていても、樹がただ側にいてくれるだけで、その瞳で見つめてくれるだけで、この心臓は高鳴って満たされる。
「頑張ってそうしてるだけだよ。オレの方が透子に振り回されまくってる」
「えっ!?どこが!?」
樹が振り回されてるとか意味わかんない。
こんなにも樹の一つ一つに一喜一憂してる自分の方が絶対振り回されてる。
「透子のその全部」
「全部って・・。私何もしてないし」
それなら私だって樹の全部に振り回されてる。
だけどその都度好きな気持ちも大きくなっていく。
「もう透子の存在だけでさ、オレはまともでいられないんだよね。自分が自分じゃなくなるくらい透子のことなら必死だし、透子の為ならなんだって出来るんだよね。もうオレの全部で透子好きで仕方ない」
「樹・・・」
そして樹は私にはこうやって私が欲しい言葉をちゃんとくれる。
小さかった頃は、きっと甘えることもなく、素直になれなかったはずなのに。
だけど今樹は、私に心を許してくれてその心を私には預けてくれて、私だけにはちゃんとその気持ちを伝えてくれる。
私だけには、本当の樹を見せてほしい。
甘えてくれてもいい。 振り回してくれてもいい。
意地悪だって好きなだけしてくれたらいい。
だから。
私だけには、素直な樹の姿を見せてほしい。
私の前だけは、ありのままの樹でいてほしい。
「だからさ、きっと、最初の初恋だった透子がさ、オレの中で多分どうやったってもう絶対的で、忘れられなくて。うん・・。そうかも。だからオレあんなんだったのかも」
「あんなって?」
「透子への感情とさ、多分その後出会った誰とも違ったんだよ。同じようなドキドキや恋しさを感じられなかった」
「それで他の女性も好きになれなかったってこと・・・?」
そんな小さい頃に感じた感情なんて、きっとそんなに意味はないはずなのに。
だけど、その時の気持ちは樹の中でずっと育ってたってこと・・?
「きっとね。やっぱさ、最初のそういう感情ってさ、潜在的にもさ、ずっと残ってるんだよね。それが恋だと自覚していなかったとしてもさ。自分の中できっと何か特別なモノを感じていたような気がする。だから、きっと同じ感情にならない相手には心が動かされなかった。ずっとそれに気づかなかったけど、でもきっとどこかでそれを探してたのかも」
もし本当にそうだったとしたら。
私はいつから樹への特別な気持ちを感じ始めたのだろう。
きっと樹と何度も出会ったその時間は、会う度にどれも何気ない日常の中で、ほんの少し一緒に刻んだ時間なだけなのに。
どれだけ時間が経っていても、なぜかその時のどれもが鮮明に憶えていて。
一番最初に両親の店で出会った時のことも、新人研修として出会った時のことも、美咲の店で出会った時のことも、会社で出会った時のことも。
何気ない時間だったはずなのに、なぜか今も、どの樹も思い出せる。
そして今思えば、どれも樹だと気付かずに、何度も再会するその度に、なぜか気になる存在で。
時を重ねれば重ねる程、その気持ちも大きくなって濃くなっていって。
いつの間にかこの感情は特別なモノへと変わっていった。
だけど、もしかしたら。
樹との出会いそれぞれが、私にとってもうすでに、いろんな特別だったのかもしれない。
「それで私に出会って、その感情は一致したの・・・?」
「まぁ最初はさすがにすぐには気付けなかったけど。なんとなく見かけてた時も結構あったし」
「あぁ・・美咲の店で?」
「そう。でもさ、その時も透子に別の相手がいるのわかってんのに、なんか気になる存在だったんだよね。ふと目に入るというか、見ちゃってるというか」
「そうなの・・?そんな時から・・?」
「うん。オレ女性といい加減に付き合ってはいたけど、誰か相手がすでにいたりしたらさ、特に奪おうとかも思わなかったから。そもそもそんな状態で手出して面倒くさくなるの目に見えてるし、そこまでして執着して奪いたくなるほどの女性はいなかったし」
私が別の相手に想いを寄せている時に、樹はなぜか気にかかってくれて。
普段ならそんな面倒なことはしないと言い切る樹の言葉に嬉しくなる。
でも今の樹はこんな風に、私に全面的に自分への想いを伝えてくれるけど、私が出会う前の樹は、どういう人だったのか、こんなにも伝えてくれる樹だからこそ、その時の樹が気になる。
「樹からアプローチしたりしなかったの・・?」
「全然。向こうから近付いてくるから相手にしてたってだけ」
「来るもの拒まず的な?」
「そうそう。今思ったらオレ最低な男だね」
「そこは否定はしない(笑)」
私と出会う前は、どんな樹でも関係ない。
私が出会ってからの樹は、私だけを想ってくれて大切にしてくれる。
それだけでいい。
「だからさ、他の相手がいるのになぜか透子だけは気になるのが不思議だった。その後、新人研修で透子が言った言葉とかもすんなり自分の中に入って来たり。そっか、それは透子だからだったのかも」
「何回かそうやって出会ってたのにね。ずっと昔から。だけどここまで辿り着くまで案外長かったね」
お互い最初の出会いなんて、いつの間にか忘れていて。
その時の出会いが、その先大きな意味ある出会いになるなんて、お互い知りもしなくて。
だけど、二人にはきっとそれだけ長い年月が必要だった。
「ホント。オレ透子に出会う度、他の人と違うってこんなにも自分でサイン出してたのにさ。オレもようやくここで全部繋がって納得した」
もしかしたら、その都度私たちには何かしらそんなサインを受け取る機会は何度かあったのかもしれない。
だけど私たち二人には、その繋がってる縁は複雑で、なかなか辿りつけなくて。
そしてきっと、私たち二人だけの縁だけじゃなく、自分たちの周りの人と繋がってる縁に、きっとずっと導いてもらえてたような気がする。
「ようやく繋がったね」
「だからオレは透子ただ一人だよ」
「ん?」
「オレからアプローチしたいって思ったの。どんなことをしてでも手に入れたいって思ったのは、透子だけ」
「樹・・・」
自分が好きになった人に、こんなにも想われる幸せを初めて知った。
そして、どんなことがあっても、この気持ちを止められなくて、自分のこと以上に大切だと想えたのは、樹が初めてだった。
たった一人。
ずっと今も樹だけ。