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前にスタッフ二人、後ろに俺と若井を乗せた車が病院の敷地を出る。

「元貴、涼ちゃんのご両親明日のアサイチでこっちに来るらしい。」

「そっか。家族がそばに居れば安心だろう。」

「それと、速報出てた。」

「速報?」

ほらっと若井がスマホの画面を見せてくる。ニュースサイトに速報で『Mrs.藤澤トラックに撥ねられ緊急搬送!!』と書かれてあった。すると助手席に座っていたスタッフが

「明日は多分病院に記者が来ると思うので、出入りは今日入った裏口から行きます。あそこから入ればすぐに特別病室までの直通エレベーターがあるので。」

「特別病室?」

確かに最上階で広かったし内装も豪華だった気がする。

「所謂政治家や芸能人の為の部屋でして、上層階に上がるには専用のエレベーターに乗って更にカードキーが必要なんです。」

スタッフはカードキーを見せた。

「3枚申請して、一枚は藤澤さんのご両親にお貸しする予定で、残りの二つは事務所保管になります。なので藤澤さんのお見舞いに行くときは事務所スタッフと一緒に行ってください。」

「すげぇ、ドラマみたい。」

無邪気にはしゃぐ若井。いやいや、スタッフと一緒って….。

「まぁまぁ、元貴。面倒かもしれないけど、涼ちゃん守るためだよ。それに、時間がある時は送り迎えだけしてもらったらいいじゃん。」

再びの若井ウィンク。なんか….

「殴りたい、その笑顔。」

「急に物騒なこと言うなよ?!」

「ごめんごめん。」

「あ、明日泊まりに来ていい?俺たちも今後のこと話し合っておこう。」

「分かった。明日は9時くらいには帰ってるからその頃一度ライン頂戴。」

「OK。」

若井を乗せた車が去って、俺は自宅へと戻った。

「電気付けっぱなしだ….。」

全部屋の電気がつけっぱなしだった。急いでいたというのもあるけど、あの時はまだ涼ちゃんの状態がわからなかったから、叫び出しそうになるのを必死で抑えて冷静を装ってたんだ。

電気を消して回り、シャワーを浴びてベッドに入る。眠れるか不安だったけど、精神的に疲れていたせいか、意外とすぐに眠ってしまった。



次の日、仕事の合間スタッフに涼ちゃんのお見舞いに連れて行ってもらった。

一応ノックをして扉を開けたら、ベッドの上に座っていた人物がゆっくりこちらを向いた。

「涼ちゃん?!」

大丈夫とは聞いていたが、ちゃんと起きた姿を見ると改めてほっとする。

しかし、涼ちゃんはというと逆に戸惑ったように

「えっと….どちら様ですか?」

「!?」

あ、そっか。記憶が….。分かっていたけど、胸が痛む。

俺はスタッフを見て

「ごめんなんだけど、ちょっと水買ってきてくれない?」

「分かりました。」

察してくれたスタッフは部屋を出て行った。俺は涼ちゃんに向き直り

「藤澤さん。」

「は、はい….。」

涼ちゃんの瞳に怯えの色が宿る。

あぁ….そんな顔させたいわけじゃないのに….

「俺は大森って言います。」

「大森….さん。」

「そういえばご家族は?今日アサイチで来るって聞いたけど。」

「両親は食事に行ってます。」

「そっか。それで藤澤さん、事故の事覚えてる?」

「ランニングしてた….けどなんでしてたのかは….。」

貴方が太ったから痩せるためだよって言いたい(笑)

