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「だから透子には、オレがガキの頃からずーっとこの透子への純粋な恋心を奪った罪は償ってもらわないと」
すると樹はまたいつもみたいに冗談半分でそんな言葉を言ってくる。
「はっ!?罪って何!?」
「そりゃ透子が、オレがガキの頃からずっと夢中にさせて好きにさせてたんだよ?他の女性好きになれなかったワケだから責任取ってもらわないと」
いつもならここは樹の冗談として適当に流してるような言葉なのに。
日々樹と一緒に過ごしていくうちに、伝えてくれる言葉一つ一つが、どんどん私にとって、どれもが意味のある言葉になっていく。
例え冗談に聞こえたり、大袈裟に感じたりする言葉でさえも。
それはきっと、樹の伝えてくれる言葉全部が、冗談に聞こえるその言葉の裏に真剣な樹の想いを感じることが出来るから。
そして伝えてくれる言葉が大袈裟に感じてしまうのは、それだけきっと樹が想ってくれているから。
だから、今はどんな言葉も私には愛しく響く。
それだけ樹に想ってもらえてるのだと幸せになる。
私がそんな想いをなかなか伝えられない分、樹はそんな自分に気付かせないくらい、樹がずっとその想いを伝え続けてくれる。
いろんなカタチで、いろんな方法で。
いろんな幸せを。
だから私も、これからはいろんなカタチで樹にこの気持ちを伝えていく。
「いいよ。責任取る。樹が好きでいる女性は私一人だけでいい」
樹にはもう自分以外誰かを好きになってもらったら困る。
樹が好きになるのは私だけでいい。
私のことをもっと好きになってくれたらいい。
もっと夢中になってくれたらいい。
ホントの私は、こんなにも樹を独り占めしたくて、もっとその気持ちが欲しくて、もっともっと好きになってほしいって思ってる。
そしてどんな自分も好きになってほしい。
樹をどこまでも好きになっていく自分を受け止めていってほしい。
樹を好きないろんな私を。
私が知らない私を。
樹にはそんな私もすべて知ってほしい。
「マジか・・。そう来るか・・」
なのに樹はなぜか気落ちした反応を示す。
「何?不満?責任取るって言ってんのに」
その反応どういう意味?
「イヤ・・。たまにそうやってオレが予想してない嬉しすぎる可愛い反応するからさ・・」
そう言って樹は少し照れくさそうにしている。
あっ・・そういうこと・・。
なんだ。よかった。
「でもさ。やっぱいいや。責任取んなくて」
「えっ!?どういうこと!?」
そしてまた樹が気持ちを逆なでするようなことを言う。
「だって透子の責任はオレが取る。ずっと運命的にガキの頃から好きだった人の一生はオレが責任持って幸せにする」
「樹・・・」
結局はこうやってまた幸せにしてくれる。
「じゃあ、一緒に責任取って幸せにし合おう」
だけど、ずっと樹に幸せにしてもらってばっかりだから。
私も樹を幸せにしたいから。
だから幸せにし合いたくて、樹にそう伝える。
「そうだね。お互い幸せにしたい気持ちは譲れないみたいだし」
そう言って笑った樹に、私も微笑み返す。
樹だけに幸せにしてもらうのでもなく。
私だけが幸せにするのでもなく。
お互いがお互いを幸せにしたいから、一緒に幸せにし合えばいい。
そうすれば、どちらかの一方的な想いだけじゃなくなるはずだから。
一緒にいればその幸せはきっとずっと続いていく。
「透子。ホントありがとう」
「どしたの?急に改まって」
「いや。改まってちゃんと言っておかなきゃなって」
「何を?」
「透子のおかげで、やっと家族の絆っていうの?なんかそういうの取り戻せたような気がする」
「うん・・・。樹が悩む理由なんて全然なかったね」
きっと、深い本当の部分は、私にも入り込めない部分だったり、樹にしかわからない部分だったりするかもしれない。
だけど、本当の気持ちを言わずに、真実を知らないまま、すれ違ってしまうのは悲しすぎるから。
それが恋愛でも、家族の仲でも。
どんなカタチになったとしても、樹には後悔だけはしないようにしてほしかった。
私が急に家族のカタチが変わってしまって、戻りたくても二度と戻れなかったから。
だから伝えられる時に、樹は伝えてほしかった。
「ホント。どんだけ遠回りしたんだよって話だよね」
「でも、遠回りしたからこそ、ちゃんと向き合えて理解し合えたんだと思うよ」
「確かに。多分これは今じゃないと無理だったのかもね。こんなタイミング来るまで、結局オレも理解しようともしなかったし、きっとずっと反抗的なままだったと思う」
「ちゃんとお互い向き合って気持ち伝え合えてれば何の問題もないのにね」
何より樹が、ちゃんと向き合おうと思ったからこそ。
きっと、その樹の気持ちが伝わったからだよ。
「それも透子と出会わなければ無理だった。オレがこんなにも透子好きになれたから、ちゃんと向き合うことが出来た。透子はオレだけじゃなく、オレたち家族も救ってくれた。まさか親父がずっとオレのことを考えてくれてたなんて思わなかったし、それを知れたのも透子がいたから」
「たまたま今回がきっかけだっただけだよ。でも、嬉しい。やっと樹がホントの幸せ取り戻してくれて」
「結婚の許しをもらえるように、オレが何があっても透子を守るって言ってたのにさ。最後は逆にオレたち家族皆が透子に救われた。やっぱすごいわ、透子」
「私は何もしてないよ。樹にちゃんと守ってもらった。っていうか、そもそも守ってもらう必要もなかったしね。それどころか素敵な家族の時間を私も一緒に過ごさせてもらえて嬉しかった」
実際は反対されるどころか、ちゃんと迎え入れてもらえた。
「なんか照れるね。そういうの言われ慣れてないし、自分でもそんなの考えたこともなったからさ」
「私ずっと思ってたんだよね。樹の家族はさ、それぞれ独立してるけど、だからこそお互いに対しての秘めてる想いがさ、きっと普通以上に深くて大きいなって」
樹の家族は、お互いが本当は信頼し合って、お互いを尊重し合ってて。
素直にそんな関係で想い合えるのが素敵だと思った。
「言葉にしないとわかんないけどね」
「うん。ホントはすごく想い合ってるのに言葉にしないことでそれが伝わり合わないのがもどかしいなとも思ってた」
「だよね。オレもなんかずっともどかしかった」
きっとそれも皆気付いていたんだろうな。
だけど、皆それぞれの立場、それぞれの想い合う気持ちを優先してしまうと、なかなかそれを言葉に出来なかったのかもしれない。
それは樹と私が今までの時間が必要だったように。
それまでの家族の関係性を変えるにも、きっと時間が必要だった。
今までそんな風に考えることなんてなかった。
その時の今が、すべてなのだと思っていた。
前でも後でもない、その時に感じていること、起きていることがすべてで、何の疑問も持たなかったけれど。
でも、樹と出会って、今だけがすべてじゃないことを知った。
今じゃなく、未来を選択することで、その今はすべてじゃなくなって、その今はツラい時間にも希望を持てる時間にも変化する。
その未来を信じようとすれば、どんな今も、希望が生まれて幸せへと繋がる。
だから、きっとどんな時間にも意味があって。
どこかの未来に、どこかの幸せに繋がっている。