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「キルーただいまー」
「おー……お帰り、兄、きっ!?」
ソファに座ってゲームをしていた俺は帰ってきたらしい兄貴に画面から目線を外さずに答える。
そういえば今日は誰かと飲みに行くとかなんとか、執事から聞いたなと頭の片隅で考えがら。
すると、さっきドアを開けて入ってきたばかりだったはずの兄貴が、俺にお帰りの挨拶を言わせる前に後ろから首に腕を絡ませてきた
ゲームに集中してた俺は、近づいてきた兄貴の気配に気付けず、驚いてゲームのコントローラーを落としそうになった。
「わっ、とっ、と!」
慌ててそれを掴み直す。
ホッとしてソファの背もたれにもたれ掛かる、が、次にキルアを襲ったのは今までで感じたことの無い首周りのぬくもりとアタマの上に何かが置かれている違和感、そして異様なまでの― 酒臭さだった
現状を理解した俺は一瞬固まる
兄貴に…頭乗せられてる!?!?
この体勢ではろくな抵抗もできないし、身動きすら取れない。
顔をギギギ…とぎこちなく上向かせて頭の上の兄貴と対面し、なんとか口を開いて悪態をつく
「…っ酒クセぇよ!兄貴!」
だがそんな文句は意味をなさなかった。
「ねぇキル、何のゲームやってたの?」
酒臭い、と文句を言ったのに帰ってきた言葉はこれである。
あ、ダメだ、これはもう言葉のドッジボールを覚悟するしかない、と俺は察っした
けど、そんな面倒なことはゴメンだ。
キャッチボールとは言わないから、受け取って意味を読み取って投げ返さなくていいから!!せめてピッチング練習によく使われている板並みに俺の言葉を飲んで欲しい
そう思い、呆れ半分で言い返す
「人の話聞いてんのかよ…………って、ああっ!!ゲーム…っ!!」
そして言い返してから気付く新しい事実。
兄貴がした驚きの行為に気がそれていたがその元凶の兄貴が帰ってくる前まで、自分はゲームをしていたのだ。
コントローラーを落とさなかったことに安堵しすぎた。
慌てて目線を兄貴から画面に移すとそこには無慈悲にもGAME OVERの文字が大きく表示されていた。
時既に遅しどころではない、もはやこうなっていて当然の結果である。
もう少しで勝てそうだったのにな……と内心落ち込むが、落ち込むよりも先にどうにかしなくてはいけない現状が俺をすぐに立ち直らせた。
「兄貴、いつまでそーしてんだよ!いいかげん離せ!」
「やだ」
「やっ、やだって何だよ!酒クセぇって言ってんだろ!?ほら、とっとと離れろ!」
「……わかった」
騒ぐ俺に観念したのか名残惜しそうに、寂しそうに首からスルリと離れていく腕に安堵と呆れのため息をつく。
…何だコレは、兄貴がここまで泥酔してるのは初めてだ。
こんな兄貴には遭遇したことがないから対処に困るし、絡まれるのもごめんだ、絶対にめんどくさいことになる。
俺はゲームを片付けていつの間にかソファに陣取った兄貴を置いて自室に戻ろうとした、が。
「どこいくの?キル?」
「っ……」
後ろから有無を言わさぬ声が俺にかけられた。
この声に俺の体は硬直する、そう今までしつけられたのだから仕方が無いが、決して気持ちのいいものではない
「……なんだよ」
嫌な汗をかきながら、背中越しに兄貴の方を見ると、いつも全開に見開かれてる真っ黒な目は酒のおかげで完璧にすわっている。
そして自分の座ってる場所の隣ををポンポンと叩いている。
……ここに来いとか、言わねぇよな。
言っていなくてもその動作はそーゆー事を意味している。
だけど俺は兄貴が声で命令するまでは動く気は無い、嫌だから。
そして少しの沈黙のあと、兄貴がやっと口を開いた
「キル、膝枕」
「…………は?」
俺が予想していた魔法の言葉、『ここにおいで』、じゃない……?!
……ん?ちょっと待てよ?膝枕……?なにそれ少し意味がわからないんだけど兄貴、何言ってんのかな、言ってる意味わかってんのかな???
「は?じゃないよ?キル。だから、膝枕」
さっきと変わらず同じ動作で自分の隣を叩く兄貴。
思考回路がかんっぺきに停止した俺は反応するのに少しの間が空いた
「は、はああああぁぁぁあああ!?!?」
この日が、キルアが今までで一番大きな声で絶叫した日になったことは言うまでもない。
俺が兄貴に膝枕!?俺が??あのイル兄に??膝枕ぁ!?!?
ありえない、と頭を抱えてその場に崩れ落ちる。
そんな俺なんか気にして無い風に、兄貴は片耳だけを抑えてうるさいと指摘してきた。
いや、誰のせいだよ。
俺の予想の範疇を何もかも超えてくる、泥酔した兄貴の行動
まさか兄貴の絡み酒がこんなにまで迷惑極まりないものだったとは思わなかった。
頭が痛いとでも言うようにこめかみを抑え、立ち上がって兄貴の方に向き直る
「兄貴、膝枕は流石にねーだろ!?」
「えー、ダメかぁ……じゃあだっこー」
……だっこ!?え、さっきよりも悪化しねぇか!?
