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しの
なちょすん✌️
コメント
1件
今回も楽しいお話ありがとうございました!!先生の執着心?が結構やばい笑 帰る家がある、帰る場所があるっていいですね。続き楽しみにしてます!
窓に向かって全力で走った。後ろでは、黒い影が何人分もの足音みたいにザザザッと迫ってくる。
「どけぇぇぇっ!!」
叫びながら、肩から窓ガラスにぶつかった。
ガシャーンッ!!
ガラスが派手に割れ、冷たい外気が一気に流れこんできた。
本物の空気だ。
廊下のよどんだ息苦しさとは違う、ちゃんとした外の匂い。
(……やった、出られる!)
そう思った瞬間、俺は割れた窓の外へ飛び出した。
落ちる感覚がふわっと体を包む。
二階から飛んだはずなのに、なぜか地面に着地したときの衝撃はほとんどなかった。
「いって……でも、よかった……!」
痛む腕を押さえながら立ち上がる。
夜の校庭。
グラウンドの砂の匂い。
錆びた鉄棒。
壊れかけの体育館。
全部、昔と同じで……
……いや、違う。
静かすぎる。
風の音も、虫の声も、何もない。
そして胸の奥がざわつく。
「早く……出口、校門……!」
校舎を振り返る余裕もなく、俺は校庭を走りだした。
影が伸びて、灯りがついていないはずなのに、
自分の影がやけに濃く見えた。
(ここから出たら……みんなのところに……シェアハウスに戻れる……!)
そう思って、校門へ向かう。
——そのとき、背中に声が落ちてきた。
*——ゆあん。*
足が止まった。
校舎のほうから、誰かがこちらへ歩いてくる。
足音はない。
影だけが地面を滑るように近づいてくる。
*——どうして逃げるんだ?*
喉が詰まる。
息ができない。
逃げなきゃと思うのに、足が石みたいに固まる。
「……俺は、帰るって言っただろ……。」
声が震える。
でも、それでも言わなきゃいけなかった。
影は、俺の言葉に傷ついたように揺れた。
*——帰る?
帰るって……どこに?
君は、もう……そんな場所、忘れたんじゃないのかい?*
「忘れてない!!」
叫んだ瞬間、影がビクッと震えた。
「俺には帰る場所がある!みんながいる家が!……忘れるわけないだろ!」
息は荒く、涙がにじむ。
自分でも驚くほど感情があふれて、叫ばずにいられなかった。
影はその場でしばらく沈黙した。
そして——
まるで「なら証明してみろ」とでもいうように、影はゆっくり地面に広がった。
その瞬間、校庭がぐらりと揺れた。
「……え?」
次の瞬間。
——景色が、変わった。
さっきまで俺の目の前にあった校門は、跡形もなく消えていた。
代わりにそこに立っていたのは……
……また学校の入口だった。
「……は?」
頭がおかしくなるかと思った。
俺は確かに校舎の二階から飛び降りて、校庭を走って、校門に向かっていた。
なのに——ゴールが、スタートにすり替わってる。
世界がねじ曲がってる。
*——逃げられると思ったか?*
背筋が凍りつく。
校舎の陰で、黒い影がゆっくり形を変えながら立っていた。
校長先生の長い影のようにも見えるし、全然違う怪物のようにも見える。
*——君との約束だけが、私をここに留めていたんだ。
君だけが、私を“忘れていない”と思っていた。
だから……行かないでくれ。*
「……違う。そんなつもりじゃなかった。
俺、そんな……約束を……」
“また来ますね”
そんな軽い言葉ひとつが、こんな怨念みたいに変わるなんて。
影は、俺の返事を待つように揺れた。
*——ゆあん。
戻ってきなさい 。
ここが、君の帰る場所だろう?*
「——違う!!」
叫んだ瞬間、地面が裂けたような音が響いた。
影が怒りに震え、校舎全体が深くうなりをあげる。
その音に押されるように、俺はまた走り出した。
走れば走るほど、周囲が歪む。
校庭が曲がる。
校舎がぐねる。
体育館が逆さまに揺れる。
まるで、世界ごと俺を捕まえようとしている。
「やめろぉぉぉぉ!!」
叫びながら、俺はもう一度——
消えたはずの校門を探して走った。
たとえ、何度閉じ込められようと。
帰らなきゃいけない場所が、ちゃんとあるから。
*——逃がさないよ。ゆあん。*
その声が、すぐ後ろまで追ってきた。