テラーノベル
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それから四日後。
バタッと床に倒れる音が聞こえてきて目が覚めた。
起き上がって部屋を見渡すと、トオルが手足を大の字に開き、仰向けになって倒れていた。
心配になった私は急いでベッドから出て向かう。
「どうしたの!? 大丈夫?」
近づいてみるとすっきりとした顔で笑っていた。
「大丈夫です」
手を取るように差し出すと、トオルはすぐに握ってくれた。
そして、立ち上がってから片腕を支えて体を伸ばす。
「やっと……、やっと……、終わったー!
これで悔いはありません」
キャンバスに掛けてある絵を見ると、皆が憧れる場所を表現した作品が出来上がっていた。
木と花が植えられている美しい街並みを笑顔で歩く人々、ピンク色で塗られた淡い空。
遠くには山があって、そこから水が流れており、自然の素晴らしさが描かれている。
水彩絵の具でふわりと塗られていて、優しくて温かさも感じた。
まるで天国のような世界だ……――
「素敵な絵だね。
見ていると、私もこういう幸せそうな場所に行ってみたいなって思う」
「誰もが幸せを感じる世界が、憧れる場所なのかなって思ったんです。
スノーアッシュだけではなく、この世界のすべての人が笑顔になる日がくるといいんですけどね」
トオルも私たちと同じ想いをしていそうだから、あの事を話してみよう。
「私はこの世界の戦争を止めたいと思って旅を始めたんだ。
すべての国に行って、王子と話して、この世界を変えたい。
トオルはこの世界のすべての人の幸せを考えているんだよね。
協力してもらえるかな……?」
グリーンホライズンとクレヴェン、そしてスノーアッシュ。
この三つの国が、手を取り合ってくれたら、世界の平和にまた一歩近づけることになる。
私はそのために、レトとセツナから離れることを選んでこの国に来たのだから……。
「スノーアッシュも他国と和平を結べということですか……」
「お願いします」
難しいことを頼んでいるのは分かっている。
でもこれが今、私にできることだ。
深々と頭を下げてトオルの答えを待つ。
「今は自国の王のことでいっぱいですが、考えてもいいかもしれませんね。
文明や民のことを思うと、すぐにはできませんけど……。
芸術を楽しめる国にするためには、他国との交流も大切ですよね。
色んな価値観や世界観を見て、互いの国をより豊かにしていく。……悪くないです」
「それじゃあ……!」
「ボクが王になりましたら、世界の平和のために協力することを誓います」
「わぁ……! ありがとう、トオル!」
「かけらさんが教えてくれたからですよ。
たくさんの人に、幸せを描いたこの絵を見てもらえるといいな……。
ボクとかけらさんの思い出が詰まったこの絵を……――」
トオルは完成した絵の方を向いて、寂しそうに目を細めていた。
その様子を見ていると、こっちまで同じ気分になってくる。
これで地下の部屋での生活は終わりなのだから……。
「最初は、かけらさんのことをよく知らないでプロポーズをしていました。
でも、今は心から結婚して欲しいと思っています」
「ほっ、本気ってこと……?」
私の肩に触れたトオルは、穏やかな顔つきで目を合わせてくる。
会ってからすぐにされたプロポーズよりも、ずっと甘いものになっているような気がした。
ゆっくりと顔を近づけてきたトオルは私の頬にそっと唇で触れてから、真っ直ぐに見つめてくる。
「ボクはかけらさんのことが好きです」
「トオル……」
「答えは、かけらさんがこの世界の真実を知ったあとでいいです。
……だから、今は聞かないでおきますね」
その後、トオルの顔をよく見ることができないまま時間が過ぎていった。
初めて頬にキスをされて、告白された……。
誰かに告白されて、キスをされることにずっと憧れてきたけど混乱してしまう。
私はどんな顔でトオルを見たらいいんだろう。
今は恥ずかしくて堪らない。
告白の返事はなんて言おうか……。
とりあえず、ここはトオルの言葉に甘えることにしよう。
昼ご飯の時間になっても、ドキドキしてお腹が減らない。
でも、他国が食糧難の中、用意してもらった食事をいらないと言えない。
残さないようにするため、無理矢理詰め込むように食べた。
食事をしたあと、ついに荷物をまとめて帰る準備を始める。もうすぐお別れの時間だ。
今、トオルはどんな気持ちでいるんだろう。
近くにいるけど、意識してしまって前のように話せない。
そう悩んでいた時、シエルさんが部屋に入ってきた。
「トオルの臣下から聞いたぞ。
絵が完成したんだな」
「はい。用事が済んで落ち着いたら、シエルもボクの描いた最高傑作の絵をゆっくり見てくださいね」
「ああ。楽しみにしておく。
今は、時間が惜しいからすぐに出発する」
「分かりました。
あっ、そうだ。
次の旅でシエルに役に立つと思う物を用意しました。
このリュックに入っているので持って行ってください」
「助かる。計画の方は任せた。
行くぞ、かけら」
「またね、トオル……」
「はい。また会いましょう。
かけらさんが望む世界に辿り着けますように……」
お辞儀をしてから微笑み、手を振ってくれたトオル。
素敵な思い出ができた地下の部屋から離れるのが寂しく思える。
でも私は戦争を止めるために、前に進まないといけない……――
部屋の外に出て、シエルさんに案内されながら道を歩く。
外の寒さを感じるのは久しぶりだ。
ぶるぶると震えてしまうけど、目的を達成することができたから足取りが軽かった。
「それで……、トオルと結婚するのか?」
「えっと……。まだ決めていません……」
「なんとなくそんな気がした」
「ついでにシエルさんのことも少し教えてもらいました。
今は……、信じてもいいかなって思います」
「そんなことを言っても、俺はかけらのことを女として扱わないぞ」
「分かっています。
心に決めた人がいるからでしょう」
少し前に出てシエルさんの顔を見ると、眉間にしわを寄せていた。そして、頬も赤くなっている。
もう恋人に会うことはできないけれど、今でも愛しているんだ……。
「まったく。他人の顔をじろじろ見るな」
「はい、分かりました。
ところで、今向かっている先はレトとセツナがいる場所ですよね?」
「ああ、約束だからな。
だけど、もう一つだけ俺から頼みがある」
「次は何なんですか……!?」
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