「俺が兄貴をだっこなんてできるワケねーだろ!!!さっきより酷くなってんじゃん!」
「んじゃあ、おんぶー」
驚きがイライラにすり変わり、ボケ倒す兄貴にツッコミを入れるのにも限界が来た。
流石に無茶ぶりにも程がある、いや出来ないことは無いだろうけど!!
「だからそうゆう問題じゃねぇって言ってんだろ!!もう黙れよ!!イル兄!お口チャック!むしろミッ〇ィーちゃん!」
ビシッと効果音が付いているくらい、勢い良く兄貴を指さして黙らせようとした、が
「…そっかぁ…キルはどれもしてくれないのか…」
あからさまにションボリしたような兄貴を見て流石に良心的にうっ、となるものがあった。
「い、や、それは……その……」
「うん、キルも迷惑だったよね?もういいよ部屋に戻って」
「う……」
完全にいじけたそぶりをする兄貴に、俺はまるで悪いことをした子供が言い訳できずに出す、どもったような返事しか返せなかった。
キルアの中の良心が、そうさせたのだ。
一度芽生えた罪悪感は消えにくい、そしてそれに対して何か償いをしなくてはと思ってしまうのも仕方が無いし、その衝動には抗いづらい。
キルアはそれに弱いことを知っててとっている行動なのか、それとも単に酔っていて本当に何も考えずにとっている行動なのか……
多分後者なんだろうけど、どちらにしろ兄貴はずるい。
仕方ねぇな、と心の中で独りごちて覚悟を決め、兄貴の隣に何も言わずにドスンと勢いよく座り直す。
何?と言いたげにこちらを向いて首を傾げる兄貴に向かって俺はこう言った
「…その、膝枕くらいなら……まぁしてやんなくも、無い…けど」
最後の方は思ったよりも恥ずかしくて、うつむいて声も小さくなってしまったけれど、ちゃんと言えた……はず。
多分今、耳まで真っ赤だ
すると、隣からとても嬉しそうな明るい声がして
「……やっぱりキルは可愛いねー」
「っわ!ちょっやめろよ!」
その様子を見ていた兄貴にこう言って頭をなでられた。
何故こうなる。
そして太ももが重くなった、兄貴が頭を乗せてきたのだ
……あ、やばいコレ、予想以上にハズい
そして何故仰向けに寝るんだ、デレッデレの兄貴よ。
もろ目が合っちまうじゃねーかよ!!
覚悟はしていたが、やはり現状の理解と対処に時間がかかった。
「んー、キルの太もも柔らかくて気持ちいい」
そう言って俺に擦り寄る兄貴、はっきり言って少しくすぐったいからやめて欲しいです、はい。
「っバカ!そんな感想いちいち言うなっつーの!」
「いやー、まさかキルが本当にやってくれるなんて思ってなかったよ。ありがとう」
……やっぱりアンタ仕組んでたな。
「おかげでキルが照れてる顔とかよく見えるよ。最高の眺めだねぇ、ココ」
俺の左頬に冷たい手がスルリと触れる
その触れ方に、どうしようもなく恥ずかしくなって
口元を抑えてうつむいて、なんとか羞恥をこらえる。
やめろ、今必死に後悔と羞恥に耐えてんだから、言葉攻めすんな、俺を褒めんな、デレデレしすぎだろイル兄。いやもうコレは、イル兄じゃなくて、デレ兄だろ。
わかった今度から酔って絡まれたらデレ兄って呼ぶことにしよう、決まりだな
我ながらいい呼び名を考えついたな、と一人、混乱した頭でうんうんと納得している間に兄貴……もといデレ兄はそのまま寝てしまっていた
規則正しい寝息を立てる兄貴、顔にかかってる髪の毛をそっと払い除けてやる
酒のせいで少し頬が赤い、綺麗な顔だ。いつまでも見ていられそうなくらい
前々からそう思っていたけど、改めてそう思った
けどいつまでも見ているのはダメな気がして、俺は執事を呼んで毛布と水を持ってくるように頼んだ。
なんだか今日は兄貴の意外な1面が見れた気がして、少し嬉しかった。
案外、兄貴も可愛いところあんじゃんとか思いつつ衝動的に頭を柔らかく撫でているとう…ん、と唸ったのでヤバイ、起こしちゃったかな?と焦ったが、酒による眠りは深い。そのまま、また規則正しい寝息を取り戻した
そこに執事が戻ってきたので、水は机に、毛布は兄貴にかけるように頼んだ
「ん……キル…だっこ……」
「……っくく、夢でもまだそんな事言ってんのかよ…」
しばらくして漏れでた寝言に自然に笑いがこぼれた。
ったく、可愛いのはどっちだよ兄貴
兄貴に対してこんな感情を抱く日が来るとは夢にも思ってなかったが、仕方が無い、事実なんだから。
そして俺もウトウトしはじめて、いつの間にか一緒に寝ていた。
やがて朝になって昨日の夜の事を覚えているキルアと忘れているイルミが、しばらくの間、どういう事かと問い詰められ、それに対して知らばっくれて逃げ回る毎日を送るのはまた別の話―