「あの…どうして名前をきっ‥」
「ありがとうございました。また明日、隣の席で…」
彼女はそれだけ言うと、この場を立ち去ってしまった。
全く意味がわからなかった。
しばらく彼女の後姿を眺めていた。
何だか調子が狂ってしまったけど、僕もその場を離れようとした。
「あれっ!?」
「すいません。今ここで誰かに何か話しかけられませんでしたか?」
僕の目の前には…今さっき帰ったばかりの彼女?がいた。
「話しかけられましたけど…」
僕は少し不機嫌そうに答えた。
「そうですか…あなたが…‥」
それだけ言うと彼女は黙って僕を見ていた。
「あの…」
「ごっ‥ごめんなさい。初対面なのに、突然訳のわからない事を聞かれて驚きましたよね」
彼女は、深々と頭を下げ謝っていた。
先程の彼女とは雰囲気が違っていた。
でも…見た目は、ほとんど同じだった。
違うのは髪型だけ…。
先程の彼女が、長い髪を下ろしていたのに対し、目の前の彼女は長い髪を後ろで縛っていた。
「いぇ…大丈夫です」
「私の名前は佐藤亜季と言います。先程の私とそっくりな女の子は、私の双子の姉で、名前は葵です」
「双子ですか…」
双子…見た目はソックリだから、お互いが入れ代わっても、きっと誰にもわからないんだろうな。
「時々、遊びで入れ代わったりして、驚かしたりした事もありましたよ」
「見た目はそっくりですもんね」
でも、見る人がみればきっとわかってしまうんだろう。例えば身近な存在の母親とか。
「お母さんは、直ぐに見抜いてしまうんですよ」
「やっぱり親ってすごいんですね」
何か違和感があった。
「あっ…いけない…‥」
「何がですか?」
「いえっ…何でもないです。気を付けます」
「はぁ?」
何を気を付けるというのだろう?
もしかしたら、からかわれているのかもしれない。
「そんなんじゃありません。私はただ、葵ちゃんの相手がどんな人か気になって…別にからかってる訳じゃないんです」
「葵ちゃんの相手? 僕が?」
「ちっ‥ちがうんです。そうじゃなくて…。あっ、あの…‥」
「別にいいですよ。無理して答えなくても」
彼女を困らせたい訳ではないし、僕は先程の彼女より、今目の前にいる彼女の方が気になる。
「えっ!?」
彼女は、何故か顔を赤くしていた。
でも、そんな彼女も可愛かった。