「その事故が原因で記憶障害出てるのは聞いてるよね?」

「はい….。」

「でもバンド活動していたのはなんとなく覚えてると。」

「でもしてたっぽいってだけで、細かい事思い出そうとすると頭にもやがかかったみたいになって….。ごめんなさい….。」

「いや、責めてるわけじゃないよ。ってか、俺の方が年下だから敬語とかいらないから。」

「あの、大森さんは僕の友達?」

「友達….。」

結構胸にグサッときたよ、今の。

「違うの?」

「うーん….。」

言おうか迷ったが、今色々言って余計な混乱させない方がよさそうな気がする。

「友達も間違ってないんだけど、バンドメンバーでもあるかな。」

「そうなんだ!?あ、じゃぁもしかして”元貴”君?」

「そう。大森元貴です。」

「そっか。親からチームのこと聞いたら、すごいVo.の人だって。」

メンバーの親からそう言われるの、なんかムズムズする….。

「もう一人がGt.の若井君。で僕がkey.なんだよね?」

「そうだよ。」

「たまたま当時の僕の見た目が大森さんのビジョンにマッチして、チームに誘われたって。」

「うん。一目惚れだった。」

「え….?」

「金髪でふわふわした雰囲気の年上がよかったから、藤澤さん見て”この人だ!!”って。いやーあれはマジで運命を感じたね。」

「なんだ、そっか….。」

「どうしたの?」

すると、涼ちゃんはふふふと笑った。

「一目惚れとか言われたからびっくりしちゃった。」

まだどこか他人行儀ではあるが、笑顔は”涼ちゃん”の面影があった。

「ねぇ、藤澤さん。」

「なに?」

「”涼ちゃん”って呼んでいい?」

「うん。いいよ。」

「俺のことも”元貴”って呼んで。」

「”元貴”。」

「うーん….30点。」

「30点?」

涼ちゃんはね、俺の名前を呼ぶ時はふわふわと幸せそうに笑うんだよ。

「思い出すかもしれないから、今度から名前で呼んでね。」

「元貴君でいい….?ちょっとまだ慣れなくて….。」

「大丈夫だよ。焦っても仕方ないよね。ごめん。」

「ううん。僕の方こそごめんね。若井君のことは何て呼んでたの?」

「若井は若井。若井は俺の幼馴染みでずっと”若井”だったからそれがメンバー内で定着したんだよ。」

「そっか。流石に苗字呼び捨ては抵抗があるな….。」

その時扉がノックされ、スタッフが入ってきた。

「大森さん、そろそろ時間が….。」

「マジか。涼ちゃんのご両親に挨拶しておきたかったけど….。」

しゃーない。時間が取れた時にするか。

「じゃあね、涼ちゃん。また来るから。ご両親によろしく伝えておいて。」

「うん。ありがと、元貴君。」



その日の夜、約束通り若井が泊まりに来た。

今日若井は時間を作れず、涼ちゃんに会いにいけなかったらしいので、涼ちゃんの様子ややり取りを若井に話したのだが….。

「え?!付き合ってるって言わなかったの?」

若井の言葉に俺はため息をついた。。


そう、涼ちゃんはれっきとした俺の恋人。


知ってるのは若井だけだけど、チーフマネージャーあたりは感づいてるかもしれない。

「当たり前だろ。忘れてるのに言えるわけないじゃん。余計混乱するだろうし。」

「でも、脳にはいい刺激になると思うんだけどなぁ。」

「刺激が全部いいとは限らないだろ。」

涼ちゃんはMrs.がストレスで忘れてる可能性だってあるんだから。

あ、俺がストレスだったらどうしよう….。そうだったら立ち直れない….。

「元貴?どうしたのそんな眉間にしわ寄せて。」

「いや別に。今後のことだけど、涼ちゃん回復した後表向きは大事を取って休養ってことにして、涼ちゃんがOKなら身内オンリーの練習とかには参加してもらおう。キーボードの上達次第ではレコーディングに入ってもいいし。」

「今の涼ちゃん、キーボード初心者でしょ?最近の曲弾けるかなぁ….。」

「無理強いはしない。なるべくストレスかけさせたくないし。」

「夏彦さん達には言うの?」

「言わないと練習できないじゃん。いくら涼ちゃんが天然だって言っても「キーボード弾けません」じゃそれこそ頭打った?ってなるよ。」

「それもそうか。一朝一夕の間柄でもないし、”涼ちゃんだしなぁ”で済むかもね。」

「そうなんだよ。”涼ちゃんだしなぁ”で済むから記憶ないまま復帰が可能かもしれない。」

「それは元貴的にどうなの?」

「涼ちゃんが望むんならいいけど、俺的にはちゃんと記憶取り戻した後にMrs.を続けたいかどうかを聞きいた上で、復帰するか否かを決めたい。」

「記憶戻った涼ちゃんが『続けるのはちょっと….』ってなったら….。」

例え話でも明確な言葉を使いたくないのは俺も若井も同じらしい。

「そうなったら裏方に回ってもらう。涼ちゃんいなくなるなら高度な技術持った音楽スタッフは必要になるじゃん。それならそのまま涼ちゃんがスタッフに転身すれば、表に出ることなくなって俺たちが完全に盾になれる。」

「『音楽スタッフもちょっと….』」

「俺の付き人にする。」

「なんだよそれ(笑)」

「涼ちゃんがいてくれるだけでいい。」

「あれ?いつの間にか惚気を聞かされてるんだけど?」

「お前も似たようなもんじゃん。」

「え?」


”俺たちが盾になれる”


俺の言葉を否定しなかった

それどころか気づいていない

涼ちゃんとの間にある感情はそれぞれ違うけど

俺たちの中で涼ちゃんは”大切な人”っていう共通認識


いや….、俺達それぞれが”大切な人”


だからお前も惚気てるんだよ

”大切な涼ちゃんを守るんだ”って


「若井がいてくれてよかったよ。」

「素直な元貴気持ち悪っ。」

「人が珍しく素直に感謝してんだからさぁ!」

「あ、じゃあ涼ちゃん記憶戻ったら3人で夢の国行こう。元貴のおごりで。」

「いいねぇ。」

「いいんだ。デートとかじゃなくて。」

「夢の国はデートで行くには夢中になりすぎるんだよね。友達数人とが丁度いい。」

「なるほど。」

「リー〇・〇ルのカチューシャしてくんないかな、涼ちゃん。」

「それただのConcept photoじゃん。」

僕が消えるその日まで